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309 神話を越えて

 そして最後は、僕の口から締めくくるべきだろう。


 僕――、クロミヤ=ハイネ他一団による地母神マントル救出作戦は、いまだ実行中だった。

 というより、一発決めれば終わりというだけの簡単なミッションのはずが、その一発がまったく決まらないため延々と引き延ばしにあっている、という状況。


「…………」

「…………」

「……………………!!」


 僕と共に、一緒にミッションに挑戦するヨリシロやシバも無言になっていた。

 何度繰り返そうと好転しない状況に、心まで疲弊しているのだ。


 ここ、誰も足を踏み込まない死の危険地帯『無名の砂漠』。

 その奥底に安置されたブラックホールの中に、地母神マントルが封じられていたらいいなあ、と思っている。

 確率的にはブラックホールの超重力で魂まで潰されて消滅していたり、もしくは超重力で極限まで歪んだ空間の穴から別の世界へ放り出されていたりとか、そういう可能性もあるのだが。

 マントルがこちらの世界へ帰還できる可能性に賭けて。僕たちは闇属性に唯一対抗できる光の神気で、ブラックホールの核を撃ち抜こうとチェレンジすること……何回目だっけ?


 何百回? 何千回?


 光の女神の転生者であるヨリシロが、ブラックホール核を唯一破壊しうる光の神気を撃ち出し、それを僕やシバがサポートして核に命中させようとするのだが、まったくもって上手く行かない。


 そもそも、極小体積に圧縮すれば圧縮するほど重力を増すのがブラックホールの仕組み。

 だからこそ核の大きさは、砂粒一つの何百分の一より小さいと考えていい。

 そんなのを狙い撃ちすること自体至難の業だというのに、ブラックホール周辺は光すらも捕えて返さないので、核の位置を正確に知る手段がない。


 風の銃操術を修めたシバの命中精度をもってしても、できることとできないことがあった。


「ああ……、もう、また失敗ですか」


 本当に何千回目かわからない試射を徒労に終えて、ヨリシロはウンザリとため息をついた。


「体中が汗と砂でベットリ……。ねえ、そろそろオアシスへ移動して一休みしませんか? 水浴びしてスッキリしたいですわ」

「またか!? ついさっき休憩したばかりじゃないか!?」


 失敗に失敗を重ねているため、皆心が荒んでイライラしている。

 普段から仲の悪いヨリシロとシバも、いつも以上に些細なことで険悪だった。


「女の子の体はデリケートなのです。こんな過酷な環境下だからこそ、こまめな労りが必要なのです! ……あーもーッ! 誰なのですかクソ暑い砂漠なんかにブラックホールを置いたのは!?」


 ヨリシロがいつもとは違うキレ方をしていらっしゃる……!?

 これは精神的にかなり追い詰められている証拠だった。


「大体シバ! アナタさえいなければ私とハイネさん二人きりで水浴びできてキャッキャウフフできたのに! アナタのおかげで男女別の交代制ですよ! 余計なんですよ何故いるんですか!?」

「お前らが一緒に来いと言ったからだろうが! 俺だって貴様の裸なんか見たくねーよ! 水浴びするならジュオと混浴したいわ!!」


 いかん……! 二人とも暑さとままならなさで相当テンパっている!?

 懸けた時間を無駄にしたくなくて、ここまでズルズル粘ってしまったが、そろそろ見切りをつけなければならないか……!


 マントル救出は無理と諦める。

 魔王たちの動向が余談ならないことを考えれば、これ以上時間を無駄にすることはできない。

 一刻も早く戻って対魔王の備えに徹するのがベストではないがベターな選択じゃないだろうか。

 マントルを救おうという僕たちの選択は最初から間違っていたのか?

 そこへ……。


『フン、景気の悪い顔つきではないか。者ども』

「皆さん、マントルを助け出すために死力を振り絞っておられるのです。お疲れなのは無理もない」


 ……ッ!?

 僕たち以外誰もいないはずの『無名の砂漠』から聞こえる声。

 何事かと振り返ってみたら、そこには二体のモンスターが並んでいた。


「炎牛ファラリス……! それに……!?」


 見覚えがあるぞ、あの人型の、水棲生物のような印象を持ったモンスター。

 水魔メフィストフェレス。

 かつて水の神コアセルベートが、地上での自分用の体としたモンスターじゃないか!?

 では、ここに現れたのは……!


「コアセルベートと、ノヴァなのか!?」


 創世六神の中でも人間を侮り、敵対する派閥の二神が何故ここに!?


「……さて、ではアナタに最期を迎えていただくことにしましょう」

『げべぇーーッ!! 離せ、離せェーーーッ!!』


 メフィストフェレスの手の中でジタバタもがくトカゲが一匹。

 あのトカゲから出ている魂の声は、間違いなくコアセルベートのもの。

 コアセルベートが二人?

 一体どういうこと!?


「汚れた私よ。あの眼前に広がる奈落。アナタの墓穴としてこれ以上なく相応しい」

『ま、まさか貴様……!? やめろ! 何故そんな酷いことを!? 私は貴様なのですよ!?』

「人との繋がりを断ったアナタは、もはや神ではない。従って水の神たる私でもない。魍魎は祓われるべきです」

『やめろぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?』


 トカゲ側の死に物狂いにもかまわず、メフィストフェレス側は全力投球のフォームでトカゲを投げ飛ばした。

 すべてを飲み込むブラックホールへ向けて。


『うぎぃぃぃーーーーーーーーーーーーッッ!?』

「今ですインフレーション! クェーサー! あの汚れた私の魂が砕け散るところにブラックホールの核はあります!!」


 ッ!? そうか!!

 本来重力に囚われることのない非物質の魂。その行く末を辿るぐらいなら、ブラックホールの外からでも窺える。

 ブラックホール外から中を調べる唯一の手段……!?


「シバ! かまえろ! チャンスは一度だけだぞ!!」

「くッ、何なんだこの展開は!?」


 シバは戸惑っているが、僕だって戸惑っている。

 しかしそれでもこの機を逃すわけにはいかないので、二人で空気レンズと重力レンズを並べる。


『分裂したばかりの汚濁コアセルベートは弱っておる! 魂単体でシュワルツシルト半径にしがみつく力は残っておるまい! つまり、ヤツの魂は確実にブラックホールの中心で砕け散る!!』


 ノヴァまでアドバイスしてきやがった!?

 一体どうなっているんだ!?


「その瞬間を狙って……、『聖光穿』!!」


 ヨリシロから放たれる光の一閃。

 それは僕とのシバのレンズを通り、シバの射角調整であやまたずトカゲコアセルベートの魂が砕け散った一点に飛び込む。


 ブラックホールの中に入り……。

 …………。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!?


「きゃあああああああああああーーーッッ!?」

「やったか!?」


 ブラックホールが砕け散った。

 光の神気によって格を消滅させられ、今までシュワルツシルト半径に囚われていた光が一斉に解放され、四方八方へと散っていく。

 凄まじい大爆発だ。

 ここが砂しかない『無名の砂漠』でなければ、今ので街一つくらい消滅してた。

 僕たちは神の力を全解放することで身を守ることができたが。超重力で掻き集められていた空気が反動で大膨張し、凄まじい爆風が吹き荒れている。

 そこへ……。


「……あだッ!?」


 なんか蛍光色の巨女が、爆風に乗りながら降ってきた。砂の上に思いきり尻を直撃させる。


「あれはマントルの『フェアリー』!?」


 地母神マントルが地上での活動のために作り出した仮初の体。

 最初からそれが目的だったとはいえ……、随分あっさり生還してきた!?


「あいたたたた……。……あれ? どうしたんですか皆さんお揃いで?」

「「「「『え?』」」」」


 とマントルから言われて、改めて気づいた。

 そこに集った六人に。


 まずは僕、クロミヤ=ハイネこと、闇の神エントロピー。

 次に光の教主ヨリシロこと、光の女神インフレーション。

 風の教主トルドレイド=シバこと、風の神クェーサー。

 炎牛ファラリスこと、火の神ノヴァ。

 水魔メフィストフェレスこと、水の神コアセルベート。


 そしてたった今降ってきた地母神マントル。


 まったく予期していなかったことだが、これもしかして……。

 千六百年の時を越え、今ここに世界の創造者――、創世六神が勢揃いした!?

※更新スケジュール変更のお知らせ

現在一日一回更新しております本作ですが、次章「地の神勇者編」から二日に一回のペースに変更させていただきます。

次回310話は3/14、20:00の公開予定です。

まことに勝手ながら、ご理解ご了承いただきたく思います。


また代わりと言っては何ですが、同作者の新作「戦神ユキムラの来世は平和領主」が3/13、20:00より二日に一回のペースで連載予定です。

よろしければ本作共々よろしくお願いいたします。

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