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304 火悔水

「きゃああああああッッ!?」


 超高熱に煽られて、私は一瞬、自分が炎の中に投げ込まれたような錯覚に陥った。

 火の神勇者となったミラクちゃんと、火の魔王ミカエルによる極大神気放出技。


 私――、コーリーン=カレンは二人の背後に位置し、直撃など絶対来ない安全圏にいるというのに余波だけで真っ黒焦げになりそう。


 ならば正真正銘の直撃を受けたコアセルベートは、一体どうなったのか!?


「ホホホ……! ホホホホホホホホホッ!」


 このいやらしい笑い声、まさか!?


 コアセルベートはまったく無事だった。

 ガブリエルの体を用い、その両手を前にかざして大量の水流を放っている。

 その大水が、ミラクちゃんとミカエルの放つ炎を片っ端から鎮火している!?


「これだから! これだから火の連中は愚かだというのです!! 神気の相性において火が水に勝てるわけがないというのに!!」


 火の神勇者と火の魔王。火属性にかけては間違いなく究極の二人が協力しているというのに、水の神魔王を傷つけることもできない。

 やはり相性のとは絶対なの!?


「私に勝ちたいのならば一度撤退し、水属性に強い地母神か地の魔王でも連れてくるべきだったのです! あるいはエントロピーでもね! それが知略というものです! それらを無視し、気合と根性だけで何とかなると思っているからアナタたち火属性はバカなんですよ!!」


 コアセルベートの主張に返す言葉がなかった。

 私たちはやはり、選択を間違えたの?


「敵わぬからと早々に諦めるのは熱血ではない……! そうだなカタク=ミラク!?」

「そうだとも! 知略などとは臆病者の逃げ口上だ! 火の神勇者と火の魔王、究極の二人が揃っておいて逃げ出しては火の神ノヴァの信徒の名折れ!!」


 ミラクちゃんもミカエルも引き下がらない。

 ……っていうかなんであの二人あんなに息が合ってるの?


「ええい! 事実を受け入れ得られぬバカどもめ……! ならばまとめて始末してくれましょう! 魔王は役立たずの道具として! 人間の勇者は、リサイクルもできぬ正真正銘のゴミとして!!」


 コアセルベートから放たれる水流の量が、さらに上がる。


「「ぬぐぅぅーーーーーーーーーーーッッ!?」」


 ミラクちゃんもミカエルも死力を振り絞って炎を放ち、それによって襲い来る水流を蒸発させ、なんとか拮抗状態に持ち込んでいる。

 ジュワアアアアアアアアッッ!! と。

 蒸発によって生まれた水蒸気が舞い上がる。

 周囲は蒸気で濛々と、野外だというのにサウナ状態だった。


「ホホホホホ! 魔王だ神勇者だなどと息巻いても、今の私はその両方を兼ね備える神魔王!! 二人がかりだろうと勝てる道理はないのですよ!!」


 いつでも拮抗状態を打ち破れるとばかりにコアセルベートは余裕たっぷりだった。


「ついでにいいことを教えてあげましょう。私はあちらの『エキドナ泉』から無尽蔵にエネルギーを補充できる。何せアレの正体は、数万の人間を溶かして作った『生命原液』なのですから」


 たしかにわかる。あの赤紫色のプールから、何かエネルギーのようなものが浮かびたち、空中を通ってコアセルベートへ流れ込んでいる……!?


「神魔王の力、無尽蔵のエネルギー、おまけの神気の相性。私にはここまで勝つ要素が揃っている。それを無視して戦うアナタたちはバカ以外の何なのです?」


 ジュワアアアアアアアアッッ!!

 濛々と水蒸気が溢れだす。

 もう、私の位置からは戦う彼らの姿が遮られて見えないほどに。


「クソッ……! あの水神に流れ込むエネルギー、ムスッペルハイムの戦いで見たのと同じだな……! つまりあれもウシのヤツを強化した、人の心の力……!」


 ミラクちゃんにも、あのエネルギーが見えている……?

 でも……、ああっ、もう! 水蒸気が濃くなって私からは益々何も見えない!?

 視界の隅から隅まで白くモワモワしているだけ!?


「さあ終わりです。己の愚かさを呪いながら死になさい……!!」

「バカはアンタだっつの!!」


 えッ!?

 その声はシルティスちゃん!?

 どこにいるの? 水蒸気が邪魔でまったく見えない!


「ここよ! ここ!」


 よく目を凝らすと、シルティスちゃんは調整池の岸辺でしゃがみ込み、両腕を『生命原液』に突っ込んでいた。

 ……いいえ、ちょっと待って?

 シルティスちゃんの両腕の、肘から先がない!?


「貴様! みずからの腕を『生命原液』に変えたのですか!?」

「こちとら水の勇者、教団最高の神気使いなのよ! 基本的に体を水に溶かす方が、元に戻すより簡単みたいね!」


 でも何故そんなことをしているのシルティスちゃん!?


「体の一部を『生命原液』と混ぜ込み、『エキドナ泉』とリンクするつもりですね!? そして私へのエネルギー供給を妨害しようと!?」


 コアセルベートが、シルティスちゃんの狙いを見抜いて慌てだす。

 なるほど、とにかくコアセルベートの無限エネルギー供給だけでも遮断できれば、ミラクちゃんたちが有利になる?


「残念ハズレ! その逆よ!!」

「「ええッ!?」」


 私までコアセルベートと一緒に驚きの声を上げてしまった。

 一体どういうことシルティスちゃん!?


「言ったでしょう! アンタを愛してあげるって! それはハイドラヴィレッジに住む数十万人も同じ! 今、水に溶かされている人たち! その人たちの、アンタへの純粋な信仰を! 愛情を! アタシが引き出しまとめてアンタに叩きつける!!」


 シルティスちゃん、そのために『生命原液』とリンクを!?

 相手のエネルギー吸収ラインを逆手にとって、そんな手を思いつくなんて!?


「さあ、心の汚れきったアンタに、人の心の一番綺麗な部分が耐えられるかしら!? ちょっと試してみたいじゃない!?」

「何をバカな!? 人の心などどこをさらっても薄汚れています!! 貴様のすることなど徒労でしかないのですよ!」

「だったら徒労してやろうじゃないの!!」


 シルティスちゃんの気合と共に、赤紫色の『生命原液』の湖面が眩く輝いた。

 同時に噴出する心のエネルギー。

 人の心の純粋な部分だけを集めたエネルギーのエッセンスが一直線に……、コアセルベートへと……!

 ……。

 ……行かなかった。


「へ?」「え?」「は?」「なッ!?」「お?」『なんじゃッ!?』


 全員が素っ頓狂な声を上げて、予想外の事態を見守る。

 シルティスちゃんの放った綺麗な心のエネルギーは空中に留まり、整った光球となる。

 さらに異変が続いた。

 モワモワとした蒸気。

 ミラクちゃん&ミカエルの極大炎で、コアセルベートの水流を沸騰させたもの。真っ白な水蒸気がそこら中に充満していたが、その蒸気が光球に向かって一点に集まり出した。


「何よ……!? 何が起こるっていうの……!?」


 誰も今起きていることの意味を説明できないし、推測もできない。

 やがて異変は、最終段階に入った。


 集まった蒸気が、人の心の結晶でもある蒸気を飲み込み、一つの形にまとまった。

 まるで人のシルエット。

 人の形をした蒸気が、空中に漂っている?

 人の美しい心を核にして、水神の蒸気で構成された蒸気人間……?


「……何? 何なのアンタ……!?」


 と尋ねてしまったのは、それが人のシルエットをしていたからだろう。

 返事などあるはずがない、と思ったが、意外にも蒸気人間は返答してきた。


『私は……、神』


 えッ!?


『私は……、水の神コアセルベートです』

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