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30 神々の再会は一時閉幕

 ――その後、僕たちはそれぞれの務めを果たすために解散となった。


 ミラクは小さくなった炎牛ファラリスを引っ張ってムスッペルハイムの火の教団本部へ帰投。

 あの駄牛は火の教団預かりになり、僕の提案通り近日一般公開が予定されるらしい。

 ミラク自身もカレンさんとの協力を正式に受諾した。

 これには炎牛討伐という条件を満たしたことよりも、彼女自身の心境の変化によるもののようだ。

 数年ぶりに友だちとの関係を修復できたことにカレンさんは心から喜んでいた。

 もっとも光の教団そのものは火の勇者との協力の話をまったく通していなかったので、これから大変になっていくだろう。

 しかしそれも、これからの話だ。

 モンスター討伐でヘロヘロになったカレンさんは、光の教団本部へ戻るなりすぐさま自室へ、風呂も浴びずに寝てしまったらしい。

 そして僕は……。


「お前まで転生しているなんて知らなかったぞ」


 光の教団教主の私室。

 本来なら選ばれた僅かな者しか立ち入ることのできない、いわば聖域に僕はいた。

 部屋の主たる光の教団教主と二人きり。

 教主当人が妙齢の女性であるだけに、本来ならば絶対ありえないことだった。


「アナタが人間に転生なさると仰ったので、わたくしも慌てて後を追いかけたのですわ」


 と若き教主は言った。

 自室にいるためか、日頃着けているヴェールを脱いで素顔を晒している。確実に美人の類に入る顔立ちだが、生憎中身のことを考えると僕は見惚れることができない。

 そう、教主ヨリシロの正体は光の神インフレーションの転生者。

 千六百年前に僕を封印した創世の五大神の一人、そして十八年前僕の封印を解いた張本人だ。

 闇の神だった僕はその後、人間に転生することを決めてクロミヤ=ハイネになったが、コイツまで何故人間に転生を?

 しかも自分を信奉する光の教団の教主になってたなんて……。


「で、なんで?」

「なんで、とは?」

「お前が人間に転生した理由だけど」

「それはもちろん、アナタと共に人間の生を楽しみたいからですわ」


 そういって光の女神インフレーション――ヨリシロは、熟れた体で僕にしなだれかかって来た。


「おおぉーーーい!?」

「肉体によって制限された不自由な生。でもそれゆえに神にはできない楽しみもありますわ。たとえば愛する人の子どもを産むこととか」

「てぇーーーいッ!」


 慌てて飛びのき、ヨリシロから距離をとる。


「冗談はさておき、本題に入りたい」

「あら、わたくしは本気ですわよ。人間となったアナタに出会える日をどんなに待ち望んだことか。婚約発表の準備も……」

「やめて!!」


 コイツは、人間になったことで雌の本能みたいなのが濃厚になったんじゃないのか?


「とにかくも、よくまああんな出まかせを並べられたものだよ。闇の勇者なんてさ」

「前々から考えていた設定ですわ。転生したアナタが世に注目される時が必ず来ると思っていましたから。教主の座を得たのもそのため。権力は、説得力を補強するための最高の触媒ですから」


 たしかにヨリシロの言う通りかもしれない。

 闇の神エントロピーの存在は、創世の時代に封じられて以降誰にも知られることがなかった。

 それが千六百年の時を越えて『創世神はもう一人いた』という衝撃の事実と共に明かされながら、それを聞いたカレンさんやミラクが素直に信じたのは何より、光の教団教主の言葉だったからだろう。


「『光の女神からの神託です』と言ったらすんなり信じましたものね。初心な子たちですわ」

「神託というか、当人の言葉なんだけど……」


 何にしろヨリシロが収めてくれたおかげでカレンさんたちの追及をかわせたのは確かだ。しかしすべての追及をかわしきれたわけではない。


「暗黒物質の能力は知られてしまったしな……」

「いいではないですか。世界に一人だけが使える特殊能力、その勇名は世に響き渡りますわ。どうせこれからいろいろ活躍なさるのでしょう?」

「しねーよ、と言いたいところだが……」


 都会に出てきたたった数日。それだけで色々わかったこの世界の成り立ち。

 エーテリアルという物質によって勃興した文明。それに取り残されようとし、様々な方法で流れを変えようとする神。

 人間一つを切り取ってみても、教団という集団によって発生する利害問題はこれからも発生し続けるだろう。

 僕はそれとは無関係でいられない。僕は闇の神エントロピーではなく、田舎からやって来た人間クロミヤ=ハイネなのだから。


「たしかに僕が人間の世界で多少有名になって、それが世界をよりよくするのに役立つんなら拒む理由はないな。これからも頑張らせてもらおう。この世界に生きる人間が、皆頑張って生きているように」

「神としてでなく人として、この世界に関わっていきますか、アナタらしいですねハイネさん」

「そういうわけで、今後ともよろしくお願いします教主様。一応アナタの部下ということになってますので」

「アナタが望むなら、いつでもそれ以上の地位に就けて差し上げますわ。とりあえず今宵は泊まっていかれるのでしょう?」

「泊まりませんよ!」


 僕はすぐさま教主の私室から飛び出し、退散するのだった。

 こうして僕の、人間クロミヤ=ハイネとしての生活が本格的に始まっていく。

とりあえす、ここまでで一区切りとなります。

次回より新展開で、より一層お楽しみいただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

それから、本作がハイファンタジージャンルの日別ランキング百位以内に入りました。

初めてのことですのでとても嬉しいです。皆様応援ありがとうございました!

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