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298 見捨てたもうた

 神が、人間を見捨てた……?


 そんな。では……、では私たち人間は……。

 本当にモンスターに滅ぼされる種だというの……!?


「…………ッ!?」

「くッ……!!」


 シルティスちゃんもミラクちゃんも、突き付けられた事実に魂を吹き飛ばされたかのよう。

 硬直して、表情も動かせずにいる。


『いいですねえ! いいですねえ!! アナタたちの絶望の表情、最高ですよ! ノヴァをはやし立て、アナタたちをこの地へ誘った甲斐があったというものです!!』


 トカゲの形をした神は、見るからに面白そうに、前脚でペタペタと拍手をした。


『ねえガブリエルさん? 私がお勧めした通りでしょう? 自分たちが神に愛されていると信じて疑わず、それがただの思い込みであったと気づいた瞬間の、突き落とされた表情! アナタと私で創作するカタストロフに、これほど相応しい飾りはありません!!』

「歌劇では、時に悲劇が流行るというけど、これも文化なのかしらね。勉強になるわ」


 魔王ガブリエルと神コアセルベート。

 二者はまさしく志を同じくしたと言うかのように寄り添っていた。


 神は私たちの味方。

 ただ疑うこともなくそう考えていた。

 太陽が東から昇って西に沈むのと同じぐらい自然に、神は私たち人間をいつも見守ってくださるのだと当たり前のように考えていた。

 でも違う。

 神は、人間たちが自分を愛さないことに怒り、自分も人間たちを愛さなくなったというの?

 モンスターが人を襲うのは、傲慢になった人間へ神が下された罰だという主張は以前からあった。

 その主張が正しかったというの?

 本当に神は望んでいるの? この地上で繁栄する種が、人間からモンスターへ移り変わることを。


「実を言うとね。こうして人間を『生命原液』に変える滅ぼし方は、彼から教わったの。一時的にこの池に溜めこんで、一気に放流する手順もね。実際そうなった時の壮大さは、アナタたち人間の長い歴史を断つに相応しい演出でしょう」


 魔王ガブリエルは言った。


「神は最後に、アナタたちに美しい滅びを与えてくださったのよ。それがアナタたちにかけられた最後の情けと言うものじゃない?」

「美しい滅びなどない」


 絶望の金縛りにあった私たちに代わって、俊敏に動く一枚の影があった。

 その影は素早く走り、ガブリエルの周囲を一周する。

 ドラハさん。


「滅びも死も、常にただ醜いだけだ。だから人は死滅を恐れ、何としてでも避けようとする」

『闇都ヨミノクニの生き残りですか。実際滅びたことのある人間の言うことには説得力がありますなあ……!?』


 嫌味ったらしいコアセルベートの物言いに、ドラハさんは無反応だった。


「おチビさん、まだやる気? アナタが一頭群を抜いた神気使いであることは認めてあげるけど、それでもこの魔王には遠く及ばない。それはもう証明されたでしょう? 神勇者でない他の連中以上、クロミヤ=ハイネ以下といったところね」

「そうだろうな。しかし埋めがたい実力差は、準備が埋めてくれる。そして準備のために必要なものは時間だ」


 ガバリ。

 ガブリエルの足元から、再び影の嘴が浮上し、その下半身を咥えこんだ。

 簡単に捕まえられたのは、ガブリエルに「いつでも脱出できる」という侮りがあるからだろう。


「そしてお前は、カレン様たちとの無駄話に長々と時間を浪費し、私に準備をさせてくれた。それがお前の敗因と知れ!」


 何!?

 ドラハさんの神気がグングン上がっている!?


「愚かな子。この程度の拘束すぐにでも外して、アナタも『生命原液』に変えてあげる」


 ガブリエルに反攻の動き。

 しかしヤツは動けなかった。あからさまにもがきつつも、ドラハさんによる影の嘴を吹き飛ばすことができない。


「……ッ!? どういうこと!? さっきは簡単に消滅できたのに……! 影の強度が上がっている!?」

『このバカ者! 油断して! 影使いは光を吸収することで格段に力を上げることができるのです!!』


 ガブリエルの肩に留まるトカゲが、慌てた声を発した。

 そういえば……!

 私たちの周囲が、まるで雲に空を遮られたかのように暗くなっている。

 空には雲なんてないのに。直射日光が燦々と降り注いでいるのに……!?


「おい……! この現象、どこかで……!」

「前にも見たような……!」


 ミラクちゃんシルティスちゃんも、この異常に慌てて絶望が薄れていく。


「たしかこれ……! 他でもないあのドラハが、ササエのゴーレムを潰した時……!」

「あの時も、快晴だったのにいきなり暗くなりだしたわよね……!?」


 光を吸収して、影の力に変える……!?


「ッ!?」


 いけない!

 ササエちゃんとの戦いで、この現象を引き起こした時のドラハさんは、力を暴走させて影の化身に戻ってしまう寸前だった。

 あの時はヨリシロ様が傍にいてくれたから暴走を止められた!


 でも今、ヨリシロ様もハイネさんもいないこの状態でドラハさんが暴走したら……!


「我……、我は……!!」

「いけない! ドラハさん!!」


「――我は、不屈無敵の影使いなり」


 え?

 違う、ドラハさんの語りが違う。

 今まで暴走した時のドラハさんは、故郷であるヨミノクニの滅びを憂うあまり、みずからが守護神になろうと、自分自身が闇の神エントロピーであるという夢想に取り憑かれていた。

『ワレは、闇の神エントロピーなり』と自分自身に言い聞かせていた。

 でも今は違う。


「――我、故郷故国を失おうとも、新たに結びし縁において、我が戦うゆえを知る」


 まるで祝詞のような、みずからを規定する言葉。


「ドラハ……!?」「ドラハッち……!?」


 ミラクちゃんやシルティスちゃんも、ドラハさんの宣言に引き込まれていく。


「――ゆえに我は無敵。我が影に貫けぬものなし。我が影技に殺せぬものなし」


 周囲がドンドン暗くなっていく。

 もはや完全に夜だ。昼なのに。

 太陽が降らせる光のすべてを、ドラハさんが吸収して力に変えている!?


『ガブリエル! 何をグズグズしているのです早く脱出なさい! ここまで光を溜めこんだ影の一撃。神勇者に匹敵しますよ!!』

「ダメ……! この影の拘束が強すぎて……! ビクともしない!?」


 魔王ガブリエルは、もがこうと暴れようとすべて手遅れだった。


 亡国の憎しみによって、一度は人間を捨てたドラハさん。

 しかし現代に甦り、ヨリシロ様や他の様々な人々との繋がりをもって、彼女は新生した。

 失ってしまったものへの怒りではなく、今あるものを守るために。

 ドラハさんはかつて自分を飲み込んだ力を、今再び振るう。


『ガブリエル! こうなったら……!!』


 もう遅い。


「鏖技『砲影・太刀影』!!」


 ドラハさんが解き放つ、それはまさに黒い閃光。

 大口径の影の砲撃が、ガブリエルを飲み込んだ。

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