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296 悪神現る

 ザブン!

 けたたましい水音を立てて、『生命原液』のプールから飛び出してきたのは、一匹のトカゲだった。


「ぎゃーーーッ!?」

「トカゲトカゲトカゲ!? やだこっち来ないでカベチョロしないでーッ!?」


 女の子はいつだって爬虫類のニョロニョロウネウネが大嫌いなのです!!

 というわけで私もシルティスちゃんも大混乱。

 そこへドバンッ! と。

 ミラクちゃんの燃え盛る足がトカゲさんを踏み潰した。わざわざガブリエルとの戦いを中断して来てくれたの?


「……何をやっているんだお前らは?」

「「ごめんなさい」」


 ミラクちゃん相変わらず男らしい……!


「よく見てみろ。コイツ、本物のトカゲではなくモンスターだったぞ」


 ミラクちゃんが硬く踏みしめた足を上げると、そこにはトカゲどころか何一つ残っていなかった。

 死ねば純粋な神気へと戻り、死体も残らぬモンスターならではの現象だった。


『やれやれ粗野な女性だ。単細胞なノヴァさんの勇者としては相応しいかもしれませんが』

「「ひぃッッ!?」」


 またトカゲ! トカゲが『生命原液』のプールから出てきた!?


『トカゲではありません。このクラウデビルはイモリ型の水属性モンスター。まあ、頭の中に綿菓子が詰まったような娘さんたちではトカゲとイモリの違いなどわからないかもしれませんが』


 イラッ。

 何このモンスター? ナチュラルに人の神経を逆撫でしてくるというか。

 そもそも魔王以外のモンスターが人の言葉を話してくるなんて何故? まるで炎牛ファラリスさんみたいに?


『クラウデビルは、弱い小型モンスターですが、その分製造コストも低くて仮初の体としてはちょうどいいのですよ。今のように潰されてもすぐ替えが出来ますしね』


 とトカゲ……、もといイモリは、顎の辺りをプクプクと小刻みに膨らませた。呼吸か何かなの?


「もう、一体何なのよ!? こんなチビッちいモンスターなんか無視して救助を続けるわよ! 一秒だって惜しいんだから!!」

『だからさせぬと言っているでしょう?』


『生命原液』のプールへ向かおうとするシルティスちゃんの足先に、またしてもトカゲもといイモリが立ち塞がる。


『シルティスさん。以前からアナタは私の言うことも聞かずウンザリさせられましたが、今となってはもう付き合う気にはなれません。私にとってアナタは用済みなのですから』

「何言ってるのよトカゲモンスターの分際で! アンタのことなんか知らないわよ!!」


 あの……、だからイモリ……!


『アナタが私に気づけないのも当然。ですが私はアナタのことをよく知っていますよ。教団の伝統を打ち破り、アイドルなどと軽薄な行いで勇者の権威を貶めるシルティスさん。現水の教主が、娼婦の腹から生ませた汚れ娘。本来アナタなど、水の勇者の栄誉を背負うには相応しくない』


 ドシン! と凄まじい勢いで足が踏み降ろされた。

 シルティスちゃんが、さっきのミラクちゃん同様にイモリ型モンスターを踏み潰したのだ。

 その表情には今までにない暗さがあった。


『フハハハハ!! 図星を突かれて怒りましたか!? さすが小娘は感情のコントロールが未熟ですね!!』


 またしても『生命原液』プールから這い上がってくるイモリ。

 何なのコイツ!? 無限増殖なの!?


『そろそろ話を戻しましょうか。脱線してしまうのは私の悪いクセでしてね。ヒトの美点を見つけると、褒めずにはいられなくなってしまうのです』

「何をッ!?」


 待ってシルティスちゃん! 挑発に乗らないで!?

 このトカゲを相手にしてると、話がまったく進まなくなってしまうよ!?


『先ほども言いましたが、アナタにこの「エキドナ泉」を消し去られるわけにはいきません。これは私と彼女の、重要な契約の証なのですから』

「「!?」」


 どういう意味?

 このトカゲ? イモリ? の言う『エキドナ泉』とは、目の前に広がる『生命原液』のプールのことで間違いないだろう。

 モンスターが、モンスターの長である魔王の作り出した『生命原液』プールを守るのは当然なのかも知れないが、このトカゲの振る舞いには、それとも違う何かを感じさせる。


 このモンスターは、他のモンスターと同じようで何かが決定的に違う。


「シルティス! カレン!! 何をしている!? そんな小虫にかまっている場合か!?」


 背後から飛んでくるミラクちゃんの叱責。


『まったく彼女の言う通りですよ。このように小さき私にかまけてすべきことを忘れるとは、勇者にあるまじき粗忽さです。ホホホホ……!』


 嘲笑うトカゲ。

 背後から襲ってくる緊張感に、私もシルティスちゃんもビクリとして振り返る。

 そこには緊急事態が広がっていた。


「……あらあら、オイタする子を止めてくれたのね。いい子だわトカゲさん」


 水の魔王ガブリエルが、ドラハさんの仕掛けた影の嘴を砕いて、そこから脱出していた。


「くっ……!」


 ドラハさんも自分の攻勢が破れて、たじろがずにはいられない。


「数人程度の協力、自然の力まで利用しようと、この魔王を止めるにはエネルギー不足だったようねえ」

「まだまだ! 『フレイム・ナックル』!!」


 悪化する状況を押し留めようとミラクちゃんが『フレイム・ナックル』を放つ。

 ただの『フレイム・ナックル』ではない。神勇者の力で極限まで強化された超高熱度の『フレイム・ナックル』だ。

 しかしガブリエルは、自身の背中から生えた透明翼で自分自身を包み、それを盾にして超高熱パンチを防ぐ。

 神勇者の熱攻撃は、完全に受け止められてしまった。


「くッ……、くそッ!!」

「魔王と神勇者との間にも、神気の相性は成立する。火を消し去るのは水という定石は、私とアナタの間でも変わらないのよ?」


 火の神気は水の神気に弱いという相性が、戦いに影響した!?


「残念だったわねえ。ここにいるのがラファエルだったら、アナタの方が圧倒的に有利だったのに」

『神勇者の力に有頂天となって、もっとも基本的な神気の相性を忘れる。やはり人間は愚かで、神の力も宝の持ち腐れですねえ』


 いつの間にかトカゲのモンスターが、ガブリエルの肩にペタペタとよじ登っていた。

 やはりコイツら、当然だけども仲間同士なの?


『そんなことだから、アナタ方は神から見捨てられるのですよ。そして神は新たにモンスターを選んだ。地上でもっとも繁栄する種として。アナタ方人間はもはや用済みなのです。速やかに消えてください』

「何言ってるのよ!?」


 トカゲの物言いに、シルティスちゃんが噛みつく。


「そんな小さなモンスターの分際で、神の御意志を語ろうっていうの!? おこがましい! アンタなんかに神様のお考えなど、わかるわけないじゃない!!」

『いいえ、わかりますよ』


 トカゲは言った。


『何故なら、この私こそが神なのですから』

「は?」「へ?」「ふ?」


 その発言に、呆気にとられる私たち三人。

 今あのトカゲは何て言ったの? 私たちの耳はおかしくなったの?

 しかしトカゲは、受け入れがたい事実をさらにハッキリと、明瞭な声で伝えてきた。


『私は水の神コアセルベートです』

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