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295 還元試行

 ミラクちゃんの体から、見たことのないほど凄まじい火の神気が燃え上がる。

 彼女の体表は、あまりの熱さで近づけないぐらいだし、神気の勢いに逆上がる髪の毛は、炎の揺らめきそのもの。


「これが……、火の神勇者……!?」


 私自身、光の神勇者になったことがあるものの、他人が神勇者になったシーンに遭遇するのは初めて。その凄まじさに愕然とする。

 私も神勇者になった時って、こんななの?


「カレン、お前も光の神勇者に。それからシルティス。魔王はオレたちに任せろ!」


 え?

 それってどういうこと? と私が詳しく聞こうとするより早くシルティスちゃんが噛みついた。


「どういうことよミラクッち!? ここはハイドラヴィレッジ! 危機に陥っているのは水の教団の人々! 水の勇者であるアタシが戦わなくて、誰が戦うっていうのよ!?」

「オレたちが代わりに戦うと言っているんだ。だからシルティス、お前はお前にしかできないことをしろ」

「え?」


 神勇者形態を保ったまま、ミラクちゃんは会話を続ける。


「液体にされてしまったハイドラヴィレッジの人々は、水の神気で元に戻すことができる。そうだな?」

「そ、そうだけど……!? まさか!?」

「シルティス、お前は今すぐその作業に取り掛かれ。お前の手で液体化されてしまった人々を元に戻すんだ!」


 その前に魔王ガブリエルを倒そうとしたのは、ヤツが必ず妨害してくるだろうと予測できるから。

 今私たちにとって一番大切なのは、魔王を倒すことではなくて人々を救うこと。

 優先順位的にもいつ水門が開くかわからない状況で、何より最初に『生命原液』の還元を試みるのは、けっして的外れな選択ではない。


「問題の魔王は、オレたちで抑えればいい。どちらにしろシルティス、神勇者になれない今のお前では、魔王を倒すどころか傷を負わせることだってできない。それは充分わかっているはずだ」

「で、でも……」


 水の勇者の先輩であるサラサさんが、その最大奥義をもってしても魔王ガブリエルにノーダメージで完敗してしまったのは、ついさっきのこと。


 やはり人間が魔王に勝つためには、神勇者をもってする以外にない。


「神勇者になれないお前では、魔王ガブリエルとの戦いで足手まといにしかならない。だが、オレたちに魔王を任せてお前が人々の救助に専念すれば、お前は作戦の要になるんだ。お前が一番重要な役割を背負うんだ」


 ミラクちゃんが、ここまで鋭く戦いの概要を見通すなんて。

 神勇者となり、火の魔王ミカエルとの戦いを経ることで、ミラクちゃん自身もまた成長した……!?


「一番重要なのは魔王を倒すことじゃなく、人々を救うこと。まったくその通りだよシルティスちゃん」


 とにかく私も正しい方に乗っかることにした。


「私たちが魔王を何とかするから、シルティスちゃんは今すぐにでも『生命原液』化された人たちを助けて。何より、今この中で水の神気を使えるのはシルティスちゃんだけ。シルティスちゃんがやられてしまったら、たとえ魔王を倒せても人々を救えないんだよ」

「言わばお前はチェスのキングだ。取られたらその場で負けだ。自重しろ」


 シルティスちゃんは賢く、どんなに取り乱そうと筋の通った主張を拒絶することなんてできない。


「ああもう! わかったわよ!! アタシは人々の救助に専念するから、アンタたちはあのシメサバ女を粉々のネギトロにしてやって! 頼んだからね!!」


 もちろんだよシルティスちゃん!

 私も光の神勇者になれば、史上初、二人の神勇者で魔王を袋叩きにすることができる。

 ドラハさんもガブリエル相手に押している。

 今や魔王も、けっして勝つことのできない相手ではなくなったんだ!


「なら私も!! チェンジ! 光の神勇者!!」

「「何その掛け声!?」」


 ミラクちゃん、シルティスちゃんの双方からツッコミが来たけど、何のきっかけもなく変身するのは寂しいかなと思って……!

 しかし、充分に気合を込めて神勇者になろうとした私。なのに変化はまったく現れなかった。

 ……? と、虚しい空気だけが流れていく。


「え?」


 なんで? どうして!?

 神勇者になろうとしたのに、どうしてなれないの!?

 私は神勇者になってアテスを撃退できたし、ミラクちゃんはあんなに簡単に変身できたというのに。


『む……、無理に決まっておろうが光の小娘め……!!』


 その声は、炎牛ファラリスさん!?


『神勇者となるには神の援けが必要不可欠なのだ! インフレーションが近くにいない今、おぬしが単独で光の神勇者になるなど夢のまた夢よ! と言うかしんどい!! しんどいの!!』


 ファラリスさんが、半ばヤケクソ気味に言った。


『っていうかお前ら、作戦会議するならそのあとで神勇者になれよ! ワシの負担が無駄な時間のために費やされていく!!』


 どういうこと!? インフレーションって、私たち光の教徒が崇める光の女神インフレーション様のことだよね!?

 インフレーション様が近くにいない? 援けられないって!?


「とにかく仕方がない! 魔王ガブリエルはオレと、ドラハの小娘で何とかする!!」


 神勇者の凄まじい炎を渦巻かせるミラクちゃんが言った。


「カレン、こうなったらお前はシルティスのサポートについてくれ! シルティスを守って、コイツが救出作業に集中できるよう取り計らうんだ!!」


 私もしかして今回一番の役立たず!?


「行くぞ!!」


 ミラクちゃんは即刻飛び出し、相変わらずドラハさんの影に飲まれかかったガブリエルを強襲した。


「お前の好きにはさせん! このまま影に飲み込まれるまでジッとしていろ!!」

「あらあら、アナタは知っているわ。神勇者ってヤツでしょう?」


 下半身をドラハさんの影に、上半身を神勇者化したミラクちゃんに襲われようと、ガブリエルは余裕の姿勢を崩さなかった。


「カレンッち、何やってるの!?」


 そんな私を叱りつける声。


「こうなったら、とことん打ち合わせ通りに動くわよ! 『生命原液』化された人を助けるから一緒に来て!!」

「う、うん……!」


 私とシルティスちゃんは、すぐさま『生命原液』で満杯の調整池へ駆け寄った。

 調整池の縁と、『生命原液』の水位はほとんど同じ高さだった。

 シルティスちゃんが身を屈めるだけで『生命原液』の水面に触れることができた。


「これ全部……! パパや私の知っている人々……!!」


 シルティスちゃんの表情が悲痛に歪んだ。

 辛いのは痛いほどにわかる。


「でもシルティスちゃん……! 今は……!!」

「わかってる。ミラクッちどもが頑張っている間に、全部の人たちを元に戻してやる!! 水絹モーセよ! アタシの神気を『生命原液』に伝えて!」


 シルティスちゃんの神気が上がり、調整池一杯の『生命原液』に広がっていく。


「……シルティスちゃん? どう?」

「ちょっと待ってて! ……わかってきた。『生命原液』は、人の肉体が単純に液体化されたものじゃなく。人を構成する魂の情報が、水の中に封じ込められた状態なんだわ!」


 ……。

 えっと?


「だからこそ水の神気を通して、一人一人の情報を抜き出してロードすれば、生命原液そのものを材料にして肉体への物質回帰が始まる。だったらやらしてもらおうじゃないの! 片っ端から!!」


 シルティスちゃんの水の神気がさらに出力する。

 これはほとんどシルティスちゃんの全力のはず。

 でもいいの? そんなに飛ばしまくって!?


「シルティスちゃん大丈夫なの……!?」

「ぐっ……! 思った以上に、再構築にかかる神気消費が高い。シメサバ女……! こんなに神気のかかる『生命原液』化を数万人、しかも一昼夜のうちにやりきるなんて……! やっぱり魔王って滅茶苦茶よ!!」


 ただ救い出すだけでも、相当な困難であることが窺えた。

 しかし今一人一人でも確実に救い出せれば、それは成果だよ!!

 頑張ってシルティスちゃん!!


『それをするのは許せませんね』


 え?

 また頭の中に直接響くような『声』が!?

 しかも炎牛ファラリスさんとはまったく違う、ねっとり不快な声。

 この声の主は……!?

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