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29 光姫、闇雄

「誰だッ!?」


 つい最近まで凶悪なモンスターの縄張りだった僻地に人の気配。

 注目するとそこには、純白の法衣を身にまとった見覚えのある女性の姿が。


「アナタは、ヨリシロ様……!?」

「ヨリシロ!? 光の教団現教主のヨリシロか!?」


 その名を聞いてミラクが見るからに動揺しだした。


「え? 何知ってるのあの人のこと?」

「というかお前こそ知らんのか? 一応光の教団に所属しているんだろう!?」


 昨日今日入ったばかりのペーペーなんで。


「……まあ、知っている。向こうが有名人だからな」

「へー」

「無論教主というだけで大概有名なものだが、あのヨリシロだけは特別だな。何しろ女性、しかも十八歳という若年で教主の座に就くこと自体異例の異例。噂では、前教主だった父親を政治闘争の果てに蹴落としたと言われる。『怖い女』として内外に勇名を轟かせているわけだ」


 そんな人だったのか……。

 ローブやヴェールを被って素肌はほとんど見えないのに雰囲気だけで美女とわかる。

 そのヨリシロが、ヴェール越しの視線を僕らに送った。


「まず我が勇者カレンさん。炎牛ファラリスの討伐ご苦労様でした。それに協力いただいた火の勇者ミラクさんにも、光の教団教主としてお礼申し上げます」

「あっ、……イヤ」


 ヨリシロの作り出す一種独特の荘厳さにミラクも圧倒されている。


「それよりもヨリシロ様。今のお言葉はどういう意味でしょう?」


 この中で一番教主と面識があるだろうカレンさんが果敢に尋ねる。


「ヨリシロ様が何故このような場所におられるのかも不可解ですが、今アナタ様が仰れた『説明する』とは、ハイネさんが何者であるか、ということを説明してくださると受け取ってよろしいのでしょうか?」

「もちろんです我が勇者。そのためにまず、わたくしから一つ問わせていただきましょう。勇者カレン、この世界を創造した神のことを知っていますか?」

「えっ?」


 いきなり問われてカレンさんも戸惑う。


「それはもちろん、創世の五大神。我々が信奉する光の女神インフレーションと、火の神ノヴァ、水の神コアセルベート、風の神クェーサー、地母神マントルの五人ですよね?」

「その通りです。しかし創世の神がその五人だけでなかったとしたら、どうします?」

「「ええッ?」」


 それにはカレンさんだけでなく傍から聞いてるミラクまでが驚愕の声を上げた。


「創世の神はもう一人いるのです。その神の名はエントロピー。この世界の闇を司る神」

「バカなッ!?」


 ついにミラクが我慢できずに口を挟んだ。


「そんなこと信じられるか! 創世の神が他にもいるなんて、しかも闇という、いかにも悪そうな……」

「火の勇者ミラクさん。闇とは、それ自体決して邪悪なものではありません。この世界を、昼と共に半分覆う夜。人々がとる睡眠。それらは闇の領域そのものですが、世界や人が休息するための必要不可欠な時間でもあります」

「う。それは……!」

「でもヨリシロ様。エントロピーなる闇の神が本当にいるのだとしたら、何故私たちは今までそのことを知らなかったのですか? 他の神のように闇の教団とかがあ

ってもいいではないですか?」

「それだけエントロピーが特別な神だということです。ですが、どれだけ彼の神が隠れ神であるとしても、この世界の構成素としての闇の部分は事実として存在します。人間にも」

「人間に、闇の部分が……?」

「勇者カレン、アナタが光の属性に際立ち、そちらの火の勇者カレンさんが火の属性に秀でているのと同じように、その身に大きな闇属性をもった人間もいるのです。大きな闇の力を生まれながらの与えられた者が」

「それって……?」

「まさかそれが……?」


 カレンさんとミラク、二人の視線がこちらを向く。


「そう、ハイネさんこそ先天的に強い闇属性をもって生まれた者。そしてその力を使いこなすことができる者。……いわば、闇の勇者」


 ……と、いうことでどうです?

 そう言わんばかりのヨリシロの視線が、まっすぐ僕に向けられていた。


 その時に確信した。この光の教団教主ヨリシロの正体。

 コイツも同じだ。僕と同じだ。ついでに言うとそこに転がっている駄牛とも。

 ヨリシロは人であって人ではない。魂が人ではない。

 人ではないもの、つまり神が、人の体に転生した者だ。


 光の女神インフレーション。


 お前も人間に転生していたのか。

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