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02 若者狩り

「何だこれは……!?」


 帰り着くなり、村は異変で溢れかえっていた。


 村人総勢で五十人にも満たない寒村。

 そこが今や、百人以上の人でごった返していた。

 何者かが集団で、村の外からやってきたということは明らかだった。

 その証拠と言わんばかりに、外からやってきたと思しき者たちは白くピカピカに輝く鎧をまとい、村の人たちとは様相が異なる。

 問題は、その白ピカ鎧を着た連中が見るからに村人に対して高圧的な行動をしていることだった。


「村人を全員集めろ! 十代二十代の若者は特にだ! 一人も逃すな!!」


 鎧たちを率いているらしい男が唾を飛ばして指示を出す。

 鎧を着ている者たち――おそらくは騎士だろう。ヤツらは既に剣や槍を抜き身にし、その切っ先をちらつかせて村人たちを追い立てていた。完全に脅しだ。

 ヤツら、村人たちをどこかに集めようとしているらしい。

 家の中にいる者は、家から引き摺り出して。否応もない強制的だ。


 僕と父さんは、村の外からこの異変を察知し、森の方から隠れて様子を窺っていた。

 狩りに出かけていたために、この異変にまともに出くわさずに済んだ、という形だ。



「一体何なんだコイツらは……!」

「恐らくは都会の方から来たんだろうな。あんな小奇麗な連中、この辺にいるはずがない」


 父さんは、あの鎧のピカピカ具合を見て言ってるんだろう。

 僕も同感だった。さらに僕は、クロミヤ=ハイネとしてではなく、それとは別のところから引き継がれた記憶によって、ヤツらの正体に心当たりがあった。


 あの全身鎧に包まれた騎士たち。

 その騎士が手にしているのは剣や槍ばかりでなく、みずからを誇示するかのように掲げられた旗もあった。

 その旗に刻まれた紋章。あれは間違いなく光の女神インフレーションのシンボル。


(光の女神の紋章を人間が? 何故?)


 闇の神であった頃の記憶から、あの紋章に見覚えがあったわけだが。

 人に転生してから十八年、その間一度も村から出ることはなかった。世情に興味を持たなかったことが今になって裏目に出たのかもしれない。


「……ハイネ、とにかく今は村長のところへ行こう、そして何があったのか……」

「待って父さん!」


 木陰から出て、村に入ろうとする父さんの手を慌てて掴む。


「父さん、村の外にいる僕たちにアイツらは気づいていない。今出ていったら僕たちもヤツらに見つかって、他の人たちと同じになってしまう」

「ううむ……!」

「あの騎士たちの目的がハッキリしない以上、迂闊に動かない方がいい。これからの展開によっては、僕たちがここに隠れていることがプラスになるかもしれない」

「そうか。……そうだな」


 僕の意見を聞き入れてくれたのか、父さんはどっしりと腰をかがめ、木の陰に自分の体を収めてくれた。


「お前の言う通りだ。まったくお前は息子だって言うのに、お前の方が年上のように思えることを言うな」

「そんなことないよ。僕は父さんの息子さ」


 でも……。


「父さん、動くなって言っておいてアレだけど、やっぱり移動しない?」

「わかっている、私も気になっていたんだ」


 僕と父さんは、騎士たちに気づかれぬよう村の外をぐるりと回って場所を変える。

 山奥の僻村で、村の周囲ほとんどが森であることが幸いした。


 そうして僕たちが移動してきたのは、村内にある僕らの家だった。

 今家には、母さんが一人でいるはずだ。

 母さんは昔から体が弱くて、だからこそこんな異変で余計に心配になる。

 森の中に身を隠しながらでは、距離があって家の中まで窺えない。

 何とかならないかと考えていると家の中からガシャンガシャンとけたたましい物音が聞こえた。


「さっさと出ろ! 光の女神様のおぼしめしだぞ!」


 家の入口から鎧騎士に引っ張られて母さんが出てきた。

 その顔色は見るからに悪い。恐らく今日も調子が悪くて伏せっていたのだろう。

 母さんは元々体が弱く、僕を産んだのも年を経てからのことだ。

 子供ができにくい体質で、僕のこの体も本当なら死産になっていたはずのものだ。


 肉体は魂の座。

 他の生まれ出ずるべき魂から肉体を奪ってはならないと、闇の神だった頃の僕はあえて死産になった胎児の体を選び、降臨した。

 普通ならば死産でも、ダメになった個所を修復して生まれ直すことぐらい神ならば容易。

 しかし、そうやって生まれてきた僕を、父と母は人一倍喜んで、大切に育ててくれた。

 病気がちゆえになかなか授かることのできなかった子供。しかも一度は死産と宣告されてなお生まれてきたのだから尚更だろう。


 僕は一歳になった頃、丸一日ほどかけて村の外を出歩いたことがあった。

 やっと二本の足で歩けるまで体が成長できたので、さっそく地上の世界を見回りたくなったからだ。

 赤ん坊の体でも中身の神にとっては問題ない。

 軽い散歩のつもりであちこち見て回り、一応満足して戻ってきた時、母さんは僕を抱きしめながら大声で泣いた。

 一歳の我が子が消え去った心労で、やつれ果てた女性の顔がそこにあった。

 僕が好奇心を満たすために歩き回っていた一日間は、その人にとって絶望の一日間だった。


 その時になってやっと僕は気づいたのだ。

 今の僕は、闇の神エントロピーである前に人間クロミヤ=ハイネであると。

 この人たちの息子であると。


 考えるより前に体が動いた。


「ッ!? オイ待てハイネ!」


 父さんの制止も間に合わず、木陰から飛び出した僕は、目標めがけて突進する。


「……えっ? ぐわッ!?」


 殴られ、転がっていく騎士。


「母さん!」

「ハイネ……? ダメよ逃げて!」


 しかし僕は母さんを背中において、いまだわらわらといる鎧騎士たちに向かい言い放った。


「来るなら覚悟してかかってこい。……この人に危害を加えるなら、全員僕が叩きのめしてやる!!」

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