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285 未来の和

「ガルルルルル……!」


 やっぱり威嚇してる?

 光の教団以外の四教団が嫌いなドラハさん。

 火の勇者であるミラクちゃんと水の勇者であるシルティスちゃんの両方から撫でられても敵意は緩まることはない。

 頭を撫で撫で、顎をこしょこしょさえれて……。


「ゴロゴロゴロゴロ……」


 敵意が緩まることもないこともないかもしれない?


「ええい! やめんかーッ!!」


 ドオオオォーーーーッ! という轟音と共に、ミラクちゃんシルティスちゃんが吹き飛ばされた。

 ドラハさんの固有能力、神気によって影を操る力。

 その力によってドラハさん自身の足元の影が間欠泉のように噴き上がり、二人を押し飛ばしたのだった。


「うおおお……」

「いたた……、お尻打っちゃった。いきなり突き飛ばすことないじゃない。まったくもー」


 影の勢い自体は弱かったのか、ミラクちゃんもシルティスちゃんも、そこまで痛くなさそうだった。


「愚か者! 異教徒の分際で私にベタベタしてくる方が悪いのだ! 今度そんな真似をしてみたら影技の限りを尽くして蹴り殺してやるからな!!」


 ううん。

 これはダメだね。世界はいま融和に向かって動き出していて、光の教団もそれに沿っているというのに。


「ドラハさん」

「カレン様! この者たちは無礼です! 下級神の信徒だというのに私たちに馴れ馴れしく、断りもなく体に触れてきて……!」

「めっ」


 ポカリと、出来る限り軽く頭を叩いた。


「下級神とか、そんなことを言ってはいけません。人々を信じる神に上下関係はありません。皆等しく、人間を見守ってくださる大切な神様です」

「カレン様……。でも……」


 生まれ故郷を滅ぼされる。

 その怒り憎しみは、千年置いた今でもドラハさんの心に残り続ける。

 その悲憤の大きさは、たった十六年しか生きていない私なんかじゃ想像も及ばない。

 しかし。

 今のドラハさんはかつての記憶を失い。自分が神を恨む理由すら失っている。

 そんな中で恨みだけを引きずるのは、いいことでは絶対にない。


「ヨリシロ様は、光の教団の教主として、他の四教団との和解を推進しています。それなのにドラハさんがこんなに皆さんを嫌っていたら、ヨリシロ様を邪魔することになるじゃないですか」

「ヨリシロ様……」


 ヨリシロ様が大好きなドラハさんに、こういう物言いは卑怯かと思ったが、率直に反省していただくにはこれ以外ないと思った。

 ……言い聞かせるのって難しいなあ。将来お母さんになったら苦労しそう。


「……それはダメです。ヨリシロ様のお役に立たなければ」

「だったらヨリシロ様やハイネさんたちばかりでなく、他の教団の人々とも仲良くしなければダメです。差し当たってまずは、ミラクちゃんとシルティスちゃんに謝罪しましょう」


 ドラハさんの肩を持って、二人に向き合わせる。


「……吹き飛ばしてすみませんでした」

「「…………」」


 ミラクちゃん、シルティスちゃんはしばらく無言を保っていたが。まるで息が続かなくなったとばかりに噴き出してから。


「かーわーいーいー! この娘かーわーいーいー!!」


 とまずシルティスちゃんがドラハさんを抱きしめた。


「なんかこの娘ワンちゃんみたい! 飼い主以外には懐かないし怒られるとシュンとなるし! 可愛い可愛い可愛すぎ!」

「人間捕まえて『イヌみたい』はなかろう、この脳天気アイドルが」


 さらにミラクちゃんも続く。


「しかし……、強力な魔王との戦いがまだまだ続く中、勇者クラスの戦力は実に貴重だ。カレン同様頼りにさせてもらうぞ」


 と言いながら、ミラクちゃんはドラハさんの頭を煙が出そうなぐらい撫で回していた。


 よかった……。

 とりあえずこの二人とドラハさんは上手いこと行きそうだね。これに続いてササエちゃんやヒュエちゃん、他のたくさんの皆とも仲良くできれば、ヨリシロ様もさぞかし安心できるんだろうな。


「……ん? そういえば?」


 ドラハさんで存分にアニマルセラピーしていたシルティスちゃんが、ふと何かに気がついた。


「考えてみたら、この子よく今日のイベントの設営に参加できたわよね? 今回って光火水の三陣営が共同してやったんでしょう? 業炎闘士団やウチの流水海兵団とトラブルになったりしなかった?」


 ……言われてみれば。

 ドラハさんは、自分が身を寄せている光の教団にはまったく抵抗感がなく、光の教徒となら誰とでも打ち解けられる。

 しかし、それ以外の地水火風の人たち相手では今見た通り。

 光、火、水が入り乱れる今日の会場で、まったく無事で済むとは思えない。

 ムスッペルハイムに到着してから、ずっと私に付きっきりだったドラハさんは何事も起こさなかったけど、そこで油断してライブ終了後に、一人で外に行かせたのはマズかった!?


「……あ、ハイ。カレン様に言われて会場の様子を見に行った時、不埒な異教徒が話しかけてきたのです」

『ねえ彼女、カワイイね。もし暇ならお茶しない?』

「と」

「ナンパッ!?」

「なので……」


 ドラハさんは、極々自然な口調で言った。


「蹴り上げました」

「「「ヒィッ!?」」」


 全員揃って悲鳴が上がった。


「そしたら仲間らしい者が続々集まってきて、『いきなり何をするんだ』とか煩かったので、……全員蹴り上げました」

「「「ヒィィィーーーーーッッ!?」」」


 もう待ったなしだった。

 私もミラクちゃんもシルティスちゃんもドアを蹴破り楽屋から出て、会場へ向かってダッシュする。


「いや、それ以前に誰なのよ!? ドラハッちナンパしようとしたヤツ!? 見た目的に犯罪でしょう? 言い逃れしようもなく!」

「ソイツはあとで念入りに殺すとして……! とにかく今は状況の把握だ! 急げー!」

「ドラハさん! もうヨリシロ様が帰ってくるまで一瞬たりとも私から離れないでくださいねー!!」


 で、実際到着してみると、既にお客さんが引き上げた会場で、たくさんの光騎士と炎闘士と水海兵が、頭から天井に突き刺さっていた。


「「「ぎゃーーーーッッ!?」」」


 全員、ドラハさんの蹴りで飛ばされたのは疑うまでもなかった。

 完全に皆殺し状態。

 なんで味方サイドのはずの光騎士まで? と戸惑うことしきりだが、とにかく頭から天井に突き刺さった人々を救出するために、さながら果実でも収穫するかのようにキリキリ働かなければいけない私たちだった。


 戦闘は終わったはずなのに、やること多くて疲れがかさむ。

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