27 神への神罰
『ぎゃああああああああぁぁぁぁーーーーーッ!?』
「ブモォォーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
僕、クロミヤ=ハイネの肉と精神、二種の聴覚へ両方同時に悲鳴が飛び込んできた。
火の神ノヴァと炎牛ファラリス。ぶっちゃけ同じ存在が、何を理由にそんなに痛そうに絶叫するのか?
『な、何だ今の衝撃は!? 痛い! ビリビリする! こんな、何!?』
炎牛の視線を追って僕も気づいた。
カレンさんとミラク。二人が手を繋ぎ合って、その手で炎牛を狙い定めている。
「もう一発行くぞカレン!」
「ええミラクちゃん!」
「「火光神雷!!」」
二人の合わさった手から放たれる光。
あれは光の神力? イヤ違う、光に何か別のものが付加されている?
『ぐげええぇぇぇーーーーーーーーーーーーッ!?』
そしてまたノヴァ=炎牛が悲鳴を上げる。
『な、何故だ!? ワシがこの体のために拵えた鋼鉄の皮膚は、人間ごときに分け与えた神力程度では傷一つつかんはずなのに!? ぐげげぇぇーーーッ!?』
その怪事に、僕は気が付いた。
「……複合属性」
光の属性と火の属性。二つの異なる属性が混ざり合うことにより、まったく違う別の属性神力が生まれたのだ。
光と火、二つが混じって出来上がったのは、『雷』属性。
『雷属性、だと……!?』
お前の鋼鉄の皮膚って、正真正銘の鋼鉄なんだな。だから雷が伝導し、体の内側に直接ダメージが伝わった。
もう彼女らの攻撃は、お前に対して無意味じゃないぞ。
「効いてる! よくわからないけど効いてるよミラクちゃん!!」
「ああ! もう隙間を狙うとかどうでもいい! 片っ端から叩きつけていくぞ!!」
「「火光神雷!!」」
『うぎゃあああああッ!! やめろぉぉぉぉーーーーーッ!!』
ノヴァは叫びまわるが、牛型モンスターとしてはモーモー唸っているだけなので、カレンさんにもミラクにも意味ある言葉は届かない。
『何故!? 何故だ!? 複合属性なんて我ら神にも不可能な芸当を!?』
そりゃあお前ら仲悪いから。
心をぴったり合わさなければ、属性もここまで合わせることは不可能だろう。
『やめろ! ワシは神だぞ! お前に力を与えた火の神だぞ、そこの火の勇者! お前は、自分の崇拝する相手に刃を向けるのか!?』
今のお前は神じゃない。モンスターだ。
彼女の守るべき人々を滅ぼそうとした罪深きモンスターだ。
それをぶっ叩いて何が悪い?
『バカを言え! 人間は神の奴隷だ! 神が人間をどう扱おうと自由、殺そうと、弄ぼうと! ……アレ?』
やっと気づいたようだ。この僕が目と鼻の先まで接近していたことに。
ノヴァ=炎牛め。カレンさんとミラクの複合攻撃を食らった途端、大熱閃の攻撃を止めていたからな。
おかげで僕も暗黒物質の盾を張る必要もなく、自由に動くことができた。
「拮抗した千日手。崖っぷちだったのはお前も同じ」
『……あ、あの』
「わかってたんだろう? 大熱閃を防がせて、僕を釘付けにしていれば、とにかく反撃されることはない。僕の生み出す暗黒物質による反撃を」
『エントロピーさん。待って、話を聞いて……!』
「その名で呼ぶな。今の僕は人間クロミヤ=ハイネだ」
『はいっ! あの、ハイネさ……!』
「忘れたわけじゃあるまい。神代の戦争においてお前ら五神を敵に回してなお互角に戦った我が力を。すべての神力を消滅させる暗黒物質の恐ろしさを。ソイツで殴られたらどんなに痛いかを。ええ?」
『待って……ください。ボクら、ホラ、昔はあんなに仲良しだったじゃないですか。同じ神同士、仲良く……!』
「大熱閃を防御するために動けなかったが、勇者たちのおかげでこうして接近できた。拳の届く距離までな。たしかに、闇の神と言えど神は神。その僕が下す罰も紛れもなく神罰だろう。……さあ、火の神ノヴァよ」
今度はお前が神罰を受ける番だ。
ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
『ぐべええええぇぇぇぇぇーーーーーーーッ!! ぎゃぴぃぃぃぃいーーーーーッ!!』
炎牛の巨体に叩きつけられる無数のパンチ。
もちろんただのパンチじゃない。生成した暗黒物質付加のパンチだ。
暗黒物質は、拳を通して炎牛の肉体に浸透する。
『暗黒物質が! 暗黒物質がワシの体内に……! 消されるぅ、我が火の神力がドンドン暗黒物質に消し去られていくぅ~~……!?』
モンスターは五大神どもが人間への嫌がらせのために生み出した、自然の理から外れた生物。
その正体は神力のかたまりだ。
だから死ねばそのまま消滅するし、そして神力を消し去る暗黒物質に触れ合えば、その体積を消失させ、そのまま……。




