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262 死を意味する

 早速このオレ――、カタク=ミラクは、業炎闘士団から一部を残した全軍を動員、さらにその中から足の速い者を選抜して先遣隊を率いて進む。というか走る。


「即決即行だな。スピード重視の攻勢で、何を狙うミラク?」


 息も切らせずオレに並走する先代キョウカ姉者。

 この戦局ではもっとも頼りとなる味方となってくれるだろう。


「モンスターたちがひとりでに増殖している……、という報告が気になります。そのような事例は、今まで一度たりともなかった」


 そもそもハイネのヤツがマザーモンスターの存在を明らかにするまで、モンスターがどのように発生するかは世界の謎だった。

 その謎だった現象が、オレたちが向かっている先で現在進行形に起こり続けている。


「しかし教団間で共有した情報によると、マザーモンスターとやらはもう存在しないんだろう?」

「そう考えていい、という結論に達しています」


 魔王の中で一番最初に人類と遭遇したラファエルは、その生み主というべき風のマザーモンスターの命と引き換えに誕生した。

 それをハイネやカレンたちがしっかり目撃したという。


 魔王が、マザーモンスターの犠牲なくして生まれないものならば。

 地水火風の四魔王が勢揃いしている現状、同じく地水火風のマザーモンスターも全滅していなければおかしいことになる。


「それは……、突き詰めればこれ以上モンスターが生まれなくことを意味している……!」


 もし本当にそうなれば、人間側としては万々歳だ。

 いかに魔王が強力でも、一個体のみで種を存続することはできない。モンスターは滅びるべき種族となる。


「しかし、そんな都合よくいくとは到底思えません……」

「まったくだな、モンスター側とて何か新しい繁殖法なり増殖法を得ているに違いない……!」


 そうでなければ、万物の霊長の座を賭けて人類に戦いを挑んでくるわけがない。


「その答えが、目的地にあるかもしれないというわけか……!」

「かもしれません、しかし今は……!」


 見えてきた……!

 広大な平原を埋め尽くさんばかりに群れる、火属性モンスターたちが!!


 馬型モンスター、山羊型モンスター、鳥型、狼型、猿型、蝙蝠型、あるいはそれらの複合型。


 鳥類もしくは哺乳類のような高等生物を模すのが火属性モンスターの特徴だ。

 そしていずれも、体毛が炎のように揺らめいている。


「先手必勝だ! 行くぞミラク!」

「承知!!」


 オレとキョウカ姉者は速度を落とさず疾走し、モンスターの群れへと突撃する。


「炎拳バルバロッサよ!!」

「右の炎拳フェルナンド! 左の炎拳ペラリウス!!」


 二人の新旧勇者が備える、火の神具。そこから同時に放たれる……。


「「『フレイム・バースト』!!」」


 巨大な炎流が、すぐさま炎獣たちを飲み込んでいった。

 オレたちの放った炎の中で、ヤツらは一瞬と耐え切れずに灰になっていく。


 オレたちは火属性。相手もまた火属性。

 同属性同士なら、純粋にエネルギーの強い方が押し勝つ。


 かといっても、敵の数は最低でも五百。

 さすがに一発の『フレイム・バースト』で全滅できることは適わず、まだまだ全然残っている。

 オレたちは戦いの火蓋を切っただけだ。


 敵陣のほんの一部を焼き切り、そうして開いた傷口へ、後続の炎闘士たちが殺到する。


「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」「『ヒート・ナックル』!」


 そこかしこから上がる必殺技の掛け声。

 戦いは始まった。

 人とモンスターが入り乱れての乱闘あるいは死闘が繰り広げられる。


「ミラク! これは……!?」


 オレとキョウカ姉者は、互いの背中を守りつつ敵陣深く切り込む。

 オレたち新旧勇者が、自軍の要。できるだけ先行し、敵の群れを掻き乱さなければ。


「ああ、どいつもこいつも火属性モンスターだな! 団体様で同属性の火都へお越しとは! 一体どういうツアープランだ!?」

「同属性優待セールなど開いた記憶もありませんしね!」


 襲い掛かってくるヤギやオオカミどもを片っ端から焼き尽くしていく。

 結局のところは雑魚モンスター。

 キョウカ姉者はこんなヤツらと何千匹と戦って一度も負けたことがないし。オレだって巨大モンスターやマザーモンスターとやり合ってきた経験柄、今さらこんな連中に負ける気がしない。


「とにかく今は相手を全滅させることだ! このまま群れを突っ切って分断し、そのままUターンして、また群れを分断する!」

「そうして散り散りになったモンスターを炎闘士たちに各個撃破させるわけですね!? 心得ました!!」


 さすがにベテランのキョウカ姉者、群体モンスターの扱いも手慣れたものだ。


「焼き尽くされたいヤツからかかって来い! 火の勇者ここにあり!」


 姉者……!

 一応今はそのセリフ、オレが言うべきなんですが……!

 もういいからさっさと片付けてしまおうと思って、先へ先へと進んでいくと……!


「わッ!?」

「うおッ!?」


 いきなり何かに当たって弾き飛ばされた。キョウカ姉者も同様に。

 まるで厚い壁にでもブチ当たったような。

 一体なんだ? 何と衝突した!?


「いてて……、一体何が……!? うわッ!?」

「どうしたミラク? 何かおかしいものでも……、なッ!?」


 オレもキョウカ姉者も、目の前を見上げて固まった。

 戦場で呆然とするなど、本来絶対あってはいけないこと。

 百戦錬磨のキョウカ姉者ですら、そんな小娘のようなしくじりを犯してしまう理由があった。

 目の前のコイツを見れば、どんな古強者であろうと震え上がらずにはいられない。


 山のように巨大な男。ソイツに激突してオレもキョウカ姉者も弾き返されてしまった。

 たしかにオレたちは両方女で、体格も軽いが、それでも勇者として鍛えた突進力は並の男に止められる程度ではない。

 それを二人いっぺんに弾き返した巨躯。


 山よりも壁よりも、いかなる例でも表現し足りない巨大な肉体。

 その背から広がり、燃え盛る炎の翼。


 オレはソイツを知っている。一度だけ見たから知っている。

 思い出しただけで恐怖が湧き上がる、最凶最悪の相手。


 魔王。


「お前たちが、この人間の群れの中で一番強い者らしいな。では強者同士によって命運を決め合おう」


 その中でもリーダー格と目された火の魔王ミカエル。


「お互いが背負う、偉大なる命運を」


 ソイツに出会うことは、死を意味していた。

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