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256 終末のプロット

 さて、ここからは私が語り部を引き継ぐことにしましょう。


 邪悪なる光の女神の片割れ、サニーソル=アテスが。


 光の大聖堂における我が半身ヨリシロと、想定外に手強かった小虫コーリーン=カレンさんとの戦いを経てより数日。

 光都アポロンシティを脱出した私は、人里から遠く離れたある場所に身を寄せていました。

 人の世界と断絶した『ある場所』に。


 我が半身たるヨリシロに正体を明かした以上、最早私は人として生をこの体に送らせるつもりはありません。

 私はもうサニーソル=アテスとしてでなく、光の女神インフレーションの悪の半身として、神の務めを執行するのみ。


 ですが、紛らわしさを省くために今しばらくはアテスの名で通すことにいたしましょう。


 先ほど『ある場所』と称した我が棲み処ですが、そこは五大都市のいずれからも遠く離れた険しき山中にあり、人の足ではとても近寄ることはできません。

 その山中に、わたくしは神の力によって巨大な城を建て、そこを人類滅亡の基地に定めました。


 ……いいえ、正確には城ではなく、繭です。

 大切なる我が子、光の魔王ルシファーを治める繭。

 この城は全体が、光の魔王構築のために用意された生体外郭なのです。


「まだ時間が必要ね……」


 私は、城の内側で眠る可愛い我が子の育ち具合をチェックしていました。

 影槍アベルという最後のピースを手に入れてなお、私のルシファーは完成を見ません。

 ですが慌てることはありません。パズルのピースは既にすべて我が手の中にあるのですから。


「あとはそれを一つずつ、はめ込んでいけばいいだけ……」


 私は眠る我が子に一旦別れを告げて、下の階へと降りました。

 そこにいる、厄介な狂犬どもを手懐けるために。


             *    *    *


 部屋に着くと、早速問題が発生していました。

 四人いるはずのコイツらが、三人しかいないのです。


「……水の魔王、ガブリエルはどこへ行きました?」


 残りの三人を見回して、いなくなった一人を特定しました。

 コイツらは人間よりも随分特徴的なので、顔と名前が一致しないということはありません。


「さあね? 『面白いことを思いついた』とか言って出て行っちゃったけど、何処に行ったかまでは……?」

「何か趣向を凝らした人間の滅ぼし方でも考えたんだろう? 彼女は企画屋だからね。今に私たちをあっと言わせる地獄を用意してくれるだろうさ」


 地の魔王ウリエルと風の魔王ラファエルが軽口を言ってきます。

 このバカどもが……! と心の中で毒づかずにはいられませんでした。

 私の愛する闇の神エントロピーの目を盗み人間を滅ぼすには、それ相応の順序がいるといのに。コイツらはそれを理解しようともしない。


 所詮知恵をつけたと言えどもモンスターはモンスター。

 この獣どもを私のシナリオに沿わせるには、相当骨が折れるということですか。


「アナタ方、繰り返し述べますが、私は真魔王ルシファー様の意を伝える者です」


 私はそういう設定で、彼ら魔王をこの城に呼び込みました。

 現在、人間の体を持つ私がヤツらと従えられるとしたら、これ以外の方法はないでしょう。


「光を司る魔王ルシファー様の、私は下僕。いまだ完成に向けた眠りにつき、言動思うがままにならぬルシファー様は、この私をもってアナタ方へのメッセンジャーとしました。私は、ルシファー様の言霊を預かる者。いわばルシファー様の巫女」


 当然方便です。

 ですがこうでも言わなければ、外見はまだ人間である私の言葉に、魔王どもは耳を傾けようともしないでしょう。


「私の言葉は、ルシファー様よりのお言葉と受け取ってください。もし私の言葉に逆らうというのなら、後日覚醒せしルシファー様自身の手によってその正否を決めていただくこととなりましょう。よろしいですね?」


 やや強い口調で迫ると、意外に魔王たちは従順でした。


「チッ……。わかっているよ、ルシファー様のお言葉は絶対だ」

「キミが案内してくれたこの館も居心地がいいしね。今しばらくはキミの言うことをルシファー様のお言葉と思っておいてやってもいい」


 舌打ち交じりではありましたが。

 まあいいでしょう、コイツらが私の思惑通りに動く駒であれば、それでいいのです。


「では、早速ですがアナタ方にルシファー様よりのご命令をお伝えします。戦いの時は来ました」


 そう言った瞬間、魔王たちの間で昂揚が走るのを、私はたしかに感じました。


「モンスターと人とによる、世界の新しい支配者を決める争いが、ついに始まるのです。ルシファー様の望みは破壊、そして根絶。この地上をモンスターの楽園とするため、旧き種である人間は一匹残らず消え去るのです。……アナタ方の手によって」

「死の饗宴を、ルシファー様はお望みなのだね?」

「面白いじゃないか。ついにあの傲慢ぶった人間どもを皆殺しにする時が来たか」


 魔王たちも思った以上に意欲を剥き出しにします。

 人間抹殺は、命令されるまでもなく彼らの悲願。それに昂揚するのはいわば魔王としての本能なのでしょう。

 これは、よい流れとなりそうです。

 私は早速、策を語ることにしました。


「アナタ方の実力は私も充分存じております。人間そのものを殲滅するに、アナタ方の一人もいれば容易いことですが、たった一人の問題が、それを極めて困難にしています」

「クロミヤ=ハイネ」

「あの闇の使い手か……。たしかに彼は厄介なんてレベルじゃあないね」


 意外にも魔王たちは冷静に、彼我の戦力を分析することができました。

 彼らほど絶対無敵の力の所有するなら、その力にプライドを持って、自分より強い者の存在など受け入れられず猪突するものかと思いましたが……。

 これはますますうまく使うことが出来そうです。


「そこでルシファー様は、アナタ方に策をお与えくださりました」

「策だって?」

「そうです。アナタ方四魔王による、五大都市の同時襲撃です!!」


 光都アポロンシティ。

 火都ムスッペルハイム。

 水都ハイドラヴィレッジ。

 地都イシュタルブレスト。

 風都ルドラステイツ。


 この五大都市はそれぞれ離れたところにあり、ハイネさん一人で守り切ることはとても不可能。

 所詮人間側などハイネさんを除けばすべて雑魚。

 ハイネさんのみを戦力と考えれば魔王との人数差は一対四。

 その数の利を最大に活かして、彼の守りきれない部分を徹底的に破壊し尽くすのです。


「ハイネさんが本拠としているのは光都アポロンシティ。アナタ方にはそれ以外の四つの都市を襲っていただきます。ハイネさんは慌てて救援に向かうでしょうが、一度に助けられる都市は一つだけ。それ以外の三都市は同じ日に、地図から消えることとなるのです」


 その都市を守る勇者もろともに。


「逆に言えば、どれか一つの都市はクロミヤ=ハイネによる救援を受けられるってことだよね?」

「それにブチ当たってしまった魔王はどうするんだい?」


 しっかりした質問をして来る連中ですね。

 やりやすいような、やりにくいような……!


「それは各人の采配に任せると致しましょう。魔王の誇りを懸けて闇に挑戦するもよし。安全策を取って撤退するもよし。この策のもっとも大事なところは、ハイネさんを攪乱することにあるのですから」


 いずれにしろ魔王による同時多発攻撃は、人間の世界にかつてない破壊と混乱をもたらすはず。

 ハイネさんもそれを防ぐことはできないでしょう。

 所詮あの人は一人。

 他に多少気になる者がいないわけではないですが、ヨリシロは私みずから出向いて押さえればいいですし、クェーサーの転生者たる風の教主は既にボロボロの戦力外。

 論ずるに値しない者たちばかりです。

 繰り返して言いましょう。

 たった一人のハイネさんに、魔王たちを押しとどめることはできない!


「さあ、お行きなさい魔王たち! 人間どもの築き上げた都市に赴き、人間どもの生き血を杯に汲んでくるのです! 数千でも数万でも! ルシファー様ご覚醒のその時、乾いた喉を潤してもらうためにね!」


 それに応えて、魔王たちはこう言いました。


「「今はまだいいや」」


 えッッ!?

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