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25 闇の神vs火の神

 ドシン、ドシン。

 地震のごとく足元を揺らされるのは、その実地震が原因ではない。

 あの炎牛ファラリスが、足を一歩踏み下ろすたびに地面が揺れるのだ。


「何故……!? 炎牛ファラリスがあれほど活発に動くなど、記録にもなかったのに……!?」


 事態を見守るだけのミラクが呆然と呟く。


「ボサッとしてる場合か!」


 本当にボサッとしているミラクを叱咤しつつ、僕は全力で駆ける。

 あのクソ牛を追うためだ。


「ヤツがどこを目指してるか、お前ならわかるだろう! 何せ地元なんだからな!」

「ではやはり……! ヤツはムスッペルハイム――我ら火の教団本部がある街を目指しているのか!?」

「カレンさん!」

「え? は、はい!?」


 ミラクと共に、僕に引っ張られる形で走っているカレンさん。


「ヤツの足止めは僕が引き受けます! カレンさんはミラクと一緒に、ヤツを倒す手段を探しだして!」

「ええッ!? そんな! あんな巨大なモンスターを倒すなんて……!」

「それが勇者の仕事なんだろ!」


 その一喝で、カレンさんとミラクの足が同時に止まった。

 彼女たちを残して、僕はなおもスピードを上げ、あのクソ巨牛の前方に回り込む。

 頭部だけでも僕の体よりなお大きい。そんな巨牛の両眼が僕を映す。


『……まだ用か闇の神?』


 そうだ、このクソ牛の中身は、創世の五大神の一人、火の神ノヴァ。

 自分の手で作り出した最強モンスターに自分の魂を転生させた。かなり大掛かりな、かつ善からぬことを企んでいる臭いがプンプンする。


 で、何処へ行くつもりだ? こっちの方向に何があるか知ってる上での大移動か?


『無論よ、人の子どもの大きな街があるんだろう。そこをブチ壊しに行くのよ』


 ……ッ。やはりか。

 だが本気か? この先にあるムスッペルハイムは、火の教団本部のある街だぞ。お前自身を崇め奉る人たちの集まる街だ。よりにもよってそこを壊そうというのか?


『関係ないわ。神を崇めることを忘れた人の子はどれも等しく罪人よ。それに滅ぼすのはその街だけではない。全人類の半分でも殺し尽せば、少しは神への恐怖を思い出すだろうて』


 貴様! やってることが矛盾しているだろう!

 自分たちを崇拝しないからと言って、人間は死ねば祈ることもできなくなってしまうんだぞ!


『我らを崇拝しない人の子など生きる価値はないということだ。何心配ない、エーテリアルなどという無駄技術のせいで今の人の子はいささか増えすぎておる。多少間引いたところで、残りのゴミどもが神の偉大さを思い出し、全力で崇拝すれば、祈りのエネルギーはガッポガッポと流れ込んでくるわ!!』


 …………。

 どうやら千六百年の間、お前ら神は何も変わらなかったらしいな。

 かつて戦った時と同じ、人間を見下すばかりだ。


『人の子は神が作り出したのだ! 当然のことであろう! そんな人の子に転生した酔狂な闇の神よ! さあどくがいい! ワシは神の務めを果たしに行くでな!』


 ここでどくようなら千六百年も封印されてねえよ。

 いささか唐突だが仕方ない、神代の戦いのリベンジマッチと行こうじゃないか!


『しゃらくさい……。だがな闇の神よ。ワシとてモンスターに転生しつつも全能なる神の一人。別にここにいながらでも、街一つ滅ぼすぐらい容易いのだぞ?』


 そう言って巨牛は、ガパリと口を開けた。

 元々が巨体だけに、それが大口を開けるとその穴のデカさはまるで洞窟のようだ。


『闇の神よ。何故ワシはこんな巨大なモンスターを作り出したと思う? しかも自分が転生する用にな? 答えは、ここまで巨大でなければ収まらないからよ。神が振るう力はな』


 まさかお前……!?


『この鋼の牛の中には、我が火の神力を塊にして入れてある。それゆえの巨体、鋼鉄の皮膚。見るがいい、その力の噴出を!!』


 ぽっかりと空いた大口の奥から、メラメラと光が上ってくる。


『大・熱・閃!!』


 巨牛が口から吐き出したのは、すべてを飲み込むほどに巨大な熱の閃光。

 それを僕めがけて放ってきた。

 イヤ違う、僕の背後の直線上にはムスッペルハイムの街が。あの熱閃の規模からみて射程は充分街に届く。狙いは最初からそれか!


「くっ……! ダークマター・セット!!」


 我が全身から噴き出す暗黒物質。それを盾のように広げて大熱閃を迎え撃つ。

 ぶつかり合う闇と火の力。僕の暗黒物質の盾は、何とか大熱閃を防ぐことに成功した。


『忌々しい……! 我ら神の力をすべからく消し去る暗黒物質よ。我が渾身の大熱閃すら消し防ぐとは。矮小な人の子に生まれ変わっても、その力は損なわれておらぬのだな闇の神』


 だから昔から言ってるだろう。人間は偉大なのさ。


『その偉大さとやらも神の役に立たぬなら意味なし。お前の暗黒物質は確かに厄介だが、防御に徹するならば怖くもないぞ。いつまで防ぎ続けておるつもりだ? 大・熱・閃!!』


 再び巨牛の口から放たれる高熱砲。

 僕もまた暗黒物質を展開して防ぐより他にない。


『また律儀に防ぐか。防ぐより避ける方が簡単だろうに。……わかるぞ、避けてしまえば我が大熱閃は、ずっと後方にある人の子どもの街を直撃するからなあ。一撃で全滅するであろう。人の子ごときを気遣って全力を出し切れぬとは、相変わらず愚かなる神よ!!』


 炎牛ファラリスが――火の神ノヴァの野郎が放つ熱閃の出力を上げる。

 そして僕はそれをただひたすら防ぎ続ける。

 悔しいことだが相手も神。ヤツの怒涛の攻撃にこちらも防御が精一杯で、反撃の糸口が見えない。

 これはまさに千日手。

 相手が神でこっちも神なら、この拮抗した状況も当然の帰結だった。

 だから、この状況を打開するには別のきっかけがいる。神ではない別の何かによる介入が。


 勇者二人。


 この戦いの結末は、彼女らが握っている。

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