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242 影禍再び

「『聖光制圧掌』!!」


 再びヨリシロ様の掌から放たれる高圧縮の光の神気。

 しかしそれはアテス様を吹き飛ばすことはしなかった。

 漆黒に包まれた槍が、光をすべて吸収してしまったからだ。


「……ッ!?」

「何度やっても無駄ですよ。やはりこういう時は、賢い人でもやることは同じなのですねえ……! 無駄なことを何度でも繰り返す」


 勝ち誇ったアテス様の両手で振り回される、左右一対の二槍。


 右の光槍カイン。

 左の影槍アベル。


 私など遥かに超える大出力の光の神気を使うヨリシロ様が、一気に形勢逆転されて手も足も出ない。


 それほどに『影』の力とは、光の神力使いにとって最悪の天敵なのだ。

 本来ならば地水火風、すべての種類の神気に対して不得手をもたず、むしろ全部に対してある程度の優位性を持つ。世界に一人しか扱う者のいない希少属性『闇』に対しては天敵というべきほどの優位性を誇る。

 そんな一見万能の光属性でも、たった一つ、どうにもならない相手がいる。


 それが『影』。


 影は光によって生み出される疑似の闇。

 光が強ければ強いほど強く濃厚になっていく。影使いは光の神気を吸収して、際限なく肥大化していく。


 私たちが影を敵として悪戦苦闘したのは、何もこれが最初ではない。

 かつて誰にも知られぬ闇都ヨミノクニを探検しに行ったときのこと、全身を影に変えた怪物に襲われて、私もヨリシロ様も手も足も出なかった。

 ヨミノクニから生きて帰れたのは、光以外なら何だって闇で消滅させられるハイネさんがいてくれたから。

 しかし今、ハイネさんはテロ事件の大ケガでまだベッドの中。

 来援は見込めない。

 さらに同じ影の力を使うドラハさんも、今は万一のためにハイネさんの警護に付いていた。

 今戦えるメンバーの中に、アテス様の影の力を何とかできる者はいない。


「フンッ!」


 アテス様が再び光槍カインを振る。

 放たれる膨大な光の神気が、背後の地面を吹き飛ばす。

 横一文字に地面が抉られ、その勢いによって起こる土石の津波に、アテス様を逃がすまいと固まっていた光騎士たちが大きく後退する。


「アテス……! まさかアナタが、影の力を会得していたとは……!」


 さすがのヨリシロ様も、事態の深刻さで眉間に皺が浮かぶ。


「私がアナタに追い落とされていた間、何もせず遊んでいたと思う方がおかしいのです。アナタによって与えられていた寸暇は存分に有効利用させていただきました」

「無論、アナタが何もせず大人しくいているとは思いませんでしたが、動くならもっと政略的な小狡い動きをするものと思っていました。まさかそんな地道な努力を行っていたとは……!」

「死ぬ間際まで憎まれ口とは、アナタらしいですね」


 いけない! アテス様は――、いいえアテスは、本気でヨリシロ様を亡き者とするつもりなのだ。

 そしてヨリシロ様には、それを阻止する手立てがない。

 影に対する光の無力さは、ヨリシロ様だって嫌というほどわかっているはずだから……!


「アテス。最後に聞かせなさい。アナタどうやって影の力の存在を知りました?」


 顎の先から緊張の汗を滴らせながらも、ヨリシロ様の洞察は鋭い。


「光の力を変質させることで得られる影の力は、偶然気づける類のものではありません。誰かから教えてもらったのか。あるいは……!?」

「愚問ですねヨリシロ。アナタの知っていることなら、私は何でも知っているのですよ」

「?」

「私はアナタ。アナタは私……」


 アテスがヨリシロ様へ向けて一歩踏み出す。

 勝負を決めに行こうとしているのは一目瞭然だった。つまり、ヨリシロ様にとどめを刺そうと……!?


「待ちなさい!」


 私は、駆け出し、庇うようにヨリシロ様の前に立った。

 聖剣サンジョルジュの切っ先を、まっすぐアテスへ向ける。


「カレンさん……ッ!?」

「あらあら……?」


 私が戦線に加わる素振りを見せても、アテスは少しも動揺していなかった。


「やはり小娘はおバカですねえ……。アナタもまた光の勇者である以上、私の影槍には手も足も出ないということがわかりませんか?」

「それでも教主を守るためには戦うのが勇者です! ヨリシロ様! ここは撤退を! アテスは私が押さえます!」


 無論、光だけが武器の私にとっても、影の力を得た今のアテスは、絶対勝てない相手。

 しかしそれでも、与えられた勇者の務めは果たす!


「ダメですカレンさん。アナタこそお逃げなさい」


 ヨリシロ様は厳しく言った。


「病院へ行って、ハイネさんを護衛しているドラハを連れてきてください。影の力を手にしたアテスを倒せるのは、同じ影の力を持つドラハ以外にはいないでしょう。いつもの小型飛空機を使えば、数分足らずで辿りつけるはずです。わたくしが彼女を抑えているうちに。……さあ!」


 ヨリシロ様。私にはわかるんです。

 ドラハさんを呼びに行っている、その数分間で、ヨリシロ様は確実にアテスによって殺されると。


「私は……、ヨリシロ様を死なせたくはありません」

「カレンさん……!」

「勇者としての務めもありますが、私はヨリシロ様のお友だちです!」


 友だちを見捨てるなんてこと、私はしたくない。

 ついさっき、ヨリシロ様は私に対して言った。「アナタだけは汚らわしい暗闘から無縁でいてほしい」と。

 それは勇者である私のイメージダウンを避けたいこともあるだろうが、私には別にもう一つの理由があるように思えてならなかった。


 ヨリシロ様は嫌われたくなかったのだ。私やハイネさんから。

 権謀術策を用い、汚い卑怯な手すら使って相手を陥れる自分の姿を見られ、嫌悪されるのが怖かった。

 この人はそういう人だ。

 理屈と知性という鎧で心を固めながら、その中身は、人と接することにこの上ない憶病さを抱えた人。


「私は、ヨリシロ様のことが大好きです。私はヨリシロ様の、全部を好きでいたい!」

「カレンさん……!」

「好きな人の美しいところや、綺麗なところしか見ないで好きだなんていうのは、違うと思います! ヨリシロ様がそうでない部分を隠そうとしても、私は踏み込みます!!」


 私は過去、そうやって何人もの友だちを得てきた。

 だから今日も。


「一緒に戦いましょうヨリシロ様! 今日の敵が、まさにヨリシロ様の醜い部分そのものだというのなら、私はヨリシロ様の友だちとして、その敵と戦います!!」

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