表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/434

24 世界の真実

 エーテリアル?

 百年ほど前に人間が発見したという新物質か?

 エネルギーを発して機械を動かし、文明の発展に大きく貢献したという。


『そう! それがいかんのだ! 人間が発展などしてはいかんのだ!!』


 は?


『人間は進化する必要はない。いつまでも愚鈍で、弱く、我ら神々に縋り、従っておればよかったのだ。なのにエーテリアルとかいうクソが掘り出され、それを使って走る機械、火をおこす機械、水を浄化する機械、土を耕す機械。色んな機械を生み出しおった。その結果、人間どもは自分で考え、自分で行動するようになったのだ!』


 ……大変いいことじゃないか?


『よくないわ! おかげでヤツらクソ人の子どもは、我ら神をまったく崇め奉らなくなったんだぞ!!』


 あ。

 それは光の教団本部でグレーツ中隊長と話したこととまったく同じだった。

 機械が生まれ、文明が発達することで人は神を忘れるのだ。まだ忘れかけている、といった段階だが。


『人が神を忘れるなどあってはならんのだ! 人は永遠に神に従属せねばならんのだ! なのにヤツらは不遜にも、我らの支配から脱しようとしておる! だから罰を与えることにしたのだ!!』


 それがモンスター。

 自然の理から離れた凶悪な生物を生み出し、人間を襲わせた。

 それは大きな問題となり、ヤツらとの戦いという無用な作業を背負わされた人間は文明の発展を遅らせた。


 なるほどお前らがモンスターを生み出した理屈はわかった。正確には屁理屈だが。

 ではもう一つ質問だ。

 ならば何故お前らは勇者まで生み出した。

 勇者たち、それに光の騎士団や火の闘士団がわずかに使う神力は、お前たち神が分け与えたものだろう。

 人を罰するつもりでモンスターを生み出したのなら、何故それに対抗する手段をワザワザ人に与えた。


『それはワシの思惑ではない。他のヤツらが言い出したことだ。モンスターによって窮地に陥った人の子を神の力で救えば、愚鈍なヤツらも神への感謝を思い出すだろうとな』


 なるほど狡賢いコアセルベート辺りが考えそうなことだ。

 そんな姑息なマッチポンプで人々からの信仰を繋ぎとめようとは、千六百年のうちに神も随分落ちぶれたものだな。


『だがワシは、そんなやり方は生ぬるいと思った』


 …………。


『追い詰めて、救い、そんなちまちましたことの繰り返しで失われた祈りのすべてが戻るものか。人の子どもに必要なものは、恐れ。神に対する恐怖を嫌というほどに刻み付けてやればよいのだ。感謝も、信頼も、尊敬も愛情もいらぬ、人は神を恐れさえすればよいのだ』


 巨牛と化した神がいななく。


『恐れこそがもっとも純度の高い祈りとなる。ゆえにワシは行動に出た。他の連中のように悠長になぞやってられるか。人の子ども全員に神を忘れた罪深さを思い知らせてやるのだ!!』


 だからお前は、そのモンスターに転生したというのか?


『そうだ! ワシはワシの権能をもてる限りに最高のモンスターを創造した。それがコレだ! 人の子どもが炎牛ファラリスと呼ぶコレに魂を宿し、準備は整った。あとは時間を待つだけだ。この体が、我が神力を存分に振るえるほどに成長するまでのな!!』


 それでは……!

 ミラクが言っていた、炎牛ファラリスがモンスターの行動学に反してこの場にとどまり続けた理由とは……!


『成長するのを待っていたのよ! だが頃合いかな!? もう少しデカくなってもよかったが、貴様がやって来たのがいい機会だ!! 始めるとしよう、思い上がった人の子どもに下される「神罰」を!!』


              *   *   *


「ハイネさん! ハイネさん!! どうしたんですかハイネさん!!」


 カレンさんに肩を揺さぶられていることに気づいた。

 どうやらヤツとの交信に没入していたらしい。


「いきなりぼうっとして動かなくなっちゃうんですもの。モンスターの方も急に動かなくなったからいいですけど。戦闘中にのんきすぎです!」

「カレンさん……! たしかに、もうのんきしてる場合じゃないぞ……!」

「えっ?」

「ヤツも動き出す。これ以上ないくらい最悪に!!」


 そう言ったのと同時だった。

 見上げるほどに巨大な炎牛が、地面を鳴らし、山を揺らしながら動き出す。

 それまで精々たかるハエを追うように炎熱を振りまいていただけなのが、前脚を踏み鳴らし、後ろ足を蹴って、本格的な移動を始める。

 しかも、その鼻先が指す方向は……。


「バカな……!」


 それまでずっと事態を見守るだけだったミラクが絶望と共に呟いた。


「ヤツが向いているのは、火の教団本部のある街、ムスッペルハイムのある方角ではないか……!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ