表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/434

237 途切れた糸

 光の大図書館立てこもり事件は、当日のうちに無事解決となった。

 幸いにも人質となった被害者には一人の死傷者もなく、念された図書館内の蔵書も、紛失破損などまったくないままに済んだ。


 犯行を企てたテロリスト犯は、総勢六十余名の大人数となったが、その全員が死亡。

 突入した光騎士との戦闘によってではなく、一人残らず自爆したのだった。


 自爆……、という言い方が正しいのかどうか。


 突入した光騎士からの報告によれば、図書館外縁部に配置された見張り役と思しきテロリストは、突如口や目から光を放ち、それに呼応して体がどんどん膨らんでいって、最後には破裂するように爆散していったという。


 図書館中央部『女神の間』で人質を捕えていた一団も同様で、しかしそのエリアにおいては先んじて突入していたドラハさんが完全に爆発を封じ、事なきを得た。


 でも……。


 たった一つ、無視することのできない損害が。

 私――、光の勇者コーリーン=カレンにとって、とても事件解決の喜びに浸ることのできない。

 重大な出来事が……。


             *    *    *


 光都アポロンシティ、光の大病院。

 その一角にて、私たちはまんじりともせず立ち尽くしていた。

 先に銃創の治療を済ませたグレーツ騎士団長も、他の任務で不在だったベサージュ中隊長も、今はこの場に駆けつけている。


「すみませんカレン様、私が付いていながら……!」


 事件現場にいたドラハさんは人一倍責任を感じて気落ちしていたが、彼女が悪いはずがない。

 ただ、私は彼女に懸けてあげるべき言葉が何かわからなかった。

 いや、ドラハさんだけに対してじゃなく、すべての言葉を失ってしまったかのようだった。

 あの人がいなくなったら、私の世界はすべてを失う。

 それを今から予告されているかのようだった。

 仕方なく、自分より少し背の小さいドラハさんの頭を撫でる。これで何とか彼女を慰められればと思った。


 ……やがて、『処置室』という表札のついた部屋のドアが開く。

 その向こうから現れたのは、私たちが教主と仰ぐヨリシロ様……!


「ヨリシロ様!」「ヨリシロ様!」「教主様!」「ヨリシロ様!」


 光の教主みずからによる治療。

 それ自体驚くような展開だが、果たしてその成果は……。

 ハイネさんは、大丈夫なの……!?


「ご安心なさい。あの方は、この程度でどうにかなるような粗末な方ではありません」

「ではッ!?」


 私は、ヨリシロ様が出てきたばかりのドアに入り、室内にあるベッドの上を見た。

 そこに横たわる満身創痍の男性。

 ハイネさんは、体中に傷跡を負って包帯だらけになりながらも、それでも穏やかな寝息を立てていた。


「よかった……!!」


 気が抜けて、へたへたと病棟の床に座り込みそうになるのを、ドラハさんが支えてくれた。

 治療を行ったヨリシロ様が、ハイネさんの病状その他を含めた説明を始める。


「まず、ハイネさんに傷を負わせた原因でもあるテロリストの爆散。それ自体は大したものではありませんでした」


 図書館内で起きた、不可思議な現象。


「『女神の間』を占拠した一団はドラハが完璧に封殺してくれましたが、それ以外の外縁部の見張り役も、同じように爆散しました。しかしながらその爆散は、彼ら自身を砕いただけで周囲には何の被害も与えませんでした。爆発に巻き込まれた光騎士も傷一つなく。精々頭から血や内臓を被って悪夢のような思いをしたというだけ」


 その報告は私も聞いた。

 だからこその本事件、被害なしの完全解決なのだった。


「でも、なら何故ハイネさんだけがこんな重傷を……!?」

「それは、この人の在り方に大きな関係があります」


 ハイネさんが使う力は闇。

 そして闇は、光を最大の天敵とする。

 その破砕を至近距離で受けて、ハイネさんは今までにない大ダメージを負ってしまった。


「さっきまでの治療で、ハイネさんの体に食い込み残った光の神気を回収、除去しました。これで光がこれ以上ハイネさんを侵食することはありません。あとはこの人自身の再生力が、この人を快方に向かわせるでしょう」


 よかった、本当によかった……!

 ハイネさんが死なないで。

 この場ですぐにハイネさんに抱きつきたかったけれど、いまだ傷を負って眠るハイネさんに無茶なことはできないし、グレーツ団長たちもいた。

 必死の理性で自重した。


 男性の方々もハイネさんの枕元に立ち、その寝顔を確認して安堵の表情を浮かべた。

 グレーツ騎士団長とベサージュ中隊長。


「……コイツ、自分の一番怖いものに迷わず向かっていったんですね。私は、コイツが強いから怖いもの知らずなんだと思っていました。でも違った。ハイネは本当に心から強いヤツだったんですね」

「教主様の説明を聞けば、コイツが体を張ることもなかったのかもしれねえ。でも、それはあの時誰にもわからなかった。もしかしたら図書館すべてを爆発で吹き飛ばしたかも知れなかったんだ。そんなこともわからず『無駄なケガしやがった』なんて言うヤツが極光騎士団にいたら……。ベサージュ、オレ様たちでぶん殴るぞ」

「承知」


 最初は決して仲がいいわけではなかったのに。

 いくばくかの時間が過ぎて、光の教団はたしかにハイネさんの居場所になっていたんだね。

 緊張が解けた私の胸に、また温かいものが広がり始めた。


「……結局、今回犯行を企てたテロリストは全員死亡してしまいました」


 ヨリシロ様が、違う声のトーンで語りだす。

「身元が判明したのは、外に出て騒ぎ立てていたドッベ前騎士団長、ただ一人。それ以外の犯人は、突如意味不明の爆散をしたこともあって、死後身元を確認することすらできません」


 現場に突入したドラハさんの話によれば、テロ犯は光の女神インフレーション様以外の、他の五大神を賛美するような言動をしていたという。

 つまり今回のテロ犯には、光の教団以外の人間も混じっていたということ?

 しかしその真相も、犯人の体自体が粉々になってしまったことで確かめようもなくなってしまった。


「わたくしはそれこそが、爆発の目的だと考えます」

「えっ!?」


 ヨリシロ様の言い出したことが、私には最初よくわからなかった。


「もしテロ犯が生きて逮捕され、動機や犯行方法について喋られれば、困る人間がいるということです。その人間が実行犯を殺した――、より正確に言えばトカゲのしっぽを切り捨てた」

「そのために……、口封じ!?」


 ではこの事件、表に出てきたドッベたちを裏で操る黒幕がいるということ!?

 でもその黒幕が誰かを暴くには、決定的な手掛かりが、当の一番悪い人間によって抹消されてしまっていた……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ