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236 光去れ

 口から光を吐き出したのはドッベだけではなかった。

 図書館を襲ったテロリストたち。今は暗黒物質で精魂枯らされたはずのアイツらが、ドッベと同じ異常を発していた。


「何だ!? 何なんだ!?」


 サッパリわけがわからないが、とにかくマズいということは確信的に間違いない。


「くッ!!」


 真っ先にドッベへ向った。

 やはり一番手近にいたから。暗黒物質を発生させ、ドッベの口や鼻から漏れだす光を消そうと、ヤツの顔を覆うが……。


「なッ!?」


 僕の操る究極の闇は、ドッベから噴き出す光に容易く裂かれて消えていく。


「これはまさか……ッ!?」


 光の神気!?

 地水火風――、四元素の神気を絶対的な優位性で消滅させることのできる闇の神気。

 その闇の神気に絶対的な優位性を持つのが光の神気。

 世界広しと言えども、僕の暗黒物質を正面から消し去れるのは、光の神気を置いて他にはない。


 ……では、このドッベどもの口や鼻からビャーッて噴き出ている光は、見たままに光の神気。


「ハイネ様! お下がりください!」


 次に動いたのはドラハだった。

 先と同様、重なり合って一続きになっている影を利用し、その延長線上にある影どもを操作、底なしの沼に変えて、テロリストどもを沈みこませる。

 その間も変化は不気味に起こっていった。

 テロリストたちは口鼻どころか耳や目、至る穴から光が漏れ出し、その上に腹部が、風船のように膨らんでいく。

 どんどん膨らむ。もはや破裂してもかまわないというほどに。

 もう爆発系でヤバいとしか思えない状況だったが、幸いにもテロリストたちは影の中に沈み、完全に姿を消した。

 闇にとって光が天敵ならば、光にとっての天敵は影。

 光が強ければ強いほど濃く明確になっていく影は、光の神気を吸収して自分の力に変える。


 ドラハなら、一度ヤツらを影のフィールドに閉じ込めれば噴き出す光を吸収し、そのまま相手を抑え込む力として上乗せすることが可能だ。


「ハイネ様!!」


 ドラハが表情を歪めながら言った。


「そこの男から離れてください! ハイネ様が近くにいすぎて、そのままではハイネ様ごと影の中に取り込んでしまいます!!」

「わ、わかった……!」


 ドラハ、何だか苦しそうだが。

 四元素の神を憎むあまり、一度は影と完全に同化した彼女にとって、あまりにたくさん光を吸収して影を増大させるのは、暴走の危険性を招くことになる。

 一度に三十人前後の、何故か知らないが体内から光の神気を噴出させる輩。それらを相手に彼女のキャパシティは軋んでいるに違いない。


「ハイネ様!! 早くッ!!」

「おおッ!」


「何グズグズしてんだ!?」とばかりにどやしつけられ、ようやく僕は間近にいる相手、ドッベから距離を置こうとした。


 これからコイツらがどうなるか見当もつかないが、まず間違いなくロクでもないことになる。

 その時、何の関係もない人々がとばっちりを食らうのだけは絶対にいけないんだ。

 ここにいるテロリストどもは全員、影の中に沈められなければ。

 ドッベも、しかし……。


 ヤツの腕が、ガッと僕を掴んだ。


「なッ!?」


 ドッベのヤツは、両目からも光を放ち、眼球はカラカラに乾いて萎んでしまっていた。

 それなのに、何故僕のことを正確につかめたのか?

 クズにはクズなりの、最後の執念があるのか。


「こ、こうなった以上、私は死ぬ……!」

「知るかッ!? 離せ!」


 蹴りを入れてドッベを引き離そうとするが、最後の力を振り絞ってか何があっても離れる気配がない。

 そうこうしているうちに、ドッベの体はどんどん膨らんでいく。破裂寸前と言わんばかりに。


「しかし、最後に貴様だけは道連れにしてやる……! お前が悪いのだ。元はと言えば、すべての災難の始まりは、お前が現れたことだった……!」

「何をッ……!?」

「お前さえいなければ、カレンの小娘も私の言うことを聞くように躾けられた……! ヨリシロの淫売も、私を目の敵にすることもなかったのだ! お前が悪い。お前が悪い! 私が死ぬというのに、お前が生き残るなんてズルすぎる!!」


 何と言う自分勝手!

 とにかく全力で振り解こうとするも、コイツは凄まじい握力で、僕の皮膚に爪を食い込までて血が流れ出すほどだった。

 本来なら暗黒物質で吹っ飛ばすのが一番いいのだが、体中から光を漏らしているために闇の力は完全無効化されてしまう!


「くたばれ正義の敵めぇーーッ!! 光の女神インフレーションよ! この真なる光騎士ドッベの最後の善行をご覧くださいぃーーーッ!!」


 ドゥンッ!!


 どこかから響き渡る爆発音。

 それは影の中からだった。

 先んじてドラハの影に沈められたテロリストたちが、内側から増大する光の神気に耐えきれず破裂する音か!?

 では目の前のドッベもいずれ……、いやそんなあやふやな話ではなく確実に、次の瞬間にも大爆発を起こしてしまうかもしれない。

 そうなったら被害はどれほどか?

 まさか、図書館を丸ごと吹き飛ばしてしまうほどじゃないだろうな!?


「ハイネ様! 早く離れてください!! ソイツを影に封じ込めないと……!!」


 この場にドラハがいてくれて本当によかった。

 光に絶対的な相性のよさを持つ影の力だから、あのテロリストどもを完全封殺できたんだ。


 残るはこのドッベ一人。

 ドラハがここまで頑張ってくれたのに、コイツ一人ですべてが台無しになってはダメだ。

 コイツを影の中に沈める方法は、一つしかない。


「このぉーーーッ!!」


 僕は、ドッベを引き離そうとするのをやめ、逆にコイツに飛びついた。

 そのまま、自分諸共ドッベを影の中に沈めていく。


「だったら望み通り、一緒に地獄に行ってやる!!」

「ハイネ様! まさか!!」


 そうだ。

 僕自身もコイツと一緒に影に沈む!

 光を完封する影の中ならば、どんな大きな光爆発も周囲に危害を加えることはできない!


「わだしは……、きょっこう……騎士団長……! ゆいじょある、ゼーベルフォン家の……! どうしゅ……!!」


 もはやドッベは人であることを失っていた。

 だからこそ迷いは吹っ切れた。

 全力で、人であったものを影の中へ沈める。

 やがて僕自身、すべての感覚が影の中に沈み、やがて至近距離から、眩い爆発が起こった。

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