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235 道化退場

「……ゼーベルフォン=ドッベ!?」


 玄関前でグレーツ団長とやり合っていたはずのヤツが、何故今ここに?

 突如現れたドッベは、しかし、表情は砕け散って涙や鼻水で汚れきっていた。グレーツ団長の気迫によって肚も肝もガタガタに揺さぶられた結果だろう。

 完膚なきまでに言い負かされて、逃げ帰ってくる途中で僕たちによる中央制圧が始まった。

 そのため外部から突入する光騎士たちからも逃げおおせ、ここまで到達できたというのか。

 運だけはいいヤツだ。悪運か。


「この……ゴミども。クズどもバカどもマヌケども!!」


 もはや精根尽き果てたのか、罵倒の言葉も知性がない。


「何故私を蔑ろにするのだ……!? 私は栄えあるゼーベルフォン家なのだぞ……! 偉いのだ。貴様ら下々の連中とは、生まれの高貴さからして違うのだ。下賤の者は、高貴な者に絶対服従して当然だろうが!!」

「高貴な人間には、それ相応の義務がある」


 律儀に答える僕。


「その義務を怠ったお前は、誰からも尊敬されない。それだけだ。グレーツ騎士団長からも同じことを言われただろうに。何度言えば理解できるんだ、お前は?」

「うるせぇぇぇーーーーーーーーーーーッッ!!」


 もはやドッベは半狂乱だった


「騎士団長は私だ!! 私は偉いんだ! 私を尊敬しろ! 私を褒めろ! 私の命令に従え!! 貴様ら下賤にはそれぐらいの取り柄しかないクセに、なんでいちいち逆らいやがるんだぁーーーッッ!?」


 どれだけ喉から血が出るほどに叫び散らしても、負け犬の遠吠え以外の何者でもなかった。

 そして、それにもくたびれたのか……。


「……もう、いい」


 力なく言った。


「この世界は間違っている。こんな腐った世界にい続けること自体間違いなのだ。私は死ぬ。死んで光の女神インフレーション様の下へ赴き、正しい世界へと転生させていただく。私が抱く希望は、最早それのみ!!」


 と同時だった、ドッベがテロ装束としてまとっていたベストの前をバッと開いたのは。

 そこには……!


「何ッ!?」


 見覚えがあった。

 それはあの新旧勇者戦で見かけた、一時戦いを混乱の坩堝へ叩きこんだもの。


 エーテリアル爆弾。


 ドッベの着るベストの裏に縫い付けられていたものは、それに酷似していた。

 しかもそれが複数……!!


「光の女神インフレーションよ!! 絶望の谷底に打ち捨てられし哀れな子羊を拾い上げたまえ!! ふふ……、だが、せめてもの意趣返しだ。貴様らも共々死にくさるがいい!! 私は光の女神が待つ天国へ! 貴様らは地獄に落ちるがな!!」

「くそぉぉーーーッ!!」


 弾かれたように駆け出す。

 あの爆弾が、どの程度の性能のものかはわからない。しかし、仮に新旧勇者戦でミナが使わされたものと同等威力だとしても、こんな密閉された室内では充分な殺傷力を持つぞ!!


 ドッベは既に起爆スイッチらしきものを手に持ち、そのボタンに指をかけていた。


「浄化せよ邪悪な世界ィィーーー!!」


 そのボタンを押した。

 カスッ、カスッ。

 と力ない音が鳴った。


「え? へえッ!?」


 飛びかかる。

 その衝撃に一瞬たりともドッベは受け止めきれず、地面に倒れ込んだ。

 間髪入れずベストを脱がすと、それをそのまま上へ放り上げる。


「ダークマター・セット!!」


 上空に浮かぶベストを爆弾ごと、暗黒物質が包み込む。

 暗黒物質は神気を消滅させるだけでなく、重力によって通常物質さえ押し潰す、無敵の物質だ。

 本気の破壊を行う暗黒物質の内部で、爆弾とベストはベキベキと悲鳴を上げながら消滅していった。


「うわ……、うわぁぁぁぁぁ!!」


 そして自爆という最後の手段すら奪い取られて、ドッベは感極まって泣き出す。


「どこまで迷惑なヤツなんだお前は……!?」

「アナタが死のうと生きようとかまいませんが、ここには生に希望をもった人々がたくさんいるんです。皆を巻き込まないでください」


 ドラハからも容赦ない叱責が飛ぶ。

 もはやこの男に酌量の余地は一片もなかった。ただ死んでもらう前に、聞き出したいことは多々ある。


「ボタンを……、ボタンを押しても爆発しなかった。また騙しやがったな、あの女ぁ……!」

「何ッ…?」


 その一言に、注意を引き寄せられる。

 今はただ、人質の人たちの安全を最優先にすべきだろうが、それでも行動を制御できない。


「あの女? 誰だそれは?」


 聞きながら、僕自身の中でも一つの結論がおぼろげながらできてきた。

 その女とやらが、ドッベのようなマヌケたちに扇動し、今日の事件を引き起こさせた黒幕であると。


「私は最初から信用していなかったんだ……。でも、騎士団長の職を追われ、ゼーベルフォン家の私財も底をつきかけていた。他に復讐の方法がなかった……!」

「女が誰かって聞いてるんだ!! 答えろ!!」

「ヒヒ……、誘いに乗ってみると。私と同じような境遇のヤツは多くいた。光の教団だけではない。地水火風、他の教団でも改革に弾かれ路頭に迷ってるヤツがいて、そういう没落者を、あの女は目ざとく見つけ出して手駒にしていった。本当にそういうところだけは巧みな女だよ……!」


 くそ、バカは説明が下手くそだから……!

 過程の部分は上手く飛ばして結論だけ言えないのか!?


「だがそれもこれも、貴様らが悪いのだ! 貴様らが無道な改革などして、心ある者を追い込んだから、必死の抵抗を試みなければならなかったのだ! 私たちは悪くない。悪いのは、私に武器を取らせた貴様たちだ!」

「だから! それはどうでも……!」

「でも、何より悪いのはそんな私たちの窮状に付け込み、道具のように利用したあの女だ。あの女だけは絶対許せん!! こうなったら何もかもブチまけてやる! 尋問でも裁判でもするがいい! 私は破滅するが、ヤツも破滅するんだ!! 道連れ道連れ道連れだ! あはははははははは!!」


 ドッベのバカは狂ったように笑うと同時に、口の中から光を吐いた。


「は!?」


 口の中から光?

 その現象は、一向わけがわからず、しかし異常さだけが僕の危機本能に訴えかけてきた。

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