23 火神
火の神ノヴァは、創世の五大神で火を司る神だ。
すべてを焼き尽くし、灰に変え、その中から新たなるものを生み出す破壊と再生の神。
ミラクたち火の教団が崇拝しているのもコイツだ。
その火の神の声が、何故モンスターから聞こえてくる?
『――久しいのう闇の神エントロピー。千六百年前に他のヤツらと手を取り合ってお前を封じて以来か。あの時、無窮の奥に閉ざされる寸前の、お前の悔しそうな顔は今でも覚えておるぞ?』
カレンさんや、ずっと向こうにいるミラクは無反応だ。
恐らく神同士でしか通じ合わない精神のチャンネルで、心に直接語りかけてやがる。
『復活しておったとは知らなんだぞ。しかも人の子に転生しておったとは、脆弱な虫けらに肩入れする悪癖は直っておらんようだの?』
そういうお前は、つまり……。
モンスターに転生したわけか。その炎牛ファラリスに。
それなら色々説明がつく。他のモンスターを圧倒する巨躯と強さ。通常パターンに当てはまらない行動。
神が宿ったモンスターとなれば、色々反則的になって当たり前だ。
『どうやって復活したぁ? 計算では、あとまだしばらくは封印の中であるはずだぞぅ?』
出してくれたぜ、光の女神インフレーションがな。
『かっ! あの女狐め、また我らの知らんところで何か企んでおるか!! 千六百年前からアイツは常に油断ならん!!』
まあいいさ、僕もお前らに色々聞きたいことがあったんだ。
そっちから現れてくれるとは考えてみれば都合がいい。
『千六百年眠りこけて、すっかり時代の流れに取り残された田舎者か。よかろう、元は同じ神のよしみ、多少は答えてしんぜよう』
まずはお前のその愉快な格好に関わることだが。
モンスターについてだ。
『あぁん?』
モンスター。
僕が封印される前は、そんな生物いなかったよな?
しかし今、この世界ではあちこちに発生して人間に迷惑をかけている。
ヤツらを生み出したのは誰だ?
『誰だと思う?』
お前らだろう。創世の五大神。
歪とは言え生命を生み出すのは神の所業。ならばお前ら以外にそれを行う者はいない。何しろ神なんだから。
そもそもモンスターに属性があることが怪しいんだ。風属性のモンスターがいる、火属性のモンスターがいる。
それを生み出したのは、各属性を司る五大神に違いない。
地属性のモンスターは地母神マントルが。
水属性のモンスターは水の神コアセルベートが
風属性のモンスターは風の神クェーサーが。
そして火属性のモンスターは、お前、火の神ノヴァが。
子は親に似る。ゆえに各神が生み出したモンスターは創造主と同じ属性をもつ。あたかもブランドを刻まれるようにな。
『聞きたい、とか言いながら全部自分で答えておるではないか。何がしたいのだお前は?』
推理には答え合わせが必要だろう?
お前は一言だけ言えばいいんだ。Yesか、Noか?
精神の声のみで会話する、モンスターに宿った火の神が、グフフ、と笑うかのような感情の揺らぎを送ってきた。
『………………Yesだ』
やはりか。
何故そんなことをする? お前ら五大神は、闇の神たる僕を倒して地上の支配権を完全に手にしたのではないのか?
何もかもが自分たちの思い通りになる世界を、何故みずから荒らそうとする?
『……ならんからよ』
何?
『思い通りにならんからよ。闇の神エントロピー、お前が惰眠を貪っておる間に世界は変わったのだ。悪しく醜く変わったのだ。すべてのことの起こりは、そう、エーテリアルとかいうものから始まったのよ』




