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227 事件

 それからさらに数日が経った。

 その間、光の教団本部のあるアポロンシティは、一見平穏な日々が過ぎ去っていった。

 カレンさんは相変わらず、対魔王戦に備えて特訓に打ち込み、ヨリシロも日に何人という勢いで汚職官吏を粛正していく。

 ……アテスの、極光騎士団に根を伸ばす工作も、着実に進んでいた。


 何も起きていないように見えて、確実に何かが起こりつつある。

 カウントダウンは続いている。

 すべての決壊へと続くカウントダウンが。

 その前兆とも言うべき、小さな最初の軋みが上がったのは、その日のことだった。


             *    *    *


 その日、僕は光騎士たちとの間で「足フェチにとって太もも、足の裏、どちらが尊いのか?」という議論で盛り上がっていた。

 そこにグレーツ騎士団長がふくらはぎ派として参戦したと同時に、凶報が舞い込んできた。


「騎士団長! 大変です! 事件です!」


 若い騎士が詰め所に飛び込んで来るなり、息せきながら言った。


「どうした! モンスターか!?」


 教団の光騎士たちにとって、事件と言えばそれだった。

 既にグレーツ新団長の指揮の下、モンスター災害に即応できる実戦部隊として生まれ変わりを終えている極光騎士団であった。

 その成果を今見せる時と、皆が例外なく奮い立ったが……。


「いいえ、違います……!」


 報告する新人騎士は、焦燥した表情で言った。


「事件を起こしたのは、……人間です……!!」


             *    *    *


「オレ様が騎士団長になって、栄えある初の出動が、人間相手とはよ。何だかしっくりこねえなあ」


 事件現場に到着して開口一番、グレーツ騎士団長のボヤキだった。

 実際、ここ最近のモンスター出現率は異常なほど低く、ある時を境にパッタリ、と言わんばかりの静けさだった。


 境になったある時、そうそれは四魔王と遭遇した時から。

 まるですべてのモンスターがヤツらに統率されているようで、却って不気味だった。


「まあ、今は目の前の事件に集中しましょう」


 モンスター災害だけでなく、光都の治安維持そのものも極光騎士団の大事な役目だ。

 成り行き上、現場に同行した僕も、事件の対処に尽力する。

 ますます教団内での立ち位置がわけわからなくなってきたというか、何でもありの僕だ。


 発生した事件の概要は、都内での立てこもり事件。

 光都アポロンシティの、とある施設に突如として武装した一団が乱入。

 施設の従業員及び居合わせた利用客を人質にして、施設内に立てこもってしまったというのだ。

 僕たち騎士団は現在、その現場となった施設を外側から包囲し、逃げ道を塞いでいる。


「なあ、ハイネよ。一体どういう展開だと思う?」

「物取りの類ではなさそうですね。強盗が金なり何なりを奪いにきて、モタモタしているうちに取り囲まれた、って流れではない」

「そりゃそうよ。金目当てだったら、あんなところに押し入る物取りなんざいるもんか」


 僕たちが現在包囲している建物は、光の大図書館。


 光都アポロンシティどころか世界規模で最大という呼び声高い図書館だ。

 僕も何度か利用したことがあり、色々と思い出深い場所でもある。

 あるのは紙の本ばかりで、押し込み強盗が喜びそうなものなんてあるとは思えない。

 しかし別の観点から見れば、あそこは宝庫だと言って過言ではない。

 人類がこれまで積み重ねてきた知恵や歴史が、紙に刻まれた文字という形であの建物に収められているのだ。

 特にあそこは世界最大と呼ばれるだけあって、大層古い書物もたくさん所蔵してある。もはやあそこにしかない古書、というものも一種ならず存在するのだ。


 それがこの事件を一層ややこしくしていた。

 あんなデリケートな場所に立てこもる犯人の意図とはなんだ?


「当然人質になってる客や従業員も気に懸けなきゃならねえ。この事件、ヘタなモンスターを相手にするよりよっぽど気疲れしそうだぜ」


 仰る通りで。

 とりあえずこれからすべきことは何か?

 エーテリアルスピーカーにて立てこもり犯に勧告を行い、相手の目的、要求などを聞き出すべきだろうな。


 そう思った矢先、向こうの方から動きがあった。

 光の大図書館、正面玄関から現れる武装した人影。


「あッ!?」

「あれは……!?」


 僕のみならず、多くの光騎士たちが同様に騒めいた。

 何故なら、立てこもり犯の一人と思われる武装した男は見知った顔。彼ら光騎士にとっての元上司だったからだ。


「ゼーベルフォン=ドッベ!?」


 かつての極光騎士団長。

 その地位と権勢で威張り放題にしてきながら、その傲慢が祟ってこのたび見事に騎士団長職を解雇された男。

 だからこそ今、グレーツのオッサンが極光騎士団長やってるわけだが、何故奴がここに!?


 僕たちの戸惑いもかまわず、ドッベのヤツもまたエーテリアル拡声器を取り出し、堂々雄然とした声を張り上げる。


「不当なる腐り果てた極光騎士団の成れの果てどもに告ぐ! 我々こそ真の極光騎士団! 光の教団の、真なる正義と道徳を受け継ぎし正統派! その名も正統神聖究極極光騎士団だ!!」

「うわぁ……!」


 これで、事件の概要が一目にてわかった。

 もうわかりやす過ぎるくらいにわかった。


「我々は要求する、この世界すべての人間が持っていて当然の権利と正義を! 邪悪なる現教団の首脳部は即刻解体し、教団の運営を我々の手に委ねよ! そうしなければ人質を皆殺しにし、この光の大図書館を焼き払う!!」

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