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226 一度だけの歓談・二度目

「ところでそろそろ帰ってくれませんかね?」


 依然として僕の部屋に居座りやがる聖女三人に対して言った。


「いいじゃないですか。いっそのこと今日はハイネさんのお部屋に泊まるというのはどうでしょうか?」

「……ウチ、ベッド一つしかないけど」

「何か問題でも?」


 問題しかないよ。

 この光の教主が。そんなにまでして僕と既成事実を作りたいのか?


「ハイネさん、今この部屋の中は、箱のようなもの。その中身は蓋を開けねば確認することはできません」

「??」

「つまり、この部屋はドアなり窓なり開けて中を覗かない限り、わたくしたちとハイネさんがエッチなことをした現状と、エッチなことをしていない現状が混在するわけです。ですので、実際にエッチなことをしたとしても何の問題にもならない!」


 詭弁にすらなっていないんだが。

 箱の外の連中がどう思おうと、僕の事実は僕自身が確定させるよ。


「では、ハイネさんはこう言いたいのですね?」


 アテスが口出ししてくる。

 ヤツにはもう一言も喋ってほしくないのに、何故かヨリシロと共に寄ってたかって囀りまくる。


「実際にこれから私もヨリシロ様もカレンさんも手籠めにするのだから、箱の中の可能性論など関係ないと!」

「違うよ!!」


 直球か!?

 ヨリシロが詭弁を弄してからのアテスによる直球勝負って、アンタら意外と息合ってませんか!?


「そうですよヨリシロ様にアテス様! このままハイネさんのお部屋に泊まるなんて、はしたないです!」


 貞操観念の吹っ飛んだ悪女二人をカレンさんが嗜める。

 やはり彼女こそ、正真正銘の聖女だ!


「だって……! 私泊まりだなんて聞いてないからパジャマ持ってきてないんですよ! 知ってたら一番可愛いの持って来ましたのに! ハイドラヴィレッジで買ったレース付きのすんごく可愛いヤツ!!」


 少し論点がズレていた……!


「あらあら可愛い勇者さんですこと。パジャマなんてすぐに脱がされてしまいますのに」


 また露骨なことを言うアテスであったが、それに対してカレンさんは……。


「……?」

「え?」


 アテスの言葉が理解できず戸惑うカレンさんに、アテスの方が戸惑う。


「お、思った以上に手強い相手ですわねカレンさん……! これが天然の力ですか?」

「それより! 普段着のまま寝るなんて、お行儀の悪いことはできません! スカートに皺もできちゃうし!!」

「ですから、それなら裸で……、グフェッ!?」


 さすがに見逃せる範囲を超えたのでヨリシロの脇腹を小突いた。


「……ぐっ、では、こうしましょう。パジャマを持ってこさせる」

「持ってこさせる? 誰に?」

「まあご覧になっていて。ドラハ、あの者に指令を」


 影のごとく密やかなドラハが「はっ」と短く返事すると、持参していたエーテリアル無線機でどこぞと通話しだした。


「……親鳥からひな鳥へ。『鷹は舞い下りた』。繰り返す『鷹は飛び立った』」


 どっちやねん。

 暗号通信らしきものが終わって小一時間ほど経つと、僕の部屋のドアをドンドンとノックの音。


「誰だ?」


 不用意に開けてみると、玄関先にはメイドが一人立っていた。


「何故メイド!?」


 だが待て。……このメイド服を着た娘さん。どこかで会った気が……?

 しかもごく最近に……?


「……あっ、ミナ!」

「はい、プレチナ=ミナです。その節はどうも」


 このメイド娘は、ついこの間に開催された新旧勇者戦で審判を務めていた女の子じゃないか。

 前半のチーム戦において、カレンさんたち現役勇者チームの勝利が九分九厘決まっていたところで、なんと爆弾を投げ込んで滅茶苦茶にしやがった子だ。


 その後、この犯行は先代勇者チームに加担する旧主派の仕業であったことが判明し、後日彼らを糾弾する材料の一つとなった。


「そんな彼女が、何故メイド姿で現れた?」

「ふふふ……、ハイネさんたらコスプレデリヘルなんて、よい御趣味……。ぐわっほッ!?」


 アテスのヤツも教育上よろしくないことを言ったので脇腹を小突いた。

 そしてメイドミナの件である。


「あの……、私元々光の教団で小間働きとして働いていたので……。メイドが本職というか……」


 ああ、そうだっけ?


「ヨリシロ様。お言いつけ通りに寝間着一式とお泊りセットをお持ちしました」

「ご苦労様、まだ用があるかもしれないので待機していらして」

「あの……! さすがにこんな夜中は勤務時間外なんですけど……!」


 ああ。さっきの通信で呼びつけられたのか彼女。

 たしかみずから引き起こした爆弾騒ぎのあと、御用になってヨリシロ側に引き渡されたはずだけど、その後どうなったんだっけ?


「ミナさんは、爆破実行犯と言えど旧主派本体の走狗として使い捨てられたにすぎませんので。ヨリシロ様の格別の配慮で恩赦となりました」


 解説してくれる影のドラハ。

 もはや彼女がこの面子の良心というか潤滑油になりつつある。


「その後、元々の役割が小間使い――、メイドということで、ヨリシロ様直接付きのメイドとして抜擢されました。今夜ここに現れたのも、そういう事情によります」


 教主の直属って。

 メイドとしては大出世じゃないか。


「いいのか? 利用されただけとは言え、実際現政権に盾突いた人間をそんな扱いよくして。しめしがつかないんじゃ……!?」

「ヨリシロ様の直属ですよ?」

「……」

「本当にいい扱いでしょうか?」


 そうだな、僕の見解が間違っていたな。


「アナタ方、何かわたくしに対して失礼なことを言っているようですが、これは考えに考え抜いたことなのですよ?」


 言いながらヨリシロは、傍らに立っていたミナをぴっとりと抱きしめた。


「ひゃわわわ……!」

「何しろこの子は、アテスさんに奥底を握られていますので。わたくしの傍に置いて監視しておく必要があるのです」


 そういえば……!

 爆発事件のあと、当事者であるミナから背後関係を洗いざらい吐かせようとした時、突如現れたアテスの一睨みで、貝のように押し黙ってしまったのだ。


 これは、ミナの重要な何かがアテスによって抑えられているに違いない!

 両親を人質に取られているのか? それとも何か重大な秘密を握られて脅迫を!?


「……ふふふ」

「…………」


 そして偶然ながらその場に居合わせているアテスが、またしてもミナに意味ありげな視線を送る。

 それこそカエルを睨むヘビと言おうか。

 そしてカエルのように脂汗ダラダラのミナ。


「あ、あ、アテス様……!」

「なあに? 子ネコちゃん?」

「あ……、やっぱりダメですぅぅ!! ごめんなさいヨリシロ様! やっぱり私はアテス様なしじゃ生きられないんですぅぅぅッッ!!」


 と言いつつメイド姿のミナは、泣きながらアテスの生足に縋りつくのだった。

 何コレ?


「ミナさんとアテス様は、百 合 関 係だったのです!」


 だったのです、って言われても。

 ドラハが説明してくれるのに、まったく状況を理解できない。


「まあ、最初からミナさんを利用する目的でアテス様がそういう関係に持ち込んだのでしょうが、いまやミナさんはアテス様の虜。アテス様からのジュテームを受け取らなければ禁断症状に陥ってしまうのです!」


 うわぁ……!

 それでアテスのために一切口を噤んだと!?

 うわぁ……。うわぁぁぁぁ……!!


「だからこそ、このわたくしが一肌脱ぐのです」


 ヨリシロが、またミナのことをヒシッと抱きしめた。


「アテスさん成分の虜となったミナさんに、わたくしの成分を摂取させることで依存症状から脱してもらうのです。彼女をわたくし付きのメイドにしたのも、そのため……」

「毒を以て毒を制す!?」


 この状況を表すのにこれ以上的確な言葉が見つからない。


「そうは行きませんよヨリシロ様、この子は私の子ネコちゃんなのですから。毒抜きなどさせません」

「だったら奪い返して見せなさい。アナタの成分とわたくしの成分、どちらの毒が勝るか勝負です」


 毒って言っちゃったよ自分で。

 アテスが前から抱きしめ、ヨリシロが後ろから抱きしめて、ミナさんはサンドウィッチ状態に!?


「ぎゃあああああッ!? ヨリシロ様! アテス様! ヤバイですマズイですヘブンですッ!! ヨリシロ様の柔らかいのと! アテス様の柔らかいのが両側からァァ!! 私の血管中が二人の成分に満たされるぅぅぅぅッ!?」


 ……人間って、幸せすぎても悲鳴を上げるんだな。

 僕も経験あるけど。


「ミナさんがしたことは許されざるとも言えますが、あれが罰と考えれば、まあ妥当でしょう」


 ……そうだね、僕もドラハの意見に賛成だね。


「あの……」


 あの三匹の盛りネコどもの乱痴気騒ぎは、一切視界に入れないとして。

 おかげでずっと無言を強いられていたカレンさんがやっと発言した。


「あの、私よくわからないんですけど。……百合って何ですか? お花のことじゃないですよね?」

「カレンさんは知らなくていいです」


 って言うかカレンさんは絶対に知らないでください。

 その概念がカレンさんの脳内に持ち込まれたら最悪、勇者同盟が崩壊します。そういうのを待ち望んでいそうな危険人物も一名いますし。


「はあ……?」


 カレンさんは、釈然としないながらも納得したようだった。


 一方、光の教主&勇者(先代)からのサンドウィッチ攻撃という、世にも珍しい状況に挟まれたミナは、息絶え絶えになりながら脱出する。


「ハァハァ……! なんで私がこんな目に……!?」


 こっちが聞きたいわ。


「まあ、もみくちゃにされて喉も渇いたろう。このコーヒーでも飲みなさい」

「あ、ありがとうございます……!」


 僕から差し出されたエスプレッソを、ミナは一息に飲み干した。


「おお、いい飲みっぷりだね!?」

「いいも何もエスプレッソってこういう飲みものでしょう? エグ味も少なくて大変いいお手前でした。私はやっぱ砂糖をドロドロに溶かした本来の飲み方が好きですけど……! ん!?」


 ミナは気づいた。

 コーヒー飲める彼女へと注がれる、コーヒー飲めない組の視線が。


「あっ、どうしたんですか? ヨリシロ様? アテス様? カレン様まで!? やめて、何が悪かったんですか!? 私何も……! やめて挟まないで! 挟まれたら今度こそ! あああああ~~~!?」


 っていうかいい加減皆帰ってくれないかな?

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