224 悪女の深情け
予約投稿の時間設定ミスってました……。
いつもより約三十分遅れの更新です。まことにすみません。
危ない。
死ぬかと思った。
「「「すみません……!」」」
僕の眼下にて正座する美女美少女、諸々三人。
当然服は着ております。
バスタブの底で美女たちに押し潰されて漬け物状態になっていた僕だが、生命の危機に瀕して生存本能が爆発。
生み出した暗黒物質の斥力で三人を押し出して、何とか緊急浮上できた。
「カレンさん、ヨリシロ」
まずこの二人。
「僕を助けに来てくれたのはありがたいですが、現場での対処が論外です。犯人と一緒になって僕を押し殺してどうするんですか?」
「反省しております……!」
「対抗心がフツフツと燃え上がって……!」
自分でもはっちゃけすぎたという意識があるのだろう。
二人は意外なほどに神妙だった。
「そしてアテス!!」
「気にしないでください」
コイツこそが一番反省すべきなのにまったく反省していない!!
この悪女が! 心底悪女だ!!
「そんなに怒らないで、むしろハイネさんにとっては嬉しい出来事じゃないですか」
「あぁッ!?」
「私とヨリシロ様とカレンさん。光の教団における最高の女三人とくんずほぐれつできたのですよ。男であれば誰もが望むシチュエーションではないですか」
「何言ってるんだアンタは!?」
「それとも嬉しくなかったのですか? ヨリシロ様やカレンさんと抱き合えたのに?」
「はッ!?」
側面から突き刺さる情念濃い視線。
カレンさんとヨリシロ。件のコンビがめっちゃ僕のことを見ている。
「嬉しくない、というんですか? つまりそれはあの二人のことが嫌いだと? でしょうねえ、どんな美少女であろうとも、嫌いな相手なら手も触れられたくないですものねえ」
この女……! 卑劣な……!
そうやってこちらの選択肢を狭め、自分が思う通りの回答を選ばせようというのか。
「まあ、たしかに嬉しくはあった。……かな?」
「では私のことも好きなのですね」
「何故そうなる!?」
曲解、拡大解釈、論点のすり替え。
本当に恐ろしい女だ!!
「これでわかったでしょうハイネさん。彼女は心底恐ろしい女なのです」
と、ヨリシロからの証言。
既にアテスは正座をやめて、その辺の椅子に座って寛ぎ始めた。
「浅ましい権力志向者のアナタが、教団に復帰した以上は勢力拡大を目指すことは予想できていましたが。まさかハイネさんの取り込みを狙ってくるなんて。しかも色仕掛けまで使って……」
「急所を見定め、そこに向かって重点的に攻め立てるのは戦略の基礎ですわ。最高の男には極上の女こそ相応しいのではなくて?」
「ふざけないでください!!」
その言葉に反応したのか、カレンさんが激昂と共に立ち上がる。
直前まで正座だったためか、足が痺れてよろめくカレンさん。
「アナタはやっぱりそういう人です! 一目見た時からわかっていました。アナタはヒトが大事にしているものほど欲しがって奪い取ろうとする人だって! アナタは最低です。二度とハイネさんに近づかないでください!」
「うふふ、愉快な子……」
アテスは真実愉快だと言わんばかりにコロコロ喉を鳴らした。
「新旧勇者の仲とは言え、私とアナタに接点はほとんどありませんでした。アナタが勇者に選ばれたと知ったのも教団を追われたあとでしたし。それなのに何故これほど毛嫌いされるのか疑問でしたが。うふふ……」
さらに笑うアテス。
「女の直感というべきもので私の本質を見抜いたのですね。そして私のことを危険だとも見抜いた。女として、面白い。実に面白い子だわ。勇者としても、女としても。実に濃厚な情念をもっている」
カレンさんへ向いていた視線が、ヨリシロの方へと移る。
「よい子を見つけましたね。ヨリシロ」
「口調が昔に戻っていますわよ。お姉様」
何だか今までにない口調で語り合う二人。
?
「とにかく!」
そんな疑問を差し挟む隙間も薙ぎ倒す勢いで、カレンさんが宣言する。
「アテス様! 私はアナタを先輩だとか認めません! 他の先代勇者の方々はともかく、アナタだけは尊敬に値する先人では断じてありません!! 私は、アナタの助けなんか借りずとも、必ず魔王を倒して見せます!」
「面白い。やりたいようにやってみなさい。気がついた時にはアナタの持ち物が全部私の手に移っていた、ということもあるでしょうけどね」
バチバチバチッと飛び散る火花。
よりにもよって僕の部屋で。
「勝負です!」
カレンさんが言った。
「もう一度、今度はアナタと私だけでの正々堂々、一対一の勝負です! 負けた方が光の教団を去る! これでどうですか!?」
「カレンさんちょっと待って!?」
ついこの間、新旧勇者戦を終えたばかりだというのに、また進退を賭けた決闘を行おうというの!?
「嫌です」
それに対してアテスは大人の対応だった。
「何故今さらそんな益のないことをしなければいけないのです。新旧勇者戦で得られた結論を、再び得ようとする。それだけのために戦いを繰り返すなんて他教団への対面を考えても見苦しいことです」
「でもッ……!」
「それくらいにしておきなさいカレンさん」
なおも噛みつこうとするカレンさんを、ヨリシロが引き留めた。
「この人はこういう人です。白黒ハッキリつけるような戦いには関わらない。もし関わるとすれば、それは、より大きな灰色一色に塗りつぶす策謀の一部として組み込むため。先の新旧勇者戦がまさにそれでした」
僕としてもそんな印象だった。
この女は決して正面から挑んできはしない。
たとえ敵の目の前にいてもジッと息を潜め、策をめぐらし時期を待ち、敵がひとりでに崩れるよう仕向けるタイプだ。
そして今、ヤツのターゲットに定められているのは僕たちだ。
サニーソル=アテスの、刀剣を振り回さない類の戦いは、既に始まっているかもしれない……?




