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223 夜這い風呂

「何故いる?」


 僕の住む部屋の僕の風呂。

 そこに当然のように現れた先代光の勇者サニーソル=アテスに、僕は棘のある声を送った。


「あら、ここはお風呂場ですから、裸でいることは当然ですわ」


 とアテスは、その裸体を辛うじて隠しているバスタオルを整え直す。ただそれはバスタオルで隠れている部分を一瞬チラリと垣間見せて、むしろ僕のことを挑発しているような行動に思えた。


「そういう意味で聞いているんじゃない。というかそういうことも聞いてない!」


 僕が聞きたいのは、ここは僕の部屋で、何故お前が断りもなく侵入しているかということだ。

 そして目的は?


「聞きたいですか? ならばまず、私も湯船に入れてくださいませんか?」

「なんで!?」

「だって、お湯にも入らず裸のまま外にいては、寒くて風邪をひいてしまいます。仲良く一緒の湯舟に入りながらゆっくりお話ししましょう?」


 僕が風呂から上がって話せばいいんじゃないですかね!?

 しかしアテスのアホ女は、僕の返事など最初から聞く気もないようで、その美しい生足を湯船に突っ込んできた!

 まず片足、次いで両足を!


「ままま、待って! なんやと言ってここ一人暮らし用の部屋だよ!? バスタブだってそれを想定した大きさで……! 二人同時に何か入れるわけが……、って聞いてねえ!? どんどん入ってくる!? 狭い狭い狭い! アチコチ密着して温かいというか柔らかいというか!!」


 なんだこの女のグイグイ攻める姿勢は!?

 あえなく一人用のバスタブがギュウギュウ詰めに。


「ふう、やはり二人で入るお風呂はいいものですね」


 そう言ってアテスは、浴槽の中から何か布っぽいものを引っ張り出して、外に捨てる。


「ちょっと待って! 今何を外に出した!?」

「バスタオルですよ。お湯の中にタオルをつけるのはルール違反でしょう?」

「不法侵入というルール以前の法律違反がですね!!」


 僕が湯船から出てしまえば問題解決だろう? という声がしそうな気がする。

 しかし考えてほしい。

 湯船の中で真正面から相対するお姉さん。

 その目の前で風呂から上がれば無様なものが無様なことになるのは避けられず。

 従って動くことができません!!


「クロミヤ=ハイネさん。アナタとは二人きりでお話したかったのです」

「へ?」

「光の教団が抱える秘密兵器。地水火風光どれにも属さぬ謎の力を使い、無敵の力を誇る。これまで倒してきた何体もの巨大モンスター。過去の蟠りの関わらず急速に接近する五大教団の影にもアナタの姿があった」

「な、何のことでしょうか……?」


 とりあえず惚けてみる僕。


「カレンさんが勇者として活躍し、ヨリシロ様が教主の地位を盤石とするのも、アナタが裏で支えているから。そこで一つ相談があります」


 アテスは言った。


「彼女たちから私に乗り換えませんか?」


 ある意味で予想通りの言葉だった。


「そんなことをして何になる?」

「今よりも多少状況がよくなると言ったところでしょうか? ハイネさん、何百とか何千人という集団が戦いを行う時、もっとも必要となるのは何だと思います?」

「なぞなぞがしたいなら余所でやってくれ」


 質問に答えること自体、相手のペースに乗ることだ。


「つれないお方……。では答えをお教えしましょう。有能な指揮者です」

「だから話を聞く気はないと……」

「国家規模にまで膨らむ光の教団。その一部というべき極光騎士団も、軍団として相当な大きさをもっています。それを率い、一糸乱れず完璧に統率できる。それだけの指導力を持つ者はおのずと限られています」

「カレンさんもヨリシロも、充分その力はあるじゃないか」


 埒が明かないのでやむを得ず問答開始。


「ですが、より高い能力を持った者が相応しい地位に付けば、より大きな効果を得られると思いませんか?」

「いいえ、NO」


 重ねて否定する。


「そんなの交代によって起こる混乱を考えればよっぽどデメリットだよ。求められる水準に届いていれば、元からいるヤツにやらせるのが一番いいんだ」

「あらあら、大した見識をお持ちですね」


 しかし何だろう?

 この女と話していると、何とも言えない既視感を感じる。


「ところでハイネさん。昔の人は言いました、人は生まれながらにして善い心をもっている、と」

「ん?」

「逆に別の昔の人は、悪い心をもって生まれてくるとも言いました。生まれてすぐの人間は欲望と本能しかもたず獣同然、生きると共に道徳や理性を学んでちゃんとした人間になるのだと」

「いきなり何を言い出すんだ?」

「ハイネさんはどちらだと思います? 人間の本質は善か、悪か? 成長によって獲得できるものは善か、悪か?」


 意味不明のことを言い終わると、アテスはザブンと湯音を立てて浴槽から立ち上がった。

 お湯の中に隠れていた見事な裸体が、僕の眼前にそびえ立つ。


「おいいいいいいいいッッ!?」

「この期に及んでは仕方ありません。ハイネさんがどうしても私の案に乗ってくだされぬというのであれば。乗らざるを得ない状況を作りだすまでのこと」

「状況って……!?」

「男女が二人きり、同じ部屋で一夜を過ごす。それは周囲の目から見ればどのように映るでしょう? 箱の中身はこの際関係ありません。既成事実一つ作るだけで、私とアナタは一心同体となるのです」


 怖い! やっぱこの女怖い!!

 僕がどう答えようと、この女が僕の部屋に侵入成功した時点で思惑通りに進むというわけか!?

 ならなぜこれ以上迫ってくる必要があるの!? っていうか豊満な裸体がズンズンこちらに迫ってくる!?


「何をしているんですか……!?」


 ヒィッ!?

 僕一人しかいないと思ったのにアテスが現れて二人きりだと思われた部屋に新たな人の声が!?


「カレンさんッッ!?」


 気づけばバスタムの横に仁王立ちする光の勇者カレンさんが!?


「あら、どうなさったのですカレンさん? ここはハイネさんのお部屋、部屋主に断りなく入っては不法侵入ですよ?」

「いけしゃあしゃあと!」


 僕は色々抗弁しようとしたが、カレンさんの一睨みで黙らされた。


「アテス様……、あまり私たちを甘く見ないでください。アナタが何かやらかすだろうということは承知の上なんですよ」

「そういうことです」


 さらに別の声!?

 それはヨリシロ! ヨリシロまで現れた!?


「アナタには常に監視の目が行き届いています。アナタが密かにハイネさんのお部屋へ侵入したという報を受けて、慌てて飛んできたというわけです」


 なるほど助かった! ああでも! 何故かアテスの攻勢は留まらない!?

 僕を浴槽の底に押し付けるようにして! いろんなものが密着してああ!!


「アテス様!? いつまでハイネさんにくっ付いているつもりですか!? 現場を抑えられたのだからさっさと離れてください!」

「何故そんなことをしなければいけないのです?」

「「ええッ!?」」


 この女、強い。


「せっかくですからお二人ともそこで見ていけばいいではないですか。私とハイネさんがただならぬ仲になるところを。疑惑が動かぬ確証になるだけのことです」


 ぎゃああああああ! 柔らかい!


「ちょっと! 離れてくださいアテス様! くっ、一体どうすれば……!?」

「こうなったらやるしかありませんカレンさん」

「ヨリシロ様!? やるしかないっていったい何を!?」


 ろくでもないことになる予感、百パーセント。


「アテスさんを止められないならば、わたくしたちも駆け抜けるべきです。つまりわたくしたちもこの場でハイネさんに迫ります!」

「えええええええええッッ!?」


 言うや否や、ヨリシロもすぐさま服を脱ぎ去り、バスタブの中に侵入してきた。


「ちょっ! ヨリシロ様!? そんな脇目もふらずに突っ走って! ……いやダメです! 私は恥ずかしくてとてもそんな! ……でも、アテス様もヨリシロ様も、そんなハイネさんとくんずほぐれつ……! あああああッ!!」


 カレンさんが覚醒したかのように咆哮した。


「私もおぉぉぉぉぉぉッッ!!」


 カレンさんまで着ているものを脱ぎながらバスタブに突入!?

 いや待って! このバスタブ一人用だって言いましたよね!?

 それに合計四人だなんて考えるまでもなくギッチギチだっつうの! 必然的に一番最初に入っていた僕が一番底になって……、浴槽だからお湯が入ってるんだよ!?

 頭が水面より下になって……

 ヤバイ息ができない!


「(ガボガボゴボゲボギボバボオッパイオッパイオッパイオッパイ……!!)」


 しかも体中一部の隙もなく柔らかいものに押さえつけられて、もがこうとももがけないし、何だこの、何!?

 全身が幸せよりも尊いものに押し付けられて、バスタブの底で僕の意識は遠のいていった…………。

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