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21 巨獣

 僕たちが踏み込んだラドナ山地は、元々気候温暖で緑豊か。季節に咲く美しい花を目当てに観光客が訪れる沃地だったという。

 しかし今は、土の灰色に覆われた不毛の地。


「ヤツのせいだ」


 岩の物陰に隠れながら、ミラクとカレンさんと僕は、地表と同じ灰色の皮膚をした巨牛を観察する。

 本当に、間近で見るとその巨大さがまざまざわかる。見上げるほどに。本当の山のようだ。


「火属性モンスターであるヤツの振りまく熱気で、山の植物はすべて枯れ、生態系は死に絶えてしまった。おかげで今のラドナ山地は、昔の面影など微塵もない裸山だ」

「火属性、なんだね。見た目的には土属性っぽいけど」


 カレンさんが、巨牛の姿を見て感想を漏らす。

 しかしやはり火属性なのだろう。「熱気を振りまく」というミラクの説明を証明するかのように、巨牛から離れて観察できるこの距離でも、空気は熱を帯びて炉の中にいるかのようだ。

 僕もカレンさんもミラクも、さっきから流れる汗が止まらない。


「って言うか、モンスターにもあるんですね属性って」

「は? 何を言っているんだ? 当り前だろうが」


 ミラクからアホの子を見るような目で見られた。


「モンスターに属性があるからこそ、我ら人間もそれに合わせて頭を使って戦わねばならん」

「相性とかあるもんねー」


 相性?


「火は風を追い払い、風は地を乾かし崩し、地は水を吸い尽くし、水は鎮火する。属性の相性だ。たとえば前日森に発生したピュトンフライは風属性モンスターだったが、それゆえ火の属性に弱い。オレの『フレイム・バースト』で一掃できたのにはそういう理由も加わっていた」

「でも今回の炎牛ファラリスは火属性。同じ火属性のミラクちゃんだと純粋なパワー勝負になるね。どう?」

「どうにかなると思うか、あのデカブツ相手に」


 物凄く説得力のある一言だった。

 ミラクは女の子にしては体格がいい方だが、それでも山のような巨牛の前では芥子粒のようなもの。


「しかし光属性だけは弱点となる相性を持たず、すべての属性に対して少しだけ強い特別な属性だ。お前が戦えば少しは望みがあるかもしれんな?」


 意地悪な口調でカレンさんに問いかけるミラク。

 先ほど彼女が言い放った言葉『無理難題の条件を付けることで提案を突っぱねようとしている』が引っ掛かる。

 あのモンスターを倒せば、協力関係を結ぶと約束してくれたミラク。

 しかし彼女は、カレンさんが炎牛ファラリスに勝てるわけがないと思っている?


「わかった……」


 カレンさんは迷わず、聖剣サンジョルジュをスラリと引き抜く。


「ハイネさんは隠れていてください。ここからは勇者の仕事です。私はミラクちゃん共に必ずアイツを倒して見せます」


 さらに迷わずカレンさんは、物陰から飛び出した。


「『聖光斬』ッ!!」


 聖剣から放たれる光の斬撃。

 的は大きすぎるゆえ必中だった。しかしそれからが問題だった。

 巨牛の灰色の表皮は、光の斬撃を弾いたのだ。

 虚しく砕け散る光。巨牛の表面には傷一つ残らない。


「炎牛ファラリスの表皮は鋼鉄と同じ、過去も業炎闘士団の総攻撃に晒されながら、ヤツはダメージどころか身じろぎ一つしなかった。鋼の皮膚と巨大な質量、その二つを併せもったヤツを傷つけることなど不可能だ」

「ミラク! 落ち着いて解説してる場合じゃないだろう!!」


 カレンさんの攻撃はかすり傷にも至らなかったが、巨牛に僕らの存在を気づかせることには足りた。

 のっそりと、僕らの方を振り返り……。


「ブォモオオォォォォォォーーーーーッ!!」


 吠えると共に、巨牛の表面から、紅蓮の炎が噴き出した。

 ヤツが炎牛と呼ばれる本当の意味を、僕らはこれから思い知る。

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