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世直し暗黒神の奔走 ――人間好きすぎて人間に転生した――  作者: 岡沢六十四
書籍化記念番外編『ジュオさんが引きこもりなのは どう考えてもシバ様が悪い』
218/434

extra 02 大人談義

本章は、書籍化記念番外編という性格上、メタな文脈が入ることがあります。

具体的には「世直し暗黒神の奔走、第一巻、12/22(木)発売」という文脈です。

ご了承ください。

「さてと……、チビどもはあんまり長く湯につけるとのぼせちまうからよぉ。そろそろ上がるかね。下の子の尻に打ち粉ばかけてやらんと……」


 と、湯船から立ち上がるヨネコさん。

 私始め、シルティスちゃんとヒュエちゃんの心の中で「よっしゃ!」とガッツポーズの手応えが。


「あらヨネコさん、もう少しいいではありませんの。せっかく女同士で語らいのできる場所ですよ。もう少しお話していきましょう?」

「ダンナどもも意気投合して酒を飲み交わしているようだしな、女は女だけで盛り上がろうではないか」

「あらあら、キョウカさんもサラサさんも悪い女だよぉ。でも愉快な提案だね。……ササエちゃん」

「ハイだすッッ!?」


 名を呼ばれて、ササエちゃん緊張。


「悪いけど、この子さ連れて先に上がっててくれないかね? ダンナたちがリストランテ? いうところで酒飲んどるはずだから、そこまで連れてっておくれよぉ。用が済んだら、ダンナに言って好きなもの食わせてもらいなよぉ」

「了解! 承っただす!!」


 ササエちゃんは敬礼すると、一番小さい赤ちゃんを受け取り、上の双子を引き連れザブンと湯船から上がる。


「総員、我に続くだす! 向かうは父上の御許だすよ!」

「ねえちゃー!」「待ってねえちゃー!!」


 まだ蒙古斑の残っていそうなお尻を丸出しにして、浴場から退出していくササエちゃん。

 その口元に、うっすら笑みが浮かんでいるのを私たち三人は見逃さなかった。


「(あんのクソチビー! 一人だけまんまと脱出に成功しやがったわよー!!)」

「(これは手ひどい裏切り行為……! あとで査問は免れんな……!)」


 小声ながらも、脱走兵に対する悪罵が尽きない。


「下の子に尻に粉かけるの忘れんでよぉ。その子すぐ汗疹さこさえるんだからぁ! ……ふう」


 ヨネコさんは再び、全勇者の中でダントツ一位の豊かな体を湯船に沈める。


「しかし、昔は想像もしていなかったよぉ。こうしてよそ様の都市でゆっくりくつろげるなんてねえ……」

「ダンナどもが迎えに来て、急いで帰る理由もなくなったからな。ゆっくり観光? などというものをしていくのも一興か」


 さっさと帰ればいいのに……!

 と、どこからか心の声が聞こえた。


「かつては謎に包まれた風の教団が、こうまで無造作に胸襟を開くとは。こうして人や情報が流れあい、気もちを共有していくのも、発展の形なのかもしれんな」

「ほんに、他都市に旅行なんて、オラの現役の頃じゃ思いつきもせんかったけど。子供やダンナと一緒にそんなことしとるなんて、何だかむず痒い気分だよぉ」

「風さんほどじゃありませんが、地の教団も閉鎖的な方でしたからねえ。観光でも売り込んでいる水都ハイドラヴィレッジの住人としては、観光客の増加が見込めてウハウハですわ」

「これも教団和解の効果というわけだな。いいことづくめだ!」


 だからそれを実現するために私たちが大変な思いをして……!?


 と、お腹の中が煮えくり返るけど、口には出せないもどかしさ。

 やっぱり先代勇者の人たちは私らにとって相当やりにくい。この場に光の先代勇者サニーソル=アテス様がいないのが唯一の救いだけど。逆に自分の直系先代がいるシルティスちゃんなんか、輪をかけて堪ったものじゃないんだろうな。


「ウチ、決めましたわ!」


 なんか唐突に水の先代勇者サラサさんが、ザブンと立ち上がった。


「おおう、どうした水の?」

「いきなり何だよぉ?」


 それに驚き、他の先代勇者さんたちもサラサさんの年相応に色気立つ裸体を見上げる。


「ウチ、決めたんです! まだいいかな? と思ってましたけど、ヨネコさんの可愛いお子さんたちを見てたら、どうにも我慢できなくなりました! だから決めたんです!」


 一呼吸おいて、発表。


「ウチのとこも赤ちゃん作ります!!」

「「おおー」」


 パチパチパチパチ……、と。

 火と地の先代たちからまばらな拍手が飛んだ。


「いいんじゃないかよぉ。っていうか、別に思いとどまる理由がないじゃないかよ。結婚は子供作るためにするもんだよぉ」

「たしかにそうなんですけれど、ウチのとこは、その、旦那様が変な趣味に走ってるせいで、なかなか踏ん切りが掴んで……」

「ドルオタだったよなお前のダンナ」


 火の先代勇者さんが覚えたてと思しき単語を使う。


「でも、今回ウチのために、お義父様に逆らってまでウチのこと追いかけてくれて、やっと愛してもらえてるって確信ができたんです! もう何も恐れません。あの人となら必ず立派な家庭を築けます!」

「うーん……」


 サラサさんの希望満ち溢れた宣言を聞き、先代火の勇者キョウカさんも思いつめたように唸る。


「オレ様のところも、そろそろ子作りにかかるかなあ。結婚一ヶ月とはいえ、思いとどまる理由は家庭そのものにはないからなあ……」

「なんか含みのありそうな言い方ですね?」

「まあ、オレ様の場合、火の教団に残してきた後進たちが気になってな。しかし今回、ミラクの戦いぶりを目の当たりにしてわかった。火の教団は、もうオレ様なしでも充分やっていけるとな」

「過保護なお姉さんだよぉ」

「である以上、オレ様はオレ様自身の幸せに打ち込んでもいいだろうとな。夫にも色々我慢してもらったし、これからは妻として尽していくと、……ん?」


 キョウカさんはいきなり、何かに気づいたかのように、周囲を見渡した。


「そう言えばミラクのヤツが見えんが、どうした?」


 ああ、そうか。

 ミラクちゃんは外でマッサージチェアの虜となっているから……。


「仕方のないヤツだな。今日は勇者全員で親睦を深めるための入浴会だというのに……」


 その旨お伝えすると、キョウカさんはお湯をザブザブ言わせて歩き、浴場を出て、マッサージチェアのある脱衣場の方に……。


「おいコラ! ミラク! 貴様そんなところで何をしておるか!?」

「ヒィッ!? キョウカ姉者!? いいじゃないですか、このイスがあまりに気持ちよくて……!」

「いいから貴様も、同じ湯船に入って心気を交わらせるがいい! 服も脱げ! 湯殿では一糸まとわぬ裸でいるものだぞ!」

「ぎゃああああ! やめて! 服を剥ぎ取らないで! ちょっと待ってパンツ! パンツだけは! うぎゃあああああッ!?」

「ふっふっふ、久々に貴様の笑える尻を見せてみろぉ……!」


 哀れ。

 やはりミラクちゃんは、これから一生、姉弟子のキョウカさんに頭が上がらないのだろう。

 ちなみにミラクちゃんのお尻がどのように笑えるのかは、十二月二十二日発売(予定)の書籍第一巻、おまけ書き下ろしを参照のこと。


 程なくして素っ裸になったミラクちゃんを引きずり、湯船の中に投げ込むキョウカさん。

 ミラクちゃんはすぐさま私たちの方へ寄って来てシクシクと泣いた。


「酷い、キョウカ姉者酷い……! 結婚しても全然性格が丸くならない……!」

「よしよし……!」


 そしてキョウカさんも再び湯船に戻り、大人の女性の会話が再スタート。


「やれやれ、でも二人が揃って励むってんなら、オラもなんだか四人目が欲しくなってきたよぉ」

「えっ、もうか……!?」

「さすが地の教団の生産力ですなあ……!?」


 ヨネコさんの発言に、一様に感嘆するかのようなキョウカさんとサラサさん。


「二人が頑張ってるのを見てると、オラも頑張りたくなってよぉ。今夜辺り、チビどもが寝静まってからダンナ様におねだりしてみるかね」

「待て、そういことなら……!」

「ウチらも今夜、ダンナ様におねだりしてみますわ!」


 うわぁ……!?


「何だか凄いことになってきたよぉ。これ上手くいったら『今頃キョウカさんやサラサさんも同じことしてるんだろうなあ』とか考えながらすることになるのかよぉ?」

「なんかドキドキしてきたな!?」

「しかも、さらに上手くいったら同時に子宝を授かることになるんですか? ……やだ、想像したらすごく恥ずかしくなってきましたよ!?」

「いいではないか。我々全員、同じ日に新たな命を授かったとしても……!」

「むしろそうなった方が面白いよぉ。オラたちいつも一緒、って感じがするからね」

「そうですよ、何しろウチらはもう……」


 口を揃えて一斉に。


「「「同じチームで戦った仲間ですから」」」


 …………。

 もはや、この人たちの存在自体がツッコミどころとなりつつある。

 あの激しくいがみ合っていた狂犬のような先代勇者たちはどこへ行ってしまったのか?


「だよねえ……?」


 同意を求めようと振り返ったら、私の仲間たちは一様に顔が真っ赤に。

 お湯でのぼせ上がったわけでは……、ないよね?


「いや、だって……!」

「姉者たちの物言いがあまりに明け透けなので……!」

「拙者たちには刺激が強すぎる……!!」


 シルティスちゃんもミラクちゃんもヒュエちゃんも、先代勇者さんたちによる大人の女性の会話に圧倒されてしまったようだ。


「そういうカレン、お前だって……!」

「え?」

「鼻血出てるぞ!!」


 えぇ~~~~。


「うふふふふ、小娘さんたちのおぼこいことだよぉ」

「それでいいやありませんか。十代のうちからこんな話に耳慣れとったら、その方が問題です」

「たしかにな、だが我々のチームにも一つ問題があるぞ」


 ?


「オレ様たち全員が同時に子宝に恵まれる、という計画を実現させるには、一人メンツが足りぬということだ。ソイツの準備が完全でないまま、自分たちだけ子作りを進めては、仲間想いが足りぬということになる」


 ますます「?」だった。

 キョウカさんは誰のことを言っているのだろう?


 甚だ疑問に思っていると、キョウカさんの視線があらぬ方を向いた。

 たしか、そちらの方には誰もいないはずなのに。


「なあ、そうだろう?」


 誰もいない方へ向かって、話しかける?


「風の先代勇者、ブラストール=ジュオ」

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