extra 01 美女鍋
本章は、書籍化記念番外編という性格上、メタな文脈が入ることがあります。
具体的には「世直し暗黒神の奔走、第一巻、12/22(木)発売」という文脈です。
ご了承ください。
波乱続きの新旧勇者戦が終結してから、早や二日。
しかし私たちは、まだ風都ルドラステイツに留まっていた。
私たちとはつまり、私――、光の勇者コーリーン=カレンと勇者同盟の仲間たち、だけでなく……。
「はー、気持ちいい」
カポーン、とでも音の鳴りそうな大きなお風呂。
私たち五人の勇者、他数名が足を伸ばして入っても、全然余裕な広さの湯舟。
ここは風都ルドラステイツ名物。公衆リゾートスパ。
移動都市ルドラステイツを動かす、超巨大エーテリアル動力炉の余熱を利用して、温めたお湯を還流しているんだとか。
都市内の各所に点在する、こうした大浴場は、ルドラステイツに住む風の教徒の皆さんの憩いの場となっていた。
「ムスッペルハイムのサウナや、イシュタルブレストの温泉もよかったけど、この健康ランド? っていうのもいいものだよねー」
火都ムスッペルハイムのサウナについては、十二月二十二日発売(予定)の書籍第一巻、おまけ書き下ろしを参照のこと。
「いいなー、アポロンシティにもこういうお風呂施設があればいいのになー」
と私は、自分の体をお湯にぷかぷか浮かべる。
この大きな湯舟でないと味わえない浮遊感がたまらない。
「フンだ、単にお湯がたくさんあるだけじゃない。それだったらアタシのハイドラヴィレッジには、この何百倍の水があるわよ」
「そりゃ水都ハイドラヴィレッジは港町だから……」
生活用水にも農業用水にも使えない塩水がたっぷりと。
そんな風に文句を垂れる彼女は、水の勇者シルティスちゃん。しかしその表情は、お風呂のリラックス効果にご満悦だと雄弁に物語っていた。
湯船の縁に腰かけて、膝から下だけをお湯に入れている。そうしてタオルも巻かずに惜しげなく裸体を晒しているのは、さすがはアイドルの自信というべきか。
実際シルティスちゃんの肌は水を弾いて輝かんばかり。プロポーションも均整取れてるし、あれだけ魅力的な体を頑張って磨き上げたとすれば、見せびらかしたくもなるだろう。
「皆に満足してもらえて、拙者も嬉しい限り」
同じくお湯に浸かるヒュエちゃんが言う。
この人も……、また、服の上からではわかりにくかったが脱いでみると。
……ご立派なものをお持ちで。
「同じ入浴施設と言えども、地都イシュタルブレストの温泉と比べれば天然鉱泉を売りにするあちらには及ばぬがな。その分こちらは、他都市より一歩進んだエーテリアル技術で差を埋めていくつもりだ」
「あー、そういえば、お風呂に入る途中で見かけた……、たしか」
マッサージ器。
「あのイス型のヤツ。アレ凄かったねー。ミラクちゃんが気に入っちゃって、ずっと座ってウアウア言ってるよ」
「それでここにはいないのレズ勇者? 意外ね。アイツのことだから仲間内全員がパンツも脱いでマッパになるこの状況、喜び勇んで同行すると思ったのに……」
「……ミラクちゃんがレズなのは半分風評被害だから」
半分はね。
それにミラクちゃんには、人前で裸になりたがらない理由もあるし……。
その理由については、十二月二十二日発売の書籍第一巻、おまけ書き下ろしを参照のこと。
「その他にも、エーテリアルを動力としたサウナやジェットバスや電気風呂。健康に配慮した薬湯風呂に、ミネラルたっぷりの海水風呂。外の風景を楽しみながら浸かれる露天風呂など、様々な施設を用意してある。また、ここのようにプライベートを保ったまま入浴を楽しめる家族風呂、というのも最近新しく売り出した試みだ」
「ああ、それは助かるわねー。アタシみたいなアイドルが公共の場に出て来たら、ちょっとした騒ぎになるし」
そう。
私たちが入浴しているのは、プライベートが確保された貸切風呂。関係者以外の入浴者はいない。
まあ、シルティスちゃんじゃなくても勇者は基本注目を受ける職業なので、あまり不用意に公衆に混じれないのはたしか。
無用のトラブルを避けるためにも、貸し切りは本当にありがたかった。
それゆえ現在この家族風呂とやらに入浴しているのは、私とシルティスちゃんとヒュエちゃん。
ミラクちゃんは脱衣場に備え付けてあったマッサージチェアの虜になっているとして……。
実は……。
その他にもまだ入浴中の一団が……。
「ほらほら、どうだい? あったかいかい? 気持ちいいかよぉ?」
と、赤ちゃんをお湯につけてあやす、先代地の勇者ヨネコさん……。
その、私の想像力を超えるレベルの豊満体は、脱ぐことでもはや暴力の域に。
「いやいや、助かったよぉ。この子もまだまだ小さくて、イシュタルブレストの温泉に入れるのはまだまだ先かと思ってたけど、よそ様の都市には、こんな便利なお風呂場があったなんてねえ」
ヨネコさんの腕の中でキャッキャと喜ぶ赤ちゃん。
……そう。
今私たちと同じ、この家族風呂に浸かっているのは、新旧勇者戦で激闘を繰り広げた先代勇者。
当然いるのは、地のヨネコさんだけではなく……。
「はぁ……! 可愛いですなあ、やっぱり子供は人類の宝ですわぁ……!」
「おい、こら暴れるなッ! お前の身長じゃまだ湯船の底に足が届かんだろうが!」
先代水の勇者ラ=サラサさん。
先代火の勇者アビ=キョウカさん。
お二人もしっかり湯船に豊満な裸体を沈めて、先日合流してきたヨネコさんの上のお子さん二人+その他をそれぞれ受け持っている。
「お二人さん助かるよぉ。さすがにオラ一人じゃワンパク三人を一度に風呂入れるなんて、怖くてできねえからよ。アンタらが見てくれてホント助かるよぉ」
「礼など及ばん。手のかかるガキのお守りは、妹弟子どもの世話で手慣れている」
「ウチも、そろそろ自前の宝物を拵えんといけない頃ですから、予行練習と思えば苦になりませんわ。はあ……、でもやっぱり可愛いわぁ、この頃の子供っていうのは……」
と、仲睦まじく談笑する先代勇者組三人。
そんなあの人たちを見て、私たち現役勇者のリラックスする気持ちは粉微塵となって吹き飛んだ。
「……ねえ、ヒュエッち」
「何でしょうシルティス殿?」
「もうちょっと何とかならなかったの? 先代と現役、分けて風呂に入れたってバチは当たらないと違う?」
「遺憾ながら……、家族風呂はまだルドラステイツでも実験的な試みで数も少なく。予約なしでこの席を確保できたのも勇者の特権を濫用してやっとのことで、これ以上のわがままを通すのは、どうにも……!」
「だったら無理してアタシら一緒に入らなくてもいいんじゃない!? こんな緊張でお湯が温かいか冷たいかもわからん入浴するぐらいなら狭い家風呂でもかまわないわよ!!」
「しかしヘタに避けようとすれば、それはそれで角が立つかと……!」
何と言う気の遣いよう……!
新旧勇者戦で完全勝利を得たとしても、やっぱり後輩は先輩に逆らえない立場にいるんだね。
「はあ、ほんに極楽だねえ……」
「可愛いわあ、赤ちゃん本当に可愛いわあ……!」
「だから暴れるなと言ったろう! なんでオレ様のところだけ二人も割り当てられてるんだ!?」
そんな後輩たちの気苦労など露知らず、先輩たちは湯加減を満喫するのだった。
あと……。
ここまで一度として語られなかった現役地の勇者ササエちゃんはというと……。
「ちょっと離すだすよ! なんでオラまで赤子どもと一緒のカテゴリに入れられとるだすか!? お気遣いなく! オラもう一人でシャンプーぐらいできる年齢だすよ! ちょっと目を開けるのは怖いだすけど……! とにかく抱きかかえんでくれだす! 離してだすよーーーーッッ!?」
何故かヨネコさんのお子さんたちと一緒に、キョウカさんに抱きかかえられてあやされていた。




