211 一刀両断
「ヒュエ…………」
ヒィッ!?
背後から亡霊が!?
と思ったら先々代風の勇者ブラストール=ジュオさんが、いつの間にか私たちの背後の空中に!?
彼女専用武器である風乱銃コウメイのビットから多数ロープをぶら下げて、そのロープの上にブランコみたいに腰かけている。不気味な外見のわりに可愛い飛び方!?
「お前まで何しに来たジュオ!? 我々は風都の存亡をかけた戦いの……!」
相変わらずヒュエちゃんは先輩に対して超邪険。
その理由はさっき判明したけど、そのせいでブラコン疑惑が際どいよヒュエちゃん!
「アナタたちが何をしようとしているか、大体わかる」
「「「え?」」
「でもヒュエ、アナタの風長銃じゃ対象全体に超音波を流すのに時間がかかる。非効率」
「だからなんだ!? それでも我らはやるしか……!」
「既にスライムの全方位に、我が風乱銃コウメイのビットを多数配置してある。これから一斉に超音波弾を放てば、あのスライムの芯まで伝わる」
「「えぇッ!?」」
たしかに風乱銃コウメイのビットは何十機もあって、その子たちが一斉に超音波弾を放てば、一門しかないヒュエちゃんの銃よりずっと早くことを済ませられる?
「ヒュエ、アナタは反射してくる音波を聞き取ることに集中して。風長銃を扱うアナタの方が、視る聴くに秀でている」
「ぐっ……。しかし、働きたくない盛りのお前が何故……!?」
「私も風の教徒。風都の危機に何もしないなんてできない。シバ様の愛するあの街の人々を、私も愛する」
「この女……」
「…………お義姉様と呼んで?」
「呼ぶかクソ女ァッ!?」
なんでこんなに仲悪いのこの二人!?
同じ三角関係である私とヨリシロ様みたいに仲良くやれないの!?
「ええい、今は緊急事態だ! お前の策に乗ってやる!!」
「早く準備して、こっちはもういつでも発射できる」
ジュオさんに促され、ヒュエちゃんは風長銃コウメイを耳元にくっ付ける。
「行くよ……。風の乱銃術『天狗礫』!」
何も聞こえなかった。
超音波とは、人間の鼓膜が感じ取れる限界以上に高い空気の波で、それが空気を伝わってスライムの体に飛び込み、スライムの体内まで伝わって、そうして反射した音波が逆にスライムの体から出てきて、私たちのいるところを通り過ぎていく。
当然反射音も人間の聞き取れる音域を超えているから、私には何もわからない。
でも、風の勇者であるヒュエちゃんなら。
風の神気を操ることで、普通は感じ取れない強力な空気の揺れも感じ取り、スライムの内部を反射してくる音波の微妙な違いを聞き分けて……。
「――――聴こえた!!」
ヒュエちゃんは風長銃エンノオズノをかまえ、放つ。
ズドン、ズドン!!
属性的にも相性のいい空気弾が、スライムの表面に大きな穴を二つ空けた。
縦に並ぶ二つの穴。
「あの穴が目印だ! あの二つの穴を結ぶように斬り裂けば、スライム内にあるコアをまとめて両断できる!」
「ありがとうヒュエちゃん!!」
お礼と同時に私は小型飛空機から飛び降り、大地に降り立った。
そしてそのまま聖剣サンジョルジュを振りかざす。
「ちょっと待って……、斬り裂くってどうやって? 光の勇者の『聖光斬』ぐらいじゃ、表面に切り傷つけるのが精一杯……」
ジュオさんが心配そうに指摘する。
その指摘はもっともだけど……。
「黙って見ていろジュオ。カレン殿には切り札がある!」
皆が頑張って準備を整えてくれた。
とどめ役は私だって最初から決まっていた。
私だって勇者として日々成長しているんだ。ミラクちゃんが新技『炎剣穿』を編み出したように。
私も皆との特訓で思いついた技がある。
「竜殺しの名を持つ聖剣サンジョルジュよ!! 私の光の神気をまとい、烈剣へと成り上がって!!」
天を衝くように真上へと掲げられた聖剣サンジョルジュが光り輝き、刀身と同方向に光の神気を放つ。
その様は、光り輝く刀身が何十倍もの長さに伸びたかのよう。
「あれは……、光の勇者の『聖光穿』!?」
「でもなんで真上に放つんです!?」
私の放つ輝きを見て、先代勇者のキョウカさんやサラサさんが戸惑っている。
でも違う。これは『聖光穿』じゃない。
「『聖光穿』は、線状に放った光の神気が敵を穿つ飛び道具。その軌跡が刀身の延長線上を走るため刀身が伸びたように見えるが、実際に伸びたわけではない」
「でも今カレンッちがしているのは違う。あの子は今、より濃厚で安定した光の神気を放ち、真実巨大な『光の剣』を作りだしている……!」
ミラクちゃんとシルティスちゃんの解説通り。
今聖剣サンジョルジュを倍加させた光の巨大剣は、芯たる聖剣の周囲に留まって巨大な刀身を形成している。
これが私のアイデアの下、皆の協力と特訓で編み出した新必殺技。
この巨大な光剣なら、巨大なスライムも真っ二つにできる!
「『聖光両断』!」
振り下ろされる光の巨刃。
ヒュエちゃんが空けてくれた二つの穴をちゃんと結ぶ角度で、スライムの巨体へ入刀する。
「おいおい……、あれなら……!」
「巨大水まんじゅうも真っ二つだよぉ!?」
ただ真っ二つにするだけじゃダメ。
全身が半液状のスライムは、綺麗に斬り裂いただけではすぐに左右を繋げ合って元通りになってしまうだろう。
だからヒュエちゃんとジュオさんが探し当てて切れた核を狙って、確実に斬り裂くんだ。
内部奥深くまで刃を入れるための一刀両断なんだ。でも……。
「くッ……!」
ダメ……。『聖光両断』を形成する光の神気の、拡散を止められない。
巨大な刀身を形成するためには通常以上に大量の神気放出が必要で、放出が強まれば強まるほど拡散も激しくなる。
その矛盾を解決しなければ『聖光両断』は技として完成とは言えず。私はまだそこまで神気の制御を極められていなかった。
「やっぱりまだ未完成だったの……!?」
このままじゃ、核に到達する前に刃が消えてしまう……!
どうすれば……!
「やれやれ、場当たりな娘ですね」
「!?」
いきなり『聖光両断』の収束力が上がった!?
何故?
チラリと後ろを振り向く。そこには先代光の勇者、サニーソル=アテス様が!?
聖剣サンジョルジュの柄を握っている。
「光剣の収束は私が引き受けます。アナタは出力を上げることに専念なさい」
アテス様が手を貸してくれることで巨大光剣は安定したの……!?
「……ッ!?」
いけない、この戦いは皆の戦い。
個人的な蟠りは今は捨てて。
「はあああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」
光剣は、一番下まで振り下ろされた。




