209 打診
「して、あの巨大まんじゅうどうやって倒す!? わかっているとは思うが、一飲みにして茶で流し込むというわけにはいかんぞ!」
「あの巨大さだもんねー。さっきの試し撃ちでも効果の差こそあれ結局あけた穴、全部すぐ塞がれちゃったし……」
あの半液体のような体。
傷をつけてもすぐに周囲の体組織が流れ込んで元の状態に均一化してしまう。
それでも体の大部分を消し飛ばせる大攻撃なら致命傷も与えられるだろうけど、毎回ながらのあの大きさ。純粋な力比べじゃ絶対勝てない。
相性のいい風属性だったとしても。
「しっかしアイツ、あんな水っぽいナリしてて地属性なのよね。意外性あるっつーか……」
「じっくり観察している場合ではないぞ。あの水まんじゅう、ゆっくりとではあるが着実にルドラステイツに近づいている。到達する前に何としてでも倒さねば……!」
ミラクちゃんの言う通り。
そしてスライムを倒すには力押しだけじゃない。知恵も使わなきゃ。
どうすれば……。
……あっ。
「ねえ皆、あのスライム、ゴーレムに似ていない?」
「は?」「へ?」「だす?」「はて?」
スライムの進行速度は遅い。
まだ作戦会議を続ける余裕はあった。
「何言ってんのカレンッち? あのゴツいゴーレムとまん丸水まんじゅうに共通点なんかないじゃない」
「そうだすよカレン姉ちゃん! 同じ地属性だからって一括りにしすぎだす!」
皆から非難の嵐だけど……。
「ううん、やっぱり似てる。体を壊されても、すぐ再生してしまうところが!」
今戦っているスライムは、欠損部分に半液体状の体を流し込んで、すぐ均一化してしまう。
ゴーレムは、壊された部分に周囲の土や石を取り込み、体を作り直してしまう。
「どちらも別のもので容易に体を代替えできる。その再生機構は、同じ地属性だからか、そのシステムは凄く似ている……!」
「たしかにそうかもしれぬが、だから何だというのだ?」
ヒュエちゃんのもっともな質問に、私は答えた。
「だったら、他にも似てるところがあると思わない? ゴーレムは、核となるライフブロックが無事な限り何度でも再生できるんだよ。もしかしたら、あのスライムにも……」
「「「「あ」」」」
皆、合点してくれたみたい。
「あの水まんじゅうにも核があるかもしれないということか! なるほどそれを壊せれば、一切合財を欠片も残さず消し去るより遥かに効率的だ!」
「でも、あのデカブツの中からどうやって核なんか見つけ出すの? 中に飛び込んで泳いで探す? 見つける前に骨まで溶かされるわよ」
シルティスちゃんの言うことももっとも。
でも私には、そこに関してももう一つ名案があった。
「皆聞いて……」
* * *
作戦会議終了。
あとは行動に移すのみ。
「行くぞお前ら!」「おうだす!」「足止め隊出動!」
チームを二つに分け、ますミラクちゃん、ササエちゃん、シルティスちゃんの三人がスライムへ向けて走る。
充分注意しながら接近し、安全を保てるギリギリの間合いで止まる。
「この辺でいいだろう。やるぞササエ!」
「がってんだす! 『マグマ・オーシャン』だす!」
火のミラクちゃんと地のササエちゃんが協力して生み出す複合属性『マグマ』。
二人の目の前の地面がたちまち赤く燃え滾り、溶岩溜まりへと変わる。
「マグマの堀だ! 死ぬほど熱いぞ渡れるものなら渡ってみろ!」
「これでスライムの足も止まるだす! あの水まんじゅうに足はないけど比喩的な表現だす!」
ミラクちゃんたちに頼んだのはスライムの足止め。
マグマの堀に阻まれて進行が止まっているうちに、必殺の作戦を進める。
「やったー! 順調よー! みんな頑張れー!!」
そしてミラクちゃんササエちゃんの背後で声援を送るシルティスちゃん。
「シルティス姉ちゃん煩いだす……! ハッキリ言って、いる意味ないだす……!」
「苦手属性の敵が出てくるとホント辛いな。スライムが見た目通りの水属性じゃなくて本当によかった……!」
守りを三人に任せて、私とヒュエちゃんは一気呵成の攻勢を狙う。
「ヒュエちゃん、お願いね」
「心得た。風の長銃術『山彦』!」
少し離れたところから、ヒュエちゃんはスライムを狙撃する。
しかし放たれるのはいつもの空気弾ではない。
「今、風長銃エンノオズノが撃ち出しているのは、人間の可聴域を超えた超音波弾だ。それがスライムの内部に浸透し、返ってくる反響を我が耳で捉える」
私が新旧勇者戦の最中でケガをした時、先々代風の勇者ジュオさんが用意してくれた超音波診断装置。
特殊な音を人間の体内に流して、その反響を聞き取ることで、切り開くことなく中身の様子を調べることができるという不思議な機械。
同じような原理で、スライムの中にあると推測される核を見つけ出せないかと思ったのだ。
「しかしカレン殿には驚かされる。今日会ったばかりの出来事を、即座に作戦に取り入れてしまうとは……」
「私もあれが伏線になるなんて思わなかったよー」
人間なんでも経験しとくもんだね。
「ただし、問題がある」
「何?」
「スライムの構造は、人間よりも遥かに単純そうだから、機械の助けなしでも簡単に核の位置を特定できそうだ。だが如何せんあの大きさ。拙者の神力では、アレを一発で覆い尽くせる超音波を放つことは不可能だ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「何発かを様々な角度から撃ち込み、全身をカバーして調べていくしかない。その分時間はかかるが……!」
大丈夫。
そのために私はお馴染み小型飛空機を駆って、後ろにヒュエちゃんを乗せている。
ミラクちゃんたちが足止めしてくれてる間に、スライムの周りをブンブン飛び回ってやるんだから!
でも、そう思っていた矢先……。
「カレン! カレン大変だ!」
ミラクちゃんの声が私を呼ばわる。
「あの水まんじゅう! 溶岩をものともしないだす! フツーに渡ってくるだすよー!」
ウソ!?
ミラクちゃんとササエちゃんの作ったマグマの堀を、スライムは無人の荒野を行くみたいに進んでいる。
効かないわけじゃない。溶岩に触れた半液状組織はブスブス音を立てながら沸騰していくけど、それに苦しむ様子はスライムにはまったくない。
強行突破。進行速度も衰えない!
「もー、何やってんのよ役に立たないわねー」
「「お前に言われたくない!」だす!」
シルティスちゃんとの漫才で和んでる場合じゃないよ!
スライムがルドラステイツにたどり着くまでに、核の特定は済むの!?




