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208 勇者の舞台

「私たちも戦わせてください」


 同じように会議室に詰めかけていた他教団の勇者。カレンさんが代表して言う。


「もはやこの世界で起きる危機に、教団の区別はありません。現場に居合わせ、戦える力があるのなら、一緒に敵へ立ち向かうべきです」


 その申し出に、当事者の長であるシバは周囲に目配せする。地水火光、四人の教主は揃って頷いた。


「ではお願いする。風の教主として、勇者たちの誠意に心から感謝する」


 しかし……。僕は心配して尋ねずにはいられなかった。


「大丈夫なんですかカレンさん? 爆発のケガは……?」

「大丈夫です! 火傷はシルティスちゃんが全部治してくれたし、風の教団さんの検査で内側にも異常がないって言われました!」


 カレンさんはガッツポーズで元気をアピールするが、それでも僕は心配だった。

 大丈夫でなかった場合、百%強がりをするのがカレンさんなのだ。


 カレンさんだけでなく、ミラク、シルティス、ササエちゃんだって、試合での疲労が癒えていないはずだ。

 現在勇者同盟で確実に万全だと言えるのは、それこそヒュエしかいないのではないか。


「あの……、やっぱり僕が……!」


 今回特に出番がなくて、余力が有り余っていたし。

 満身創痍のカレンさんたちを危険な目にあわせずとも、僕が暗黒物質であんな水まんじゅう一瞬で消し去れば……。


「待ちなさい」

「待ちない」


 光と地の両教主から肩を掴まれた。


「ハイネさん、女の子たちを案ずる優しい気持ちはわかりますが、ここはもう少し傍観していてください」

「ここは、ダメ押しのチャンスさね。勇者同盟の最大の目的、勇者が協力してモンスターに立ち向かうこと。それを実地で衆目に確認させられるんだ」


 ここルドラステイツには今、新旧勇者戦を見届けるために五大都市すべてから多くの人が詰めかけている。

 その人たちの前で五人の勇者が協力してあの巨大モンスターを打ち破れば、勇者同盟の正当性はこれ以上ないレベルで実証され、もはや反対派は息もできなくなるだろう。

 だが……。


「いい加減にしろよ?」


 僕は言葉を厳しくせざるをえなかった。

 今日カレンさんたちはどれほどの無理を強いられてきたのだろう。卑怯卑劣を好き放題にしてくる敵に耐え忍び、傷つき疲れながらも戦い抜いてきた。

 それはヨリシロたちによる政治レベルでの戦いを、最大限有利にするためだ。

 しかしこれ以上同じ理由で彼女たちを戦わせるのは、負担を彼女たちだけに背負わせるだけじゃないか。


「カレンさんたちは充分に戦った! あとは僕に任せてもらう!」


 肩を怒らせ会議室から出ようとした、その時だった。

 そんな僕を戦いの準備万端な少女たちが止めた。


「余計な気遣いだぞハイネ。俺たちはまだまだ絶好調だ」

「今日が終わるまではアタシたちのステージなの。アンコールを拒否したとあっちゃアイドルの名折れよ」

「斬れるものがあることは幸せだす! 地の勇者として斬れるものは何でも斬り刻むだす!!」


 ミラク、シルティス、ササエちゃん……!

 三人とも、格上である先代勇者との戦いは、決して楽に勝てたわけではない。むしろ傷だらけで勝ち取ったというのに……!


「ハイネ殿、我らは試したいのだ。力を合わせた自分たちがどこまでやれるのか」


 ヒュエも風長銃エンノオズノを握って列に加わる。


「ハイネさんが最強だってのは皆知っています。でも、もう少しの間だけ見守っててください。五人揃った私たちも最強だって、皆に見てもらいたいんです」

「……」


 僕は最強なんかじゃない。

 だって、彼女たちの真っ直ぐキラキラ輝く眼差しに、こんなにも弱いんだから。


              *    *    *


 ……そしてほんの少しの時を置いて、私たち五人は荒野に立っていた。

 私――、コーリーン=カレンと仲間たちの計五人。


「皆、一応聞いておくけど体は大丈夫? 無理はしなくていいんだよ」

「それはお前にこそ言いたいセリフだカレン。爆発のダメージは本当に問題ないのか?」

「そういうミラクッちだって、先輩にこんがり焼かれてたじゃん。今でもほんのり美味しい匂いが漂ってくるんですけど?」

「シルティス姉ちゃんは楽に勝ってたように見えたけど、神力の消費がハンパないだす。やっぱり水の先代勇者も強敵だっただす!」

「ササエ殿も、体中の切り傷を覆う包帯でミイラのようだ。やはり無傷の拙者が、ジュオにぶつけられなかった憤懣をヤツにぶつける!」


 結局私たち全員満身創痍ってこと。

 でも不思議、コンディション的には最悪なのに、五人で立ち向かえば全然負ける気がしない。

 目前に迫ってくる、半透明の丸い山。


「おーおー、迫ってくる迫ってくるスライムちゃん。前情報通り、飲み込んだ木やら岩やら、すぐさまドロドロに溶かしてるわね。こりゃ捕まったら死あるのみだわ」

「距離を取って遠距離攻撃が基本だな。しかしその前に……」

「『聖光斬』!」「飛ぶ『フレイム・ナックル』!」「『水の怒り』!」「その辺の石ころを『強化錬金』して『ホールイン・ワン・ショット』だす!」「風の長銃術『鐘撞』!」


 五つの神具から、それぞれ異なる属性の遠距離神力攻撃が放たれる。

 それは無事スライムの表面に命中し、……問題はここから。

 私の『聖光斬』は、それなりにスライムの表面を斬り裂きながら埋没していったが、すぐに再生して傷は跡形もなかった。それはいいとして。

 ミラクちゃんの火、ササエちゃんの地の攻撃もそこそこにスライムの半液状の体に穴を掘り、すぐさま再生されてしまったけど……。

 シルティスちゃんの水弾は表面から弾いて傷一つない。逆にヒュエちゃんの風気弾が一番効いた。五人の攻撃の中で一番大きく深い穴をあけた。


「水の攻撃を弾き、風の攻撃に弱い……!」

「ということは、地属性!?」


 スライムは地属性モンスター?

 でも待って。聞いた話では地属性モンスターはグランマウッドが生み出すゴーレム一種のみ。

 しかも地のマザーモンスター、グランマウッドは既に消滅して、地属性モンスターはもう生まれないはずなのに!?


「謎解きは楽しそうだけど、後回しにするべきね」


 そうだ。私たちの背後には風都ルドラステイツと、そこに住む何十万という人々がいる。

 移動都市としてスライムから逃げることもできるルドラステイツだけど、今はそれをやめ、私たちの後方に距離を置いて、停止している。

 私たちの戦いを見届けるため。

 私たち勇者が必ず勝つと、皆信じているんだ。

 その期待、信頼を裏切らないためにも、私たちはあの巨大葛餅さんを倒す!


「風間忍には、都市の警護に徹してもらうことにした。正真正銘我ら五人と、あの水まんじゅうとの戦いだ」

「望むところ。それでこそ勇者の晴れ舞台だ!」


 戦いが始まる。

 今回の最後を飾る、一番派手な戦いが。

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