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205 悪足掻き

『大会運営委員からの命令である。降参は認めない。決着がつくまで試合続行すべし』


 現役勇者vs先代勇者一騎打ち全五戦。

 その第三試合終了直前に入った物言い。

 いや、これは物言いと言えるほど筋の通ったものか?

 単に言いがかりなだけな感じも……。


「あんれまあ、無茶言いなさるお人だよぉ。オラたちどちらか死ぬまで戦えとでも言うのかい?」


 降参した本人であるヨネコさんも呆れ顔だ。


「ま、あちらの言いたいこともわかるさね。一回目、二回目も、ササエらの勝ちだったからね」


 速やかに涙を止めた地の教主のお婆さんも不敵に言う。

 既に第一、第二戦の勝利でリーチをかけていた現役勇者チーム。第三試合でササエちゃんが勝利することで、チーム全体の勝利が確定する。

 ちなみに僕は爆弾なんて投げ込む気はないぞ。


「これまた往生際の悪い話だよぉ。悪いけどもう付き合いきれないよ。旦那や上の子たちが恋しくなったから、さっさと帰らせてほしいよぉ」


 しかし放送音声は、益々声音を荒げて怒鳴り散らす。

 聞き覚えのある声で。


『うるさい! 戦え! 今日の試合は我々の勝ちで終わる予定なのだ!! それ以外の結末など許さん!! この勝負は第三、第四、第五と先代勇者が三連勝して逆転勝利で終わるのだ! そうに決まっている! 私の筋書きを乱すなど、地の教団の田舎者が生意気なマネをするなあああ!!』


 あの声。やはり極光騎士団団長のドッベか。


「兄ちゃん、兄ちゃん」


 呆れ声で地の教主が言う。


「いいからとっとと終わらせちまいな。オラさ部屋に戻って茶でも飲みてえよ」


 まったくであった。

 僕は会場全体に聞こえるように、大きな声で宣言する。


「第三試合、現役地の勇者ゴンベエ=ササエ勝利!! よって現役勇者vs先代勇者団体戦は、先に三勝を取った現役勇者チームの勝利!!」


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォーーーーーッッ!!


 会場から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。

 ここに詰めかけた観客は、地水火風光の五大都市からやって来た人々。

 カレンさんたち現役勇者の強さと主張の正当性が、世界全体を証人にして認められたということだった。


「勝手に決めるなああああぁぁぁーーーーーーーーーーーッッ!!」


 ついに放送では埒が明かないと、ドッベ騎士団長が闘技場へと駆けこんできた。

 途中にいた人波を無理やり押し開き、子供や女性を突き飛ばしてもかまうことはない。

 そのまま目を血走らせて僕の前まで迫ってくる。


「今の試合は無効だ! いや、現役勇者の反則負けだ! あんなバカのような大きい石像を持ち出してくるなど品位の欠片もないではないか!!」

「母ちゃんの像がバカだすと?」


 その一言にササエちゃんが露骨に殺気立つ。


「前の試合も! その前の試合も! 現役勇者が反則負けだ!! 大体なんだ貴様! 貴様は教主ヨリシロ側の人間ではないか! そんなヤツが審判など、現役勇者に有利な判定をしたに違いない! だからこれまでの試合は全部無効だ!!」

「じゃあ、今日の試合で起きたことを徹底的に洗い直すか? 先のチーム戦、入場口の割り振りや審判の子が爆弾使ったことまで含めてな」

「んぐッ!?」


 僕の一言に、ドッベは思い切り息を詰まらせた。

 バカめ。自分に後ろ暗いことがあるのにどうして他人を責め立てられるんだ?


「そ、そこは調べる必要はない! 不正はない絶対にない! 怪しいのは貴様らだ!」

「そんな子供みたいな理屈が通ると思っているのか?」

「私をバカにするのか!? 私は極光騎士団、団長だぞ! 五大教団でもっとも優れた光の教団の武力を総べる者だ! 他のカス教団とは違うのだ!!」


 そのままドッベは、語りかける相手を群衆に替えた。


「皆のもの聞け! 今いる勇者や教主は、世界を壊そうとする極悪人だ!! 今ある秩序を破り、汚濁と混乱をもたらそうとしている。そもそも我ら栄えある光の教団と、他の二流三流のカスどもを交わらせるなど、美に対する冒とくではないか!! 皆もそう思うだろう!」


 この会場には光の教団以外の人々も数多く詰めかけているのに何を言っているんだ、このバカは。


「こんな大事なことを、力比べなどで簡単に決めるなど間違っている! 皆の意見を取ろう! 多数決だ! どちらが正義であるかは全員の知るところだ! これなら我々に万が一の負けもない!!」


 しかし返ってくる反応は、予想するまでもないほどに順当なものだった。

 それまで現役勇者チームの勝利に沸き返り、津波のような歓声を上げていた会場が……。


 シン……、と。


 一瞬にして静まり返った。


「ヒッ……!?」


 その無言の圧力にドッベも怯む。

 会場に詰めかけた数万人から送られるのは、軽蔑混じりの冷めた目線。

 彼らだって今日の展開、おかしいと思っていないわけがない。とりあえず続行ということで皆態度を保留していたが、もしあのまま先代勇者チームの勝利で終わっていたら、後日どんな混乱に発展していたことか。


 バカにはわからないのだろう。

 簡単安全だと思って打った手が、どれだけ多くの人からの信用を失わせたか。

 水の教主も言っている「信用こそもっとも貴重な財産である」と。

 安易にルールを破ったお前たちは民衆からの信用を失い、理不尽に襲われながらも直向きに戦い抜いたカレンさんたちに民衆は感動し、絶大な信頼を置いてくれた。


 それがこの結果だ。

 カレンさんたちはただ勝っただけでなく、その勝利を民衆たちによって完全に承認された。

 有名無実の勝利などではなく。


「え……、ええい!!」


 よせばいいのに、最後のプライドを振り絞ってドッベは怒鳴り散らした。


「なんだその目は!? この私をそんな目で見ていいと思っているのか!? 私は極光騎士団長だぞ! 貴様ら下賤の異教徒などより何十倍も優れた聖騎士なのだ! 私に従え! 私に反対するな!! バカどもは黙って私に従っていればいいのだァァァ!!」


 放置すればするほどバカを晒すヤツだ。

 今回の戦い、政治的な面で見れば勇者同盟&教団和解を推進する派と反対する派との対決。

 どんな決まり事でも、たくさんの人間が関われば自然と利害が発生し、誰もが利を取り、害を避けようと本気の争いを始める。

 時にはくだらないプライドや優越感のためにも戦う。

 目の前にいるドッベは、まさにそんなヤツだ。

 ヤツは言うまでもなく教団和解反対派。

 五大教団の中で光の教団がもっとも優れていると信じ込み、他を見下すことで優越感に浸りきった人間。

 自分より下に誰かがいなければ満足できない。自分の上に誰かいたら耐えられない。

 たとえ自分一人の中のまやかしに過ぎずとも、コイツにとっては他の四教団が自分より劣っていなければならないのだ。


 しかし、コイツ一人の思い込みに世界全体が付き合う必要はない。

 言葉で通じ合わないなら、実力で排除するしか……。


「その辺にしておきなさい。団長……」


 僕がドッベを殴り飛ばそうとした寸前に現れる新しい人物。

 光の槍を携えた、清純なのに胡散臭げにしか見えない外見の……。


「おおっ、アテス殿!」


 先代勇者チームの先代光の勇者サニーソル=アテス。

 本来なら第五戦の選手として控えているはずの彼女が、今ここに!?


「アテス殿! 貴公からも言ってやってくれ! この戦いは欺瞞だらけだ! 正義が敗れ悪は栄える! 裏で何か卑劣なことが行われたに違いない! そもそも私は貴公こそが光の勇者に相応しく、今いる小娘など汚らわしいニセモノ……、ぐっぼおぉッ!?」


 えッ!?

 いきなりアテスが、ドッベを殴りつけた!?

 勢いに耐えきれず、思い切り飛んで転ぶドッベ。


「お黙りなさい下郎。卑劣なことをやったのはアナタです」

「あべ……!? 何を……?」


 殴られた頬が思い切り腫れ上がって、ドッベはわけもわからずといった表情。

 僕もわからない。

 二人は裏で繋がっていたのではないのか?


「この先代光の勇者サニーソル=アテス。告発します。極光騎士団団長ゼーベルフォン=ドッベ及び、教団和解反対派がこの試合で行った卑劣な工作の数々を!!」

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