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203 母神像

 ヨリシロから教わった新技!?

 一体どういうことだ? そう言えばここ最近ササエちゃんはヨリシロと意気投合して教えを乞うていたようだが……?

 ヨリシロは一体ササエちゃんに何を教えたんだ?

 人間にはまだ早い禁断の知識とかじゃないだろうな!?


「はぉうッ!!」


 ドスッ!

 ササエちゃんはいきなり、自分が持つ地鎌シーターの石突を石畳の地面に突き刺した。

 これがホントの石突だ、とか言ってる場合か!


「オラたち地の勇者は、ただ鎌を振り回しているだけのように見えるだすが、実際は違うだす! 神具たる地鎌シーターにも地鎌マグダラにも、常に地の神気が流れとるだす!」

「そうだねえ、その神気によって地鎌は常に最高の切れ味を保つ。刃は産毛よりも細くなり、硬さは鋼鉄以上。さらに芯の部分に粘りを生ませて絶対に折れない。上級者になれば普段羽毛のように軽くして、目標を斬り裂く瞬間だけ何十倍も重くすることだってできる。仮に刃毀れしても、自動的に研ぎ直されて元通り」


 すべて地の神気のなせる業だ。

 五属性の中で地の神気がもっとも接近戦に優れていると言わしめる所以。


「しかし、当然ながら地の神気を流し込めるのは神具だけとは限らんだす。ぶっちゃけ固体ならば何でもオッケーだす! しかも使い捨てるつもりで物質の組成そのものを変えてやれば……!」


 ササエちゃん、地面に突き刺さった大鎌の柄を引き抜く。


「『変形錬金』!」


 しかし、大鎌の柄はただ引き抜かれただけではなかった。地面に潜っていた柄の尻に、それまでにはなかったものがくっついていた。

 鎖だ。

 ササエちゃんの大鎌が、大鎖鎌になった!?


「地鎌で増幅させた神気を、地面の土や石に流し込み、鎖の形に組成したのかい? たしかにゴーレム使いはそういうのが得意だよぉ」

「切った張っただけが地の勇者の得意じゃないだす! 根性ぉー!!」


 思い切りぶん回して勢いをつけた鎖の先が、あやまたずヨネコさん目掛けて走る。

 鎖の先に付いた分銅は、楽観的に見ても普通に使われているものと同じ硬さ。あの速さで叩きつけられたら、体の一部が弾け飛ぶぞ。


「反吐が出る甘さだよぉ」


 しかしヨネコさんは、鎖の挙動を完全に見切って、地鎌マグダラで鎖を切断した。

 鎖の先、人間の身長分ほどの長さが、斬り落とされて宙に飛ぶ。


「その辺の土石ころを錬金して充分な戦力になるんなら、特別な神具なんて最初からいらないよぉ。そんな急拵えの武器じゃあ時間稼ぎ程度にしかならない。これが光の教主様から教わった必殺技だって言うのかよぉ?」

「まだすべてを見せ終えてはいないだす!」


 ササエちゃんが、地鎌シーターを経由してさらなる神気を鎖に流し込むのが、わかる。

 それによって斬られた鎖の切断面がさらに変形し、鎖分銅に代わってヨネコさんを襲う。


「なッ!?」


 それは例えるならば、首を斬り落としたヘビにすぐさま新しい頭が生えて襲い掛かってきたようなものだろう。

 しかも距離は至近。それでも全勇者の中でもっとも接近戦に秀でているだろうヨネコさんはギリギリでかわす。


「しかしヒヤリとさせられたよぉ」

「しかしまだ終わりでないだす! 本命は……!」


 さっきヨネコさんに斬り落とされた鎖の端。もはやササエちゃんからの神力供給も断たれて死んだヘビのようにグッタリしているはずのそれが、想像に反して元気に踊り、ヨネコさんに飛びかかった。


「なッ!?」


 連続攻撃を連続回避して体勢の崩れ切ったヨネコさんは、今度こそかわしきれない。

 鎖は彼女の足元に絡み付いて、豪快にすっ転ばせた。

 バタン!


「持ち主の手から離れても、短時間ならあらかじめ仕込んだ神気で命令通りに動かせるだす!」

「ぐぅ……! 最初から一撃目は斬り落とさせる算段だったのかよぉ!?」


 ササエちゃんはさらにヨネコさんに鎖を巻き付け、がんじがらめに縛りつけた。

 もはや腕一本動かせそうにないヨネコさん。


「見事だ……、と言うべきかねえ? こうしてオラの動きを止めて、とどめさ刺すつもりかよぉ……!?」

「その手はクワナの焼き蛤だす! たとえ両手両足をフン縛られても、最後には口で敵の喉笛噛み切るのがヨネコ姉ちゃんだす!」

「ちっ、さすがに身内には見破られるよぉ……!」


 本当にそんなつもりだったのか?

 では、もし全身の自由を奪ったと思ってノコノコ接近してたりしていたら……! 怖い!


「……生憎と、ヨネコ姉ちゃんの動きを止めてやることは最初から決まってるだす」


 え?


「オラの神力は、まだ放出圧力が低くて、必要な土石全部に神力を浸透させるには時間がかかるだす。だから実戦では使えねえとヨリシロ様に止められとっただす。でも、鎖を振り回しとった間も含めて、充分に神力は地面に行き渡っただす!」


 ササエちゃんの足元の地面が、ミシッ、ミシッと軋み声を上げる。

 何かが起ころうとしている。


「……何か、まずいよぉ!?」


 ヨネコさんも危険を察知したのか、全力でもがいて鎖から脱出する。

 それにかかった時間は、五、数える程度だろうか。

 ヨネコさん必死にササエちゃんに駆け寄るが……。

 間に合った。

 唐突に地面から生えた巨大な手が、ヨネコさんの突進を阻む。


「はぁッ!?」


 驚いて急ブレーキをかけるヨネコさん。

 現れた手は真に巨大だった。ヨネコさん一人を楽々鷲掴みにできるほどに。

 そしてその腕は、鉱物のようなもので出来ていた。

 地の神力で錬金された、石や土。


「姿を現すだす! 我が神力によって形作られた新たなる土の巨人よ!」


 地面から、土くれの巨人が現れた。

 それすべてササエちゃんの神力によって錬金され、形作られたものだろう。

 その体躯は巨大、まさしく巨大。

 これまで出会ったどのゴーレムよりも巨大で、それを作りだしたササエちゃんの底力が窺える。


「これほどの神力キャパシティをもっていたのかササエちゃん……!?」


 カレンさんも光の神力の適性は破格だったと聞くが、ササエちゃんの地属性へのそれは遥かに上回るんじゃないのか?

 地の教主のお婆さんもそんな風なこと言っていたし、ヨリシロが彼女を指導する気になったのも、この力を見抜いたから?


「これはゴーレム……! ゴーレムなのかよぉ……!?」


 対戦するヨネコさんも、恐れおののきたじろいだ。


「ライフブロックなしでゴーレムを……! 地の勇者が、地の神力だけでゴーレムを錬金したって言うのかよぉ……!?」


 いや、しかし、それ以前に。

 地の錬金法でここまで精巧な人の形を形作るなんて。

 人体というのは、ただでさえ地上にある何よりも複雑な構造をしている。それを極限まで簡略化した人もどきの土人形でも、人のイメージで作り上げるとしたら頭の血管ブチ切れるほどの精巧さが要求される。

 それなのにササエちゃんが生み出したこれは……!

 ゴーレムをただの土人形だとしたら、これはまさに人間そのもの。

 人間の、美しい女性の形をした女神像だ。


「ヨリシロ様のごしどーの賜物だす!」


 みずからの生み出した女神ゴーレムの肩に乗っていたササエちゃん。

 シュタッと地面に飛び降りる。


「自分の作りだした代替えゴーレムと共に戦う。それが地の勇者ササエの新たなる戦闘スタイルだす! ヨネコ姉ちゃん! いざ尋常に勝負だす!」

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