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200 二つの在り方

00プロローグ含めれば201話ですが、とりあえず今回で200話達成ということで、これも皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。

書籍化などで勢いづいてもいますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします!!

「ひょえッ!? どえッ!? はわわわわわわ……ッ!?」


 試合が始まると同時に、ササエちゃんは終始押されっぱなしだった。

 先代ヨネコさんが繰り出す小振りな鎌の連撃は、ササエちゃんの大鎌を容易く掻い潜って、ササエちゃん本体を脅かす。

 やはり、小回りの点でヨネコさんがササエちゃんを圧倒しているのだ。


「どうしたんだよぉササエちゃん? そんなにオラに足を刈ってほしいんかい?」

「冗談じゃないだす! 反撃の『エッジ・トルネード』!!」


 ササエちゃんはみずからをコマのように回し、大鎌で斬りかかろうとするが……。


「むしろ隙だらけだよぉ」


 ヨネコさんは低く身をかがめ、高速回転する大鎌の刃を簡単にかわして、コマの軸というべき相手の足に鎌の刃を添えようと……。


「ヒィ! 危ねえだす!!」


 咄嗟にジャンプしてかわすササエちゃん。

 しかし追撃するヨネコさんはまったく容赦がない。


「ヨネコは全然本気じゃないよ」


 僕の隣にいる地の教主のお婆さん。解説担当か。


「ヨネコが本気になっとったら、ササエなんぞもうとっくに両足斬り落とされとるさ。ヨネコの現役時代のあだ名は『葦刈り』」


『葦』と『足』をかけてるわけですか?


「しかし、……ヨネコさんとササエちゃん、実力差がありすぎる」


 前の二戦、ミラクとキョウカ、シルティスとサラサよりもさらに絶望的な差が今回の二人の間にはある。


「やっぱり最年少のササエちゃんは、先輩に挑むには成長が足りないのか?」

「それもあるが、ササエが勝てねえ理由はもう一つあるさね」

「え?」


 お婆さんの発言が、いちいち僕の興味を引く。


「どういうことですか? ササエちゃんには他にも不利な面があると?」

「それは……、ちょっと待ちな。この子がクソ漏らしおった。おしめ替えてやらんと」


 ええぇ~!?

 お婆さんが、闘技場の真ん中で己がひ孫さんの恥部を公開している間も、命を懸けた攻防は続いている。

 三回戦の特徴は、勇者当人が激しく動き合っていることだ。

 前の試合では、火なり水なり形を成した神気の撃ち合いだったが、この地の勇者戦は徹頭徹尾の肉弾戦。

 それは地の神気を通じて固体を支配する地の勇者ならではの戦闘と言えた。


「ゼェ……、ゼェ……、ゼェだす……!」

「情けないねえ、もう息が上がっちまったのかい? これだからゴーレム使いは鍛錬が足りないって言うんだよぉ」


 ゴーレム使い?


「そう、それがヨネコとササエの一番の違いさね」


 おしめ替えが終わったらしいお婆さんが、ひ孫さんを抱きかかえる。


「つい最近まで、オラさの田舎とゴーレムとは切っても切り離せん仲だった。アンタさも知っとるだろう?」


 それは、まあ……。

 地の教団本拠がある地都イシュタルブレストには、世にも珍しい人間と共生するモンスター、ゴーレムがいた。

 地のマザーモンスター、グランマウッドによって無限に生み出される土くれの巨人は、人を助け、人のために働き、多くの人々から慕われてきた。


「イシュタルブレストを守護する地の勇者にとっても、ゴーレムは決して無視できねえ存在だったさ。何しろあの巨体とパワー、戦いを任せるにもうってつけさね。だからこそ歴代の地の勇者も、ゴーレムを頼り、共に戦ってきた」


 そういえば、僕は直接見てはいないが、ササエちゃんも光都アポロンシティで三体ものゴーレムを操り、カレンさんたち三人の勇者を翻弄したとか。


「地の教団において、どれだけうまくゴーレムを使えるかも勇者に問われる資質となった。優秀な地の勇者は、優秀なゴーレム使いでもあるのさ」

「それじゃあ、昔勇者だったお婆さんも……?」

「いんや、オラさが現役だった頃は、まだそこまでゴーレムを使った戦闘が浸透していなくてねえ。もっぱら鎌一本での刃物三昧だったよ」


 以前チラッとだけ見たお婆さんの鎌捌き、凄まじかったものなあ。

 彼女が若かった時代は、あの切断地獄が若き体力任せでエンドレスだったわけか。


「そして……、ヨネコも同じタイプだ」

「え?」

「ヨネコは、今どき珍しいゴーレムに頼らない肉弾戦特化の地の勇者なんだよ。ササエのようなタイプをゴーレム使いと呼ぶならば、さしずめヨネコは鎌使い」


 その答えを聞いて、僕の頭の中で情報がカッチリ噛み合った。

 ササエちゃんが不利な理由。

 それは経験の差や体格の差だけではない。

 これまでゴーレムと共に戦って、その扱いに精通していたササエちゃん。そんな彼女がゴーレムを使わず鎌一振りで、そちらの戦いのエキスパートであるヨネコさんに挑む。

 それこそがこの戦いの不利の、本当の意味だったんだ!


 再び激しい斬り合いを一区切りして、睨み合う二人。


「ササエちゃん、アンタは本当にダメな子だよぉ。ゴーレムに頼り切って地鎌の使い方をまるで覚えていない。仕方ないね、オラはアンタのお姉ちゃんだから、少しは教えてあげるよぉ」


 地鎌マグダラが妖しく光る。


「鎌は元々農具だよぉ。実って頭の垂れた稲穂を刈り取るために、できるだけ根元から切れるよう形作られた道具なんだ。だから人殺しの武器として使う時も、できるだけ地面の近くを斬る方がやりやすい。オラはその通りにしてきた。だからついたあだ名が『葦刈り』なんだよぉ」


 そう言ってヨネコさんは大きく足を開いて身をかがめ、まるでネコが獲物に飛びかかる寸前のような姿勢になる。

 左手で右腕の袖をまくり上げる。露わになった細腕は、まるで鎌を咥えた白蛇のようだ。

 チーム戦の時にも見せた、ヨネコさんの戦いのかまえ。


「いいかい、相手を斬る時は大きく股を開くんだよぉ。田んぼに張った水にホトが映りこむぐらいにねえ。そうすりゃ自然と頭も下がる。足を刈るにちょどいい具合に。そこから……!」


 ブゥオンと風が悲鳴を上げた。

 一瞬にして縮められた両者の距離。


「うわだす!?」


 ササエちゃんは咄嗟に地鎌シーターで受け止めた。避ける余裕がなかったということでもあるだろうが、地鎌と地鎌が火花を散らしながら擦れ合い。


「だすぅぅぅぅぅぅぅッッ!!」


 ササエちゃん、渾身の力で何とか斬撃を逸らした。

 すると……。


 ズワン、と。


 石畳の闘技場が二つに割れた。


「げえッ!?」

「これはッ!?」


 縦に長く伸びる一直線の溝。

 それはササエちゃんにいなされたヨネコさんの斬撃が、地を深く斬り裂いた跡だった。

 ここは移動都市ルドラステイツ。

 僕たちの足の下は、巨大なエーテリアル機構や建築機構が詰まっていた。

 すぐさまスピーカー越しの報告が入るが、幸い人的被害や、ルドラステイツの運行に支障が出る機器類の破損はないとのこと。

 しかし地下十五階まで斬撃が走ったという。


「あらいけねえ、久しぶりだったんで勢いが余っちまったよぉ。今度は気をつけて足だけ刈り取らないとね。よい鎌は雑草と作物、ちゃんと刈り分けるもんだからよぉ」

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