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199 第三戦

 現役勇者vs先代勇者一騎打ち全五戦。

 第一戦ミラク、第二戦シルティスと現役勇者チームが勝利し、早々二ポイントリード、というかリーチがかかった。


「あと一勝で勝利確定だす!」


 第三戦は地の勇者戦。

 ササエちゃんが勝てば、現役勇者チームの勝利だ。

 しかし……。


「第四試合のヒュエッちに期待ね」

「あれえ!?」


 第二試合を終えて退場するところのシルティスから期待の欠片もない言葉をかけられる。

 意気揚々と闘技場へ入場してきたササエちゃんもビックリだ。


「どういうことだす!? オラひょっとして負けると思われとるだす!?」

「だって話の盛り上がり的にも、このままストレート勝利なんてありえないし。ここは一敗してピンチの演出をですね……」

「なんでそこまでドラマティックに拘るだす!? いいじゃないだすか安全無事に三戦三勝で!」


 ササエちゃんの言うこともっともだと僕は思う。

 骨の髄までアイドル体質のシルティスはやることなすことスリルを求めすぎるのだ。


「でもさあ、結局のところ可能不可能の問題で……」

「だす?」

「勝てるの? アレに?」


 闘技場では既に泣きじゃくるサラサは片付けられて、次の選手が立っていた。

 先代勇者チームの、先代地の勇者。

 イエモン=ヨネコ。

 彼女こそ地母神と思わせる、ふくよかで熟れた肉体。しかしその豊満体から漏れだす殺気の禍々しさは、全勇者の中でも群を抜く。


「あんれまあ、気づいたらオラが最後の砦になっちまったよぉ」


 自身が負ければ先代勇者チームの敗北確定ということに、当然ヨネコさんも気付いている。


「でも、そういう時、地の勇者が何をすべきかササエちゃんもわかっているよねえ? なにせオラの後継者なんだからよぉ」

「当然だす! 勝ってる時も負けてる時も、地の勇者のやることは常に一つだす!」


 一、二、三、せーの。


「「みなごろし」だす!」

「こっわ! 何つうフレーズでハモッてんのコイツら!? ええい! こんな殺人鬼ばかりの闘技場にいられるか! アタシは自分の部屋で休ませてもらうわよ!」


 地の勇者に影響されたのか、シルティスまで不穏なことを言い残して退場していった。

 これで純粋に、闘技場には新旧地の勇者だけしかいなくなる。


 片や、勇者の中でも最年少のササエちゃん。

 体も育ち切っておらず、小柄で細い。その手に持つ地鎌シーターは大鎌の形をとった神具で、持ち主と得物の間にある大きさのアンバランスに、常に危うげな印象が付きまとう。


 対して先代地の勇者ヨネコさん。

 こちらは女としても戦闘者としても完成された体格で、まさしく『脂がのり切っている』という感じだ。しかも彼女が使う地鎌マグダラは、大きさそのものは普通の農具としての鎌より一回り大きい程度で、要するに体格に見合ったサイズということだ。持ち回しに隙がない。


 ササエちゃんとヨネコさん。

 ここまで新旧の間で完成度に差のある組み合わせはない。

 シルティスが、この戦いでの勝利を早々に諦めてしまったのも、わかるような気がした。


 闘技場の中央で睨み合う二人。

 試合開始の合図を待ちながら、殺気をぶつけ合う。


「まさか勇者を引退してからササエちゃんと殺りあう機会に巡り合うなんて思いもしなかったよぉ。面白い時代になったもんだねえ」

「時代は新しい局面に向けて動こうとしていると、皆が言っとるだす。その動きを止めないために不肖ゴンベエ=ササエ! ヨネコ姉ちゃんにも頑張ってお手向かいいたしますだす!!」


 身内相手だというのに、何と言う濃厚な殺気の渦!?


「それでこそオラさの孫たちさね」

「ヒィッ!?」


 気づいたら、いつの間にか僕のすぐ隣にかくしゃくとした老婆が立っていた。

 それは地の教主。これから戦おうとしている新旧勇者双方の祖母で、自身遥か昔の名だたる勇者だった。


「あんれまあ祖母ちゃん!?」

「祖母ちゃん、なんでこんなところにおるだす!?」


 二人の歳の離れた孫も、驚いてお婆さんに注目する。


「何、最近オラさも歳のせいか、目が霞むようになってきちまってね。あんな遠くからじゃあお前らさなぞ豆粒にしか見えんのさ」


 お婆さんは顎をしゃくって、観客席の一番奥にある貴賓席を指し示す。


「でも折角の孫同士での死合い。近くでハッキリクッキリ見たいと思ってね。祖母バカと笑ってくれてかまわんさ」


 いや、全然そんな気になれない言葉尻の不穏さが……!


「祖母ちゃん! そんなこと言ってうちの子の世話はどうしたんだよぉ!? 祖母ちゃんが見てくれるって言うからオラ、出場を承諾したんだよぉ!?」

「おたつくんでねえヨネコ。お前さの子供はちゃんとここさおる」


 お婆さんの腕の中には生後一年にも満たない赤ん坊。見るものすべてが珍しいと言わんばかりに忙しなく首や目を動かしまくる。


「お前さだって、母ちゃんのいくさを間近で見たいよなあ? 血の雨降らすお前さの母ちゃんは、そりゃあカッコいいでのう?」


 無論まだ言葉など理解できるはずもないひ孫に、猫なで声で語りかける曾祖母。


「祖母ちゃん……! ひ孫相手にはあそこまで甘くなるだす?」

「娘には鬼、孫には普通、ひ孫でやっと親バカになってくれたよぉ……!」


 いろいろ事情がありそうな家庭だった。

 それはともかく、いい加減試合を始めますよ!


 第三回戦、地の勇者戦。

 現役ゴンベエ=ササエvs先代イエモン=ヨネコ。


 試合開始!

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