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19 勇者二人、少女二人

「協力だと……!?」


 僕の提案に、ミラクは思い切り顔を顰めた。


「お前、昼間光と勇者と一緒にいたヤツだな? オレの言うことを聞いていなかったのか? オレ以外の勇者は全部敵だと!」

「それは違う。勇者の敵はモンスターだ」


 あまりにもきっぱり否定されたせいか、ミラクは一瞬鼻白んだ。

 それをチャンスと一気に畳みかける。


「モンスターの脅威から人間を守ること。それが勇者の最大の使命じゃないのか。それなのに同じ勇者同士がいがみ合って協力しないのは、不効率である以上に責務の怠慢だ」

「何だとッ!?」

「勇者様! ここは我々にお任せください!」


 と言って、対峙する僕とミラクの横から、やたら筋肉を誇示する格好の連中がワラワラ出てきた。


「業炎闘士団参上! 光の教団の狼藉者、我らのシマでこれ以上いい気にはさせんぞ!」


 恐らく光の教団における極光騎士団に相当する組織だろう。


「やだなあ、僕らは理性的な交渉をしに来たんだけど……」

「ふざけるな! 交渉を求めるヤツが、アポイントもなしに小型飛空機で突撃してくるか!」

「そういうテンションだったんだからしょうがない」

「しょうがなくないわ!!」


 彼らの言うことにも一理ある。


「仕方ないな、だったらアナタたちにケンカを売りに来たのは僕だけということで。彼女たちには話し合いをさせてやってくれませんか?」

「ハイネさん!?」


 カレンさんの心配そうな声を余所にして、僕は小型飛空機から飛び降りる。

「僕がアナタたちとやり合ってる間、ウチの勇者はアナタたちの勇者と会見を続けられるということで」

「我らを相手にたった一人でか!? 一瞬も掛けずに押し潰してやるぞ!」


 闘士さんたちの数はパッと見でも百人は下らない。ここが本拠地であることを考えれば、どんどん数は増えるだろう。


「『ヒート・ナックル』ッ!!」

「うわっと」


 おもむろに殴りかかってきた闘士さん。そのパンチを受け止めると、拳が凄く熱かった。


「あっつッ!?」


 驚いて突き放すが、やはり火の神力を込めたものだろう。勇者であるミラクの『フレイム・バースト』に比べれば断然弱いが、やはりその関係性は光の勇者カレンさんと極光騎士団に酷似する。

 そして同じような闘士たちが次々襲い掛かり、乱闘状態になった横で、カレンさんとミラク。二人の少女は向き合っていた。


「ミラクちゃん……」

「お前がこのような暴挙にでるとはな。では、私たちもやるか?」


 とファイティングポーズをとるミラク。

 その様子を、襲い掛かる筋肉を右に左に捌きながらハラハラ見守る僕だった。


「違うのミラクちゃん! 私は……!」

「違うものか! 奇襲同然に我が本拠に攻め込んでおいて。目的は決着をつけること、それ以外なかろう! いずれ勇者は、誰がもっとも優れているかハッキリさせなければならんのだ! 今夜をその第一幕にしてやる。光の勇者、お前がオレの最初の獲物だ!!」

「……たしかにハイネさんのやってることは滅茶苦茶で、私も全然ついてけない。でも、あの人が私に何をやらせようとしているのかはわかる」


 カレンさんは、その腰から聖剣サンジョルジュを鞘ごと取り外すと、床に置いた


「お前……!?」

「光の勇者コーリーン=カレンから改めて、火の勇者カタク=ミラクにお願い申し上げます。モンスターに対する戦いのための協力関係を結ばせてください。この世界全土に散らばる脅威から人々を守るために一緒に戦ってください」


 そう言って、深々と頭を下げるカレンさん。

 もしここに光の教団の上位関係者がいて、この光景を目の当たりにしたら我を忘れて怒り狂ったかもしれない。

 勇者という教団の代表者が頭を下げる。他の教団に対して。それだけで光の教団が他教団の下に付いたと受け取られかねないから。


「カレン。お前……!」


 ミラクもその意味を理解して、固まってしまっていた。


「それから、ごめんなさい。光の教団に入ってから私、ミラクちゃんにまったく会えなくて。今考えたら、お別れも言ってなかった。こんな私に怒ってるかもしれない。ミラクちゃんにはミラクちゃんの目標があって、今の私はそれに何の関係もないのかもしれない。でも私、またミラクちゃんと友だちになりたいの!!」


 いつの間にか、業炎闘士団の人たちも乱闘をやめ、二人の少女のやり取りに見入っていた。

 その中の一人で、僕と取っ組み合いの体勢のまま固まった闘士の人が言った。


「……おいキミ」

「何ですか?」

「このためにあの子をここに連れてきたのか?」

「そうなんですよ」

「いいヤツだなオイ」


 それほどでもないです。

 カレンさんは思いの丈を余すことなくミラクにぶつけられただろうか?

 それに対してミラクは……。


「……くだらん!」


 鼻筋に深い皺を刻みながら言った。


「何を言い出すかと思えば! オレは勇者だ。何も知らぬ子供だった頃とは違う! いつまでも仲良しごっこなどできるか!」


(えーッ!?)(ちょッ!)(勇者様それはない!)


 業炎闘士団の皆さんと混じって手に汗握りながら見守る僕。

 カレンさんもその返答に、激しく意気消沈している。


「……………………だが」

「えッ?」

「たしかにモンスターは多数いる。それをオレ一人が駆逐するのも面倒な話で、他に露払いがいてもよかろう。しかし、それでも……!」


 キッと鋭いミラクの眼光。


「昼間のような体たらくな戦いをしたお前では、露払いも任せられん。だから改めてお前の実力を確認させてもらう。オレが満足するだけの能力を示せば協力の話、受けてやってもいい!」


 おぉーーッ! と周囲から拍手喝采が上がった。


「フン、だがこんな申し出、勇者にとっては屈辱以外の何物でもない。嫌なら断ってもいいのだぞ?」

「やる! やります! やらせて!!」

「お、おぅ……!?」


 カレンさんの猛烈な食いつきぶりに、ミラクの方が逆に物怖じする。


「それで、何をやればいいの!? 業炎闘士団さん百人抜き?」

「「「「「やめて!!」」」」」


 当の闘士団が悲鳴を上げる。

 もはや場に一体のライブ感が生まれてきた。


「そんなことはしない。もっとうってつけの相手が、山にいる」

「山に……!?」


 僕と取っ組み合い体勢のまま固まっている闘士の一人が、あからさまに動揺しだした。


「え? 何? 何か知っているんですか?」

「……この火の教団本部から、徒歩にて丸一日ほどの距離にあるラドナ山地。つい一年ほど前まで自然豊かな景勝地であったのが、今では草一本生えぬ荒野と化している」

「それは何故?」

「あの地に凶悪なモンスターが住み着いたからだ。頑健にて豪壮。我ら火の教団も何度となく討伐を試みてきたが、一度も成功することがなかった。ゆえにヤツはまだ、そこにいる。山の支配者となって君臨しているのだ」


 そのモンスターの名を、闘士は苦々しさと共に吐き出す。


「炎牛ファラリス。牛型の超大型、火属性モンスターだ」

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