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196 第二戦

「……姉者、キョウカ姉者。ご無事ですか?」


 勝者となったミラクが、倒れたキョウカへ歩み寄る。

 キョウカも一時不明だったようだが、すぐに意識を取り戻してミラクの手を借り立ち上がった。


「……負けたか、今度こそ。見事だったぞミラク」


 結果に対してキョウカは潔かった。

 元々の性格が明快であることも一因だろう。


「しかし、『炎剣穿』か。拡散力が最高である火の神気を逆に集中させるとはな。よくあんな新技を思いついたものだ。まあ、あれがあったからこそオレ様の『フレイム・バースト』を突破できたわけだが……」

「我々がこれから戦うマザーモンスターは、いずれも規格外の巨大さ。人間一人の繰り出す拡散力などヤツらにとっては五十歩百歩です。ならば逆に一極集中し、巨熊を突き殺すハチの一刺しになった方がよいかと」

「なるほど……。今の貴様らの戦いは、オレ様たちの常識を遥かに逸脱したところへ来ているんだな」


 そこまで言って、キョウカの表情が俄かに曇った。


「……オレ様はまったく気づかなかった。貴様がオレ様のことを嫌っていたなんて」

「本当に申し訳ありません」

「オレ様はいつだって、貴様のためを思って行動してきたつもりだ。オレ様はそれだけ、貴様の直向きな努力を買っていた。……でも、そこに少しの優越感も混じっていなかったか? と問われたら自信をもって答えられない」

「人は誰しも、一種類の純粋な感情だけで動くことはできないのだと思います。オレはキョウカ姉者の強さを嫉み、僻んでいた。しかし同時に憧れていた。アナタを目標に強くなろうとした。でも前だけを向いて進もうとしていた頃のオレは、目の前以外すべて見えなくなっていた。顧みるべきものはたくさんあったのに」

「それを見えるようにしてくれたのが、アイツらだと言うのか?」


 観客席でミラクの勝利を喜ぶ仲間たち。

 検査を終えてきたカレンさんが一際大きく両手を振った。ミラクはそれに応えて高々と拳を掲げた。


「キョウカ姉者は慣れ合いだと言いましたが。オレはその馴れ合いによってさらなる強さを勝ち取りたいと思っています。どれだけ強くなろうと人間一人の力などたかが知れている。マザーモンスターはそれを痛感させる相手です。しかもそれ以上の存在が生まれようと言う……」

「いいさ、皆まで言うな。オレ様は負けたのだ。敗者は語る口をもたず!」


 キョウカの手が、ミラクの方にポンと置かれた。


「しっかりやれよ火の勇者」


 どうでもよいちなみにだが、観客席の貴賓室の方に目をやると、火の教主が男泣きに号泣していた。

 彼にとっては二人とも可愛い弟子だからなあ。


             *    *    *


 こうして新旧勇者一騎打ち全五戦の最初は、火の勇者ミラクの勝利で終わった。

 一ポイントリードというわけだ。

 敗れて退場しようとするキョウカに、辛辣な声が浴びせかけられる。


「情けないことですなあ。あんな泥臭い試合をかまして挙句負けてしまうなんて。やっぱり他教団の勇者なんて当てになりませんわ」


 罵倒に近い言葉。その声の主と擦れ違いざま、キョウカは静かに言う。


「だったら見せてもらおうか、水の勇者の華麗な戦いぶりとやらを」

「ハイもちろん。本物の勇者と偽物の勇者の違いを教えて差し上げましょう」


 第二試合は水の勇者戦。

 キョウカに代わって闘技場に立つ先代勇者はラ=サラサ。

 それに対するのはもちろん……。


「……前説ご苦労さん。アンタが勝ってくれたおかげで気持ちよく歌えるムードになったわ!」

「歌うのは当然、勝利の歌だろうな? もし違っていたらステージから引きずり下ろすぞ」


 頭上で勢いよくハイタッチし、ミラクと交代で闘技場に上がるのは、弾ける笑顔と輝く瞳で会場すべてを照らし出す水の勇者シルティスだ。


「おおぉーーーー! シルたぁぁーーん!!」「待ってましたァ!」「シルたん可愛いぃーーー!」「ほぁ! ほぁッ、ほぁッ、ほぁーーーーッ!」「シシシシ、シルたぁぁーーーーん!!」


 観客席から一際物凄い歓声が。

 勇者でありながら兼業でアイドルまでやっている彼女。多く御観客に見守られる中遂行されるこの試合は、むしろ彼女が日頃開いているライブと通じるところがある。

 この瞬間だけ、闘技場は彼女のワンマンライブ会場と化した。

 慣れた動作でシルティスは、クルリとターンしながら全方位に手を振る。

 一掃物凄い歓声が巻き起こる。

 会場が一体感で包まれる中、ただ一人、部外者にしかなりえない人物が顔をしかめる。


「……下品な声。よくまあいい大人があんな奇声張り上げられますわ。恥ずかしすぎますやろ」


 サラサが開いた扇子で顔を覆い、舌打ちした口の形を隠す。


「あら、オバサンの体力じゃ付いていくのが厳しいかしら? でも残念、シルバー仕様のライブはまだ検討されていないのよねえ」

「ほざきなさんな」


 サラサは声を厳しく言った。


「この際ハッキリと言うておきます。ウチはアンタさんを絶対に許しません。アンタさんは水の教団の恥さらしです。今日この場で、ウチがアンタさんを成敗してやるさかい、覚悟しぃや!!」


 憎悪。

 サラサからシルティスに向けられた感情は明確に敵意に満ちていた。

 一体何故それほどまで、彼女はシルティスを憎むのか?


「……まーた教団の格式とか伝統とか、そんな話? わけわかんないわよねえ。それだけの理由で、どうしてそこまで他人のことを悪しざまに言えるのか?」


 シルティスの体を撫で回すようにして纏われる水絹モーセ。

 その神具に、水の神気が宿る。


「もちろんアタシはアイドルであると同時に勇者。売られたケンカは買うわよ。特にアタシだけじゃなく、アタシの大事な友だちにまでミソつけるケンカはね。十倍返しにしてやるわ!!」


 第二回戦。

 現役水の勇者レ=シルティスvs先代水の勇者ラ=サラサ。

 試合開始。

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