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193 試合再開

 結局ミナは、それ以降固く口を閉ざし何も喋らなくなってしまった。

 アテスがここまでやって来たことに意味があるのは間違いない。

 ヤツは彼女にどんな魔法をかけたというんだ!?


「クソッ!」


 僕はすぐさまアテスを追いかけた。

 ヤツは医務室を出て行ったばかり。走れば追いつける。

 直接ヤツを締め上げて……、と医務室から廊下に出た瞬間……。


 亡霊に出会った。


「ひゃあああーーーーーッ!?」


 怖い! 超怖い!

 髪の毛ボサボサの女の霊と鉢合わせした!?

 何ここ心霊スポットだったのか!? 嫌だ呪われたくない!!


「……さっきの子は、大丈夫?」

「え?」


 霊からカレンさんを心配された。

 いや、違う。

 彼女はたしか先々代風の勇者ブラストール=ジュオ。その姿を見たのはさっきの闘技場が初めてだが、印象が強すぎるので見忘れない。


「……今、超音波検査機の準備をさせている。エーテリアルと風の神力を組み合わせて、超音波を患者の体内に流し、その反響で体の内部を調べることができる。それを使えば、あの子の骨や内臓が無事かどうかすぐわかる。……私が開発した」

「?????」


 また言ってることがよくわからない。

 ただ、やはりこの人は、カレンさんのことを心配しているのか?


「……あの爆弾、作ったのは私」

「ッ!?」


 いきなりの告白に、身構える僕。


「私が迂闊だった。あの女、エーテリアルを使った爆発物できるかって聞いてくるから。研究者の血が騒いだ。一応人は殺せない威力に抑えたけど。何に使うのか聞くベきだった」


 いやいや、それは聞きなさいよ!

 ドジッ娘なのかこの亡霊!?


「いや、待て……! あの女って、それはやっぱりサニーソル=アテス……!?」

「一応言っておくけど、証拠は出ない。爆発したら塵も残らぬように設計したから。私が作ってあの女に渡したという事実も、私の証言しかそれを示すものはない。シラを切られたら終わり」

「それは……」


 たしかにアテスのこれまでの手際を見て来たら、証拠を残すなんてヘマはしないと納得できるが。


「それに、私も謝らない」

「えッ?」


 亡霊――、もとい先々代風の勇者ブラストール=ジュオは、幾分の後ろめたさを含めつつも決然とした口調で言った。


「私も私で、今日の試合で譲れないものをもっている。だから久々にお外に出た。私は絶対シバ様に教主を辞めてもらう」


 先々代風の勇者である彼女と、風の教主であるトルドレイド=シバ。

 いや、それどころかシバは実質先代風の勇者でもある。

 やはり何かしら関係、もしくは因縁があるのか?

 言うことはすべて言い尽くしたのか、亡霊はクルリとターンして帰っていった。

 擦れ違う人たちを思い切りビビらせながら。


 しかし、そうか。戦いはまだ続くんだよな。

 さっきのチーム戦は九分九厘現役勇者側の勝利で決まろうとしていたが、それをミナの爆弾が吹き飛ばし、ウヤムヤにしてしまった。

 気絶で戦闘不能に追い込まれた先代勇者たちも、今会ったジュオと同様に今頃復活しているだろう。

 卑劣なやり方ではあっても、ヤツらはピンチを切り抜け、勝負を次へ繋げたのだ。


             *    *    *


 医務室へ戻ると、前にも増して重苦しい雰囲気に包まれていた。


「どうしたんだ皆?」


 あまりの重苦しさに聞かざるをえない。


「……あの光の騎士団長、もう帰ったけど、その前にとんでもないこと伝えていったの」


 ドッベのことか。

 アイツがロクなこと言わないのはいつものことだが、一体どうした?


「再開される試合。形式が変わるそうだ。さっきまでのチーム戦は、運の要素が絡みすぎて公平性が損なわれるとかなんたら」


 は?

 なんだその説得力皆無の理由付けは?

 だったら最初からランダムで初戦相手が決まる入場口システムとか設けるなよ。


「それで復旧作業が終わってから再開される試合形式は、一対一の個人戦形式なんだそうだす……!」

「一対一の戦いを計五回。先に三勝した方が勝ちなのだそうだ。対戦カードは、同属性の新旧勇者」


 つまりミラクはキョウカ、シルティスはサラサ、ササエちゃんはヨネコさん、ヒュエはジュオ。そしてカレンさんはアテスと戦う。

 …………。

 またなりふりかまわぬやり方で来たな。

 最初ヤツらは、完璧な勝ちを得ようと属性の相性から見て最高の対戦組み合わせをルールにかこつけて実現させた。

 しかしそれは現役勇者たちのチームワークによって覆され、逆に弱みに付け込まれる結果になった。


 それを反省したヤツらは最高の勝ち方に拘らず、より確実に勝つ方法を選択した、というわけか。

 まずチーム戦から個人戦にシフトすることで、現役勇者たち最大のアドバンテージであるチームワークを封じた。

 その上で、同属性同士の新旧勇者一騎打ち。

 属性の相性に頼らずとも、基本的な実力においては年長である先代勇者に分がある。それは、さっきのチーム戦でも証明された。


「本当はアイツら、個人戦でも属性相性がいい対戦カードにしたかったんだろうが、いくらなんでも露骨すぎるしな」

「基本能力の差で押し切る作戦に出た、というわけか。だが……!」

「汚すぎよ!!」


 シルティスが我慢できずに叫び出した。


「さっきのチーム戦自体、ほとんどアタシたちの勝ちで終わりかけてたのに。一からやり直す自体、メチャクチャな話よ! 抗議しましょう! 教主たちを巻き込んで! それから……!」


 正しい、彼女の言うことは。


「観客も味方に付けましょう! この戦いを見に来た人たちだって、ことのおかしさには気づいているはずよ! いきなり爆発があって、それでほぼ決まってた勝負が仕切り直しなんてありえない! そう思っているはずよ! その意思をまとめて向こうに叩きつけてやれば……!!」

「ダメ」


 ベッドの上から力ない声がした。

 カレンさんだ。

 意識が戻ったのか!?


「カレンさん……!」「カレン!!」「カレンッち!」「カレン姉ちゃん!」「カレン殿……!」


 全員でベッドを取り囲む。その様子にカレンさんは嬉しそうに目を細めた。

 カレンさんは、シルティスの水治療のおかげで火傷は跡形もなく消え、見た目的には全快しているように見える。

 しかし爆破の衝撃は体の内側にダメージを与えているかわからず、しっかり検査しなければ楽観できない状態だった。


「このまま行きましょう。個人戦を受けて立つの」

「でも! アンタだってそんな状態じゃ戦闘は無理でしょう!? アイツら絶対アンタの分は不戦敗で片付けるわよ! そしたらアタシたちは実質一回しか負けが許されない……!」

「私の分で迷惑かけるのは、ごめんなさい……! でもね、この戦い、向こうに気の済むまで卑怯なことをさせて、それで勝たないとダメ」


 怪我に弱った声でも、強い意志を込めてカレンさんは言った。


「ヨリシロ様が言っていたでしょう。この戦いの本当の目的は、教団和解を阻もうとする反対派を一人残らず白日の下に引きずり出すこと。この戦いで卑怯な手段をとればとるほど、ヨリシロ様たちが後日相手を糾弾する材料が増える」

「それは、そうかもだけど……!」

「ヨリシロ様も、それがわかっているから、さっきから相手がやりたい放題しているのに口を噤んでいる。ドッベ騎士団長を運営委員に据えたのも、長い目で見ればあの人たちに仕掛けた罠……!」


 たしかにヨリシロならばそれぐらいやりそうだ。

 新旧勇者戦は、今日一日で終わる戦いじゃない。もっと長い時間をかけて行う政闘の、ほんの一部。

 正しいのは現役勇者と、それを支持する教主たちであり、それに横槍を入れて先代勇者たちを担ぎ上げてきた勢力こそが悪。

 それを今日の観客越しに、民衆へ訴えかけるだけでも相当な戦略的優位になる。

 観客たちが感じる怒りは、今日この勝負ではなく、その後ろにいる政敵たちを一人残らず焼き尽くすためにぶつけろと。

 でも……!


「でも、それにカレンさんたちが付き合う必要は……!」

「いいえ、あります。すべてはマザーモンスターや魔王に対抗できる人間たちの体制づくりのために。それは急務なんです。私たちは……!」


 光の勇者カレンは言う。


「強い。それをすべての人に知らせたいんです。今日訪れた観客の人たちにも、それ以外の世界中の人々にも、先代の人たちにも。どんなモンスターが現れたって負けないぐらい強いって。だから、反対派の人たちに卑怯なことを全部やり尽させて、それでも私たちは勝てるってことを、示すんです……!!」


 傷ついたカレンさんの瞳に、熱い光が宿っていた。

 それを見て誰も何も言えなくなった。


「わかった、オレはいつでもカレンの言うがままだ」

「権謀術策に乗ってやりますか」

「どつき合いのない陰謀は弱虫のすることだと祖母ちゃんが言ってただす!」

「ジュオとの決着もあるしな」


 カレンさんの意気が、他の勇者たちのも伝播する。だから彼女たちは強いんだ。


 こうして戦いの第二局面が始まった。

 現役勇者vs先代勇者による一騎打ち全五戦。


 第一試合は、火の勇者。

 現役カタク=ミラクvs先代アビ=キョウカ。

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