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192 暗躍する光

まあ、現在カレンさんたち防戦のターンで重苦しい展開なのですが、『世直し暗黒神』をお読みの皆様にご報告があります。

このたび本作の書籍化が決定いたしました。

発売予定日その他の詳しい情報は、作者のTwitter、あるいは活動報告をご覧ください。


Twitter https://twitter.com/rokuyonokazawa

活動報告 http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/187484/blogkey/1557131/

 場所は、闘技場から同会場内の医務室へと移る。

 カレンさんは、爆発で負った火傷は治癒できたものの、それでも絶対安静でベッドに横たわっていた。

 彼女を治療してくれたシルティスが言う。


「アタシの能力で治せるのは、体の表面にできた傷が精々なの。でも爆発ともなれば爆風の衝撃なんかで内臓にもそれなりのダメージがいってるはず。それはもう本職のお医者さんに任せるしか……」


 自分の能力の限界を責めるかのようなシルティスの方に、ミラクの手がポンと置かれる。


「ミラクッち……」

「ありがとう。よくやった」

「うん……」


 二人がカレンさんと共に潜った修羅場はとりわけ多い。心配も一際だろう。

 一方、心配が悲しみばかりでなく、怒りに転化する人々もいる。


「さあ吐け! 洗いざらい吐け! 忘れていることがあったら脳ミソをしゃもじで掻き混ぜて記憶を掘り起こしてやるぞ!」

「生爪だすか? 生爪剥ぐだすか!?」


 ヒュエとササエちゃんが、例の審判女を引き続き尋問していた。

 彼女は、カレンさんを傷つけた憎むべき相手だが、一緒にここまで連れてきたのには色々理由がある。

 しかし今は二人を宥めた方がいい。


「それくらいにしておけよ。この娘からはもう聞きたいことはあらかた聞き終えたんだ」


 彼女の名はプレチナ=ミナ。

 光の教団に所属する信徒で、普段は小間働きとして大聖堂の清掃やお茶汲みなどをしていたらしい。

 しかし彼女は、本当はもっと別にしたいことがあって光の教団に入った。

 極光騎士団の光騎士となって、モンスターと戦い活躍する。

 そんな自分を夢見て入信したのに、試験で弾かれアッサリと夢は破れた。

 僕としても今となっては懐かしい、属性盤で入信希望者の属性を計る、あの試験だ。

 属性盤でもっとも適性ある属性が光と判断されれば合格で、極光騎士団入り。

 それ以外はすべて不合格。料理番見習いや清掃係など雑役に回される。彼女もそんな一人だった。

 望まぬメイド仕事の毎日にウンザリしていた彼女へ、悪魔が囁いてきた。


「命令に従えば……! 極光騎士団に配置換えしてやるって……! あのバカみたいな入団試験を設定したのは今の教主だから、それが失脚すればもっと適正な入団試験が考えられるって……!」


 ミナは、既に話したことを繰り返し語りつつ、泣いた。

 彼女を裏で操っていた者たちからしてみれば、彼女は安全装置。

 ヤツらは先代勇者チームの勝利を望んでいた。もし望まない結果に辿りつきそうになったら、それを物理的に吹き飛ばそうと。


「エーテリアルの兵器利用は五大教団連名で禁止されている。だからエーテリアル爆弾も本来ありうるものではない」


 ヒュエが解説してくれる。


「しかしエーテリアル動力系を弄れば、爆弾化することは比較的可能なんだ。当然そのためには一定以上の知識と材料が必要で、しかも要求される技術レベルはとても高い。一般的なプロ技師レベルでも爆破タイミングを完全に制御できて、威力を調節したエーテリアル爆弾を作成するなど絶対に不可能だ」


 ただ……、とヒュエはそこで一度言葉を濁した。


「それができるヤツに一人心当たりがある」

「そんなことはどうでもいい」


 僕はキッパリと言った。


「問題は、実行犯じゃなく指示者だ。誰が彼女に爆弾を持たせ、現役勇者チームが勝とうとしたタイミングで爆発させろと命じたかだ」

「…………」


 ミナは、何かを恐れるような表情で目を伏せた。


「いいか、キミが持たされた爆弾は、起爆装置だろうピンが抜かれるとすぐ爆発した。普通だったら起爆者の安全のため最低十秒はタイムラグがあるはずなのに、それすらなかった。キミはそれをどう思う?」


 ミナは答えない。だから僕が答え合わせをしてやった。


「キミは口封じされるところだったんだ。ヤツらにとっては、キミの口からキミが誰に命じられたかを喋られると非常に都合が悪いんだ。だからあの爆発にキミも巻き込んで一緒に殺すか、喋れない状態にするつもりだった」

「あの爆弾を渡された時、爆発までに十秒かかるって言われた。ピンを抜いてから思い切り投げれば安全だって……!」


 そう呟きながら、ミナは再び涙をポロポロこぼした。

 完全に捨て駒だったわけだ。理想と不満の間にできた心の隙につけ入られ、操り人形に仕立てられた。

 しかし彼女には同情できない。それより前にするべきことがある。


「さあ、答えろ。キミに爆弾を渡したのは……、それを先代勇者敗北の寸前で爆発させろと命じたのは誰だ?」

「先代光の勇者、サニーソル=アテス様……!」


 彼女は淀みなく答えた。

 既に「裏切られた」「利用された」という思いしか残っていないのだろう。


「だすだすだす……ッ!?」


 ササエちゃんは、その名前に動揺を隠しきれなかったが、ヒュエは静かだった。予想していた名前だったのだろう。


「しかしマジであろうか……!? あの女が策士であるのは伝え聞いているが、本人がこうも簡単に影を見せるとは……!」

「『上手くやり遂げれば極光騎士団に入れてやる』。その約束を信じ込ませるためにも説得力は必要だ。先代勇者の肩書きはその役目を果たすだろう」


 そうなるとやはり、一番最初に入場口を細工して、現役勇者たちが相性最悪の組み合わせで戦うように仕向けたのもあの女の仕業と考えていい。

 それもヤツ一人の犯行ではないな。

 あの会場に流れてきたアナウンス……! あの声は……!


「ここにいたか」


 ドアを開け、ズカズカと入り込んでくる一人の男。

 極光騎士団団長ベーゼルフォン=ドッベ。


「貴様……!」

「容疑者を勝手に連れて行っては困るな」


 ドッベの視線が、怯えるミナの方へ向く。


「その女には、爆破実行犯として事情を聞かなければならん。試合運営委員としてな」

「お前が運営をしているなんて聞いてないぞ?」


 真っ向から睨み合う僕とドッベ。


「何故お前に報告する必要がある? 有能な人間にはそれに相応しい役割があるということだ。私はそれを全力で遂行する。ゆえに、その女を引き渡せ」

「口封じする気か?」


 その言葉にビクリとミナは反応し、僕の体にしがみついた。

 絶対に行きたくないと目で訴えていた。


「……彼女は、僕が直接教主のところへ連れて行こう。この試合は五大教団の合意で行われたもの。他の教主にも説明しなければならないし、当人たちの前でコイツに歌わせれば手間は省けるだろう?」

「運営委員たる私の仕事だ」

「その仕事を省いてやると言っているんだ」


 一歩も引かない僕たち二人。

 この男と光の先代勇者アテスが裏で繋がっているのは確信に近い疑惑だ。

 そうでなければ、アテス一人で最初の入場口の組み合わせを弄ることなんて絶対にできない。

 光の教主ヨリシロと敵対し、現政権を打倒したいという点で二人の利害は一致する。


「いいではないですか」


 さらに医務室の出入り口に人影が。


「サニーソル=アテス!?」


 今一番問題の腹黒勇者ではないか!


「カレンさんのことが心配でお見舞いに来ました。一応可愛い後輩ですから」

「何をぬけぬけと……!」


 皆に命じて爆弾を持たせたのはお前だろうに!

 それが明るみに出たら、試合の結果など関係なくヤツは破滅。

 本来は爆発でミナの口も封じるつもりが、カレンさんの咄嗟の行動で彼女は助かり、あまつさえ身柄をこちらに確保されてしまった。

 それで慌ててやって来たというところか。


「思えば、試合中アッサリ負けを認めて闘技場から出て行ったのも、爆発に巻き込まれないようにするためか?」

「さあ、何のことかわかりませんね。……それより」


 アテスの視線がミナの方を向いた。

 二歩、三歩と歩み寄る。


「止まれ、それ以上近づくな」

「ではここから、ミナさん」


 ビクリと肩を震わせて、アテスを見上げるミナ。

 ヤツの唇が音を立てず、たしかな形を作って動いた。


「…………ッ!!」


 それを見て、ミナの顔が蒼白になり、全身が細かく震えた。


「私……!! 何も知りません!」

「え?」

「誰からも命じられていません! 私が勝手にやったんです! 私のしたことに誰も関係ありません!! 私……! 私は……!!」


 いきなり何を言い出すんだ。

 突然狂乱したようにこれまでの証言を覆したミナ。

 アテスはそれを満足そうに見届けて、医務室から去って行った。

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