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190 爆発

「崩れ始めると一気でしたわね」

「ああ」


 目下の闘技場。四人の先代勇者たちが無様に横たわっているのを見届ける。

 勝敗はほぼ決したと言っていい。

 先代勇者の内、四人は戦闘不能状態。残るはカレンさんとの一騎打ちで均衡状態に陥っているアテスだけだ。


「しかしここまでアッサリ決まってしまうとは……。経験値の差が出たな」

「経験値、ですか?」


 ヨリシロが不思議そうな顔をする。


「それは、逆ではないのですか。積み重ねた経験の量で言えば、年長者であるアテスさんたちの方が圧倒的に上でしょう?」

「経験は量より質だぜヨリシロ」


 カレンさんたちがこれまで何度「こりゃムチャでしょ」と言う相手と戦ってきたか。

 炎牛ファラリス、大海竜ヒュドラサーペント、グランマウッド、ベルゼ・ブルズ。そして魔王ラファエル。

 いずれも超弩級で、普通なら人間が束になっても敵わない相手だった。

 そんな相手に泣きながら、ボロボロになりながら勝利してきたカレンさんたちなのである。

 味わってきたピンチの無慈悲さが違う。

 そんなピンチを乗り越えてきた彼女たちだからこそ、ちょっとやそっとのピンチでは崩れない粘り強さを身に着けたのだ。


「なるほど、試合開始から完全に弱点を攻められながらも、彼女たちは長いことよく耐え凌ぎましたものね」

「崖っぷちで爪先立ちになりながらな」


 対して先代勇者どもは、勇者として勤めた時間は長くても、その間戦ってきたのはマザーモンスターが生み出した量産型ばかり。

 ピンチらしいピンチも経験しないまま勇者を勤め上げたのではないだろうか?


「だからこそ彼女らは、一度追い込まれたら弱かった。ギリギリで耐え凌ぐ術を知らず、一気に打ち崩されたんだ。まさに経験の差が出た」

「一の極上の経験は、百の凡庸な経験に勝る、ということですか。男性経験と同じですわね。わたくしもハイネさん以外との経験はいりませんわ」


 そういうことじゃなく。

 とにかくこれでもう戦いは決した。

 カレンさんたち現役勇者チームの勝利だ。


             *    *    *


「さあ、どうしますアテスさん?」


 闘技場でただ一人、まだ両の足で立っている先代勇者アテスに尋ねる。


「残った先代勇者はアナタだけです。先ほどアナタ自身が言ったように、敵側全員から袋叩きの目にあいますか?」


 既にミラクたちもその場へ駆けつけ、五人全員でアテスを取り囲んでいる。

 そんな相手を見渡して……。


「……ふぅ」


 アテスは槍のかまえを解いた。


「冗談ではない。一人で五人と戦うなんて疲れることはしたくありません。私は、勝てない戦いは嫌いです」

「んなッ……!?」


 その宣言に、現役勇者全員、肩透かしを食らったような表情に。


「勝ちが欲しいというなら、アナタたちに差し上げましょう。この場はね」


 そう言い残してアテスは、自分が出てきた入場口に入り直し、闘技場から去ってしまった。


「ど、どういうことだす……?」

「わからん、わからんが、先代光の勇者は敵前逃亡、残りの先代は全員ダウン。つまりこれは…………?」

「拙者たちの勝利だ!!」


 同時に、客席から割れんばかりの歓声が巻き起こった。

 これこそ勝負の結果を何より告げるものだった。

 一時はどうなることかと思ったが、やはり彼女たちは自分たちの力で自分の権利を勝ち取ったのだ。


「さあ審判! 試合は終わりよ! アタシたちの勝ちを宣言しなさいよ!」


 審判?

 そう言えば闘技場には、計十人の新旧勇者の他にもう一人、十一人目の人物がいた。

 最初に登場した司会の女の子じゃないか。

 つーか、この試合レフリーなんていたのか。何を審判していたの?


「最初に受けた説明通り、選手の戦闘不能を判断するのはアンタの役目なんでしょう? そこで倒れているオバサンたちの戦闘不能をさっさと宣言なさい!」


 なるほど。

 闘技場に倒れるキョウカ、サラサ、ヨネコさん、ジュオは、観客席にいる僕たちから見ても完全に気絶しているのがわかって戦闘不能状態は明らかだ。

 しかし戦闘不能判定なんて、いつまでたっても上がらない。


 やがて、変化が起きた。

 審判らしい女性が懐から何かを取り出した。


「!?」


 僕のいる観客席からでは遠くてわかりづらいが……、エーテリアル機器か。

 片手で持てて懐に隠しておける程度の大きさ。

 彼女は右手でその機器を持ち、左手でその先端にあるピンのようなものに指先を引っかけて……。


「危ないッ!!」


 真っ先に駆け出したのはカレンさんだった。


「爆弾よ!!」

「ええッ!?」「はあッ!?」「だすッ!?」「なッ……!?」


 他の四人は咄嗟のことで判断が遅れる。

 審判の女性は、震える指でなかなかピンを抜けずにいたが、それでもカレンさんが飛びかかる寸前、抜いてしまった。

 カレンさんが彼女に飛びついて、その衝撃で爆弾が手から離れるのは同時だった。

 女性を庇うように、カレンさんは全身で彼女のことを抱き包む。

 そして爆発。


 ドゴゴォォーーーーーーーーーーーーーーーンッッ!!

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