18 幼き日の決別
「あの頃のミラクちゃんは、私とは正反対に元気でわんぱくで、周りからは男の子みたいに見られてました」
今とあまり変わらないということか。
とにかく家も隣、歳や性別も同じだった二人はすぐに打ち解け、一緒に遊ぶようになった。
「ミラクちゃんは病弱な私に合わせて、よく気を使ってくれました。まるで私のことを守ってくれるナイトみたいに。私もそれに甘えて。いつも一緒で。本当に大好きな友だちでした」
転機が訪れた。
それはカレンさんを診察していた医者が、その過程で彼女のズバ抜けた光属性への適性を見抜いたことから始まる。
医者は治療を兼ね、光の神力制御の修行を勧める。カレンさんも勧められるままにそれを始めた。
それまで彼女を蝕むだけだった過剰な属性の偏りは、才能へと転化した。
見る見るうちに光の神力を使いこなし、制御された神力は彼女を蝕むこともなくなって健康体になった。
彼女の才能は光の教団の目に留まり、鳴り物入りで極光騎士団へ。そのまま光の勇者へと昇り詰めるまで、ほとんど躓きはなかったという。
そしてそれまでの間、隣に住む友だちとはまったく疎遠となっていた。
「ミラクちゃんのことを忘れてたわけじゃないんです。でも修行の毎日で会える余裕もなくて……。いいえ、違うわ。私、光の神力制御の修行を楽しんでた。楽しくて、ミラクちゃんのこと二の次にしてた。だから……!」
数年ぶりに再会した時、カタク=ミラクもまた勇者になっていた。そしてカレンさんの友だちではなくなっていた。
カレンさんはミラクからはっきり言われたという。「お前など友だちではない。敵だ」と。
光の勇者と火の勇者。
それぞれの教団の代表としてメンツを競い合うまさに敵。
再会から今日まで、何かの拍子に顔を合わせることは何度かあったがミラクの態度が和らぐことは一度としてなかったという。
それがカレンさんの心を幾度もズタズタにしてきたのだ。
「……私が悪いんです。私の方から先にミラクちゃんを放ったらかしにしたんだから。だからどれだけ嫌われても私のせいなんです。ミラクちゃんは悪くない……!」
気丈でいようとしているが、カレンさんの流した涙で僕のシャツが半分ぐらいびしょ濡れになっている。
もしこの現場に誰かしら入ってきて、ガン泣きしている勇者を目撃されたら、明日には大聖堂中に広まって僕は血祭であろう。
「本当にダメな勇者ですね私。今日、何回ハイネさんにお礼を言えばいいんでしょう?」
泣くだけ泣いて、言いたいことだけ言い尽したカレンさんは、いつもの溌剌さを取り戻しつつあった。
それでもまだ鼻声は抜けきらない。
「こんな時に言うのも何ですけど、僕今日とても嬉しいことがあったんです」
「え?」
「エーテリアル機械というものを知って、人は長い時間をかけて、ちゃんと発展しているということを確信できた。やっぱり人間は凄い、人間は強い! どんなに辛く厳しい中にいても、それを乗り越えることができる!」
だから……。
「カレンさんも乗り越えることができる! 今からでも! 行きましょう!」
僕は整備を終えたばかりの小型飛空機にまたがる。動かし方は、昼間カレンさんがやってたのを見て大体覚えた。
「カレンさんも後ろに乗って!」
「え? え? 乗ってどこに行くんです!? っていうか運転できるのハイネさん……!?」
「会議の時、教主様が言ってましたよね。火の教団本部のある街が――割と近いって」
「へ? ええぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
カレンさんを背に乗せて、小型飛空艇は夜空を駆けあがった。
「うそぉーーーッ!? 本当に運転できてるぅーーーッ!? しかも夜間飛行ぉーーーッ!?」
* * *
小一時間ほどかけて、目的地に到着した。
火都ムスッペルハイムにある、火の教団本部。火の大本殿。
その建物が、ドォン、と揺れた。
「何だッ!? 今の衝撃は!?」「敵襲! 敵襲ぅー!!」「敵襲!? モンスターでも襲撃してきたって言うのか!?」「イヤ、違う! あれは人間だ!!」「何ッ!?」「光の教団のヤツらが攻め込んできたァーーーッ!!」
火の教団の人たちは大混乱。
そして僕は、火の教団本部の敷地内で適当に暴れていると、目標の人が向こうから現れた。
「何事だこれは!? 業炎闘士団、何を狼狽えている!?」
火の勇者カタク=ミラク。
僕らの姿を発見して、目の色を変える。
「お前らっ……!? な、何の用だ? 昼間の意趣返しにでも現れたか!?」
「火の勇者カタク=ミラク。アナタに提案があって来た」
小型飛空機で超低空ホバリングしながら、僕は言う。
ちなみにカレンさんは僕の腰にしがみついたまま固まっている。
「提案……だと……!?」
「火の勇者と光の勇者で、正式な協力関係を結びたい。二人で力を合わせてモンスターと戦うんだ」




