188 ダイヤル
カレンさんは聖剣を輝かせる。
「くッ! はッ!」
何とかしてアテスのディフェンスを突破し、仲間を助けるために駆けつけようと必死だ。
しかし、どれだけ聖剣サンジョルジュを光の神気で輝かせようと、アテスの鉄壁を揺るがせない。
「無様ですねカレンさん。そんなに聖剣をピカピカ光らせて下品極まりないですよ。そうまでして敵である他教団勇者たちを助けたいのですか?」
「敵じゃありません! 皆は一緒にピンチを乗り越えてきた仲間です!!」
もう一度激しく聖剣サンジョルジュを光らせる。
しかしその剣撃は、アテスの槍先に容易くいなされてしまう。
さらに聖剣を光らせる。
「しつこいですねッ!」
一方、他の四人もいよいよ崖っぷちに追い詰められていた。
「うがッ!?」「ひゃあッ!?」「くうッ!?」「だすッ!?」
いつの間にかミラク、シルティス、ヒュエ、ササエちゃんの四人は、闘技場中央に追い詰められて一塊になっていた。
それを包囲する先代勇者たち。
ちょうど内側の四人と、外側の四人で◎を描くかのような配置だ。
つまり現役勇者たちは、先代勇者たちに取り囲まれて逃げ場はない。
「ここまでだな。一方的過ぎて呆れかえるわ」
「ほんに、後輩たちがこんなに弱かったなんて拍子抜けですわ」
「こんなもんならオラが出てくる必要もなかったよお」
「……ヒヒヒ」
何を言う。属性の相性にかこつけて一方的に攻めておきながら。
「わかったかミラク! これが協力などと甘えきった貴様らの末路だ。他人に頼り切るばかりで自分を鍛えてこなかったツケを、今払わされるのだ!」
「姉者……!」
一方的に妹弟子を糾弾する姉弟子。
「勇者に必要なのは強さ。たった一人でもモンスター数百匹を蹴散らす強さが必要なんです。アイドル遊びにかまけるアンタさんは、その発想すらなかったうようですが」
「サラサ……!」
水の新旧勇者も、混じり合う視線は険悪。
包囲網はじわじわ狭まっている。
「ヒヨッ子のアンタたちに教えてやるよぉ。勇者が持つべき強さの意味を。他人に頼ってちゃ絶対手に入らない強さがあるんだよ」
「ヒヒヒヒ……」
ミラクたち現役勇者チームは、互いの背中を合わせて、全方位から迫ってくる先代勇者たちに向かい合っている。
その陣形は上から見れば、まるで◎。
内の輪が現役勇者。外の輪が先代勇者。
「……お説教どうも」
シルティスが言った。
「でもバカのお説教ほど聞いてて虚しいものはないわね」
「なんですって……!?」
不敵な物言いに、包囲の輪を狭めるサラサの足が止まる。
「まったく同意だシルティス。自分たちがどこに立っているかすらわからぬまま他人に高説を垂れる者は、バカとしか言いようがない」
「ミラク貴様……!?」
キョウカも、妹弟子からの鋭い痛罵に足を止める。
「歯に衣着せぬとはこのことですな。拙者はお二人ほど口巧者ではないので黙っておきます」
「オラもパスだすー」
四人は諦めていない。
絶対不利な状況に追い込まれても……。
……いや待て、この状況、言うほど不利か?
「いい? オバサンたち、アンタたちがこれまで好き勝手やってこれたのは、神気の相性がこれ以上なくいい感じにハマってたからよ。アンタらにとってね」
「オレたち個々に戦う限り、その不利を覆せなかった。しかし今は違う」
「こうして我ら四人、合流できたのだからな」
「だす!」
そうだ、四人が個々に分散されてこそ、相性の悪い相手に封殺されていた。
でも中央に追い立てられ、四人一塊になった今、もはや相性の悪い相手と無理やり戦い続けなくていいではないか。
「まだ気づけていないの? 普通だったらアタシたちが一塊になった時点でアンタたちのターンは終わったって気づきそうなものなのに。有利に舞い上がって布陣すら見えていないようじゃ言われる以上の脳筋ね!」
「凌ぐのは終わり。そしてここから――、反撃開始だ!」
グルン!
現役勇者四人の作る輪が、百八十度回転した。
◎の内の輪が、半回転。
その時僕の脳内で、金庫に付けられているダイヤルが二目盛り分回り、そしてカチリと開く錯覚が起きた。
先代勇者と現役勇者、その二つの陣営で描かれた◎。
その内側の輪が二目盛り回転することで、それぞれの対戦相手が別々に入れ替わったのだ。
ミラクの相手は先々代風の勇者ジュオ。
シルティスの相手は先代火の勇者キョウカ。
ササエちゃんの相手は先代水の勇者サラサ。
ヒュエの相手は先代地の勇者ヨネコさん。
たった半回転させただけで、相性の良し悪しが綺麗に逆転した!
「まずい! しまっ……!?」
「もう遅い!!」
一斉に新たな相手へ襲い掛かる現役勇者たち。
完全な形勢逆転だった。
「クソッ! 双炎拳による『フレイム・バースト』!」
「足りない足りない! アタシの『大水波』を破りたかったら腕十本ぐらいに増やしてきなさい!」
シルティスvs先代火の勇者キョウカ。
水絹モーセから起こした大波が、炎の渦ごとキョウカを飲み込む。
さらに別の戦場では……。
「小癪な……! 水扇ダヒュの『水斬刃』で……!」
「祖母ちゃんとヨリシロ様、二人がまったく同じこと言ってただす。……『やる時は徹底的にやれ』」
ササエちゃんvs先代水の勇者サラサ。
振り下ろされる地鎌シーターが高水圧カッターを容易く打ち砕き、サラサに迫る。
「ひいぃぃぃぃぃぃッッ!?」
他も似たような流れだ。
その鮮やかな逆転劇を、離れたところから目撃することとなったもう一組。
カレンさんとアテス。
「あのバカども……! 戦いが始まったら孤立させたまま勝負を決めてしまえと、あれほど言い含めておいたのに……!!」
「やはり、アナタたちが前もって何か細工していたんですね」
冷静にカレンさんがアテスに詰め寄る。
「さあ、何のことかわかりませんね。アイツらがチャンスを活かしきれない無能クズだったということです」
「果たしてそうでしょうか? ミラクちゃんたちは偶然、闘技場の中央に集合できたと? 先代の皆さんが気づけないほど巧妙に、追い込まれるふりをしながら誘導していたとしたら?」
ただ中央に集まるだけなら何も難しいことはない。
しかしミラクたちは、輪になった自分たちの配置を綺麗に半回転させるだけで、相性の強弱を綺麗に逆転させた。
そんなことは計算して集まり、相手を誘導させなければ不可能なはずだ。
「バカな。そんなことをするには各人が密に意思疎通し、さらに状況を外から俯瞰して指示を送る者が必要不可欠……、はッ!?」
何かに気付いた素振りのアテス。
「カレンさん……! まさかさっきから聖剣サンジョルジュをやたらピカピカ光らせていたのは……!?」
「あらかじめ皆で取り決めておいたんです。分断されても速やかに連携が取れるように、光信号を」
つまりミラクたちは、カレンさんが聖剣から出した光の指示で、追い込まれる芝居をしつつ、巧妙に集合できたというわけか。
「これがチームワークです。アナタたちが散々嘲笑ってきた。アナタたちは自分の見下すものに敗れるんです!」




