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185 試合開始

 とにかく先代勇者たちの仲の悪さばかりが浮き彫りになった試合前だ。

 彼女らは我が強すぎ、互いを認め合わずに同室にいることすらできない。

 だからこそ仲のいい現役勇者たちを許せず、叩き潰そうとする。

 その結果引き起こされたのが、今日の現役勇者vs先代勇者の決闘だ。

 試合開始を目前として、戦いの会場となる闘技場には、既に数千人にも及ぶ観客で満席となっていた。


「まさかこんな大観衆の前で戦うとは……!」


 教主たちが観戦するための貴賓席に、僕も混じって入室。

 その人の多さにただただ驚く。


「衆人環視の中で白黒つけなければ動かぬ証拠にはなりませんから。反対派の人たちも、それには賛同してくださいましたわ」


 と微笑むヨリシロ。

 負ければ教主辞任だというのに、絶対負けない自信の表れだろうか?


 しかし大盛況の理由は新旧勇者の激突という話題性ばかりではない。

 この闘技場のある場所も一因だろう。


 ここは風都ルドラステイツ。


 長年謎に包まれた風の都市が、初めて一般の人々にも門を開いたのだ。

 観客席に詰めかけるのは、地水火風光すべての都市から駆け付けた、物見高い人々だ。


「風の教主様には、闘場の提供とてもかたじけなく思いますわ」


 ヨリシロが、並んで座る風の教主シバに目配せする。


「秘密主義路線を変更した風の教団としては、これから広く情報公開を行い、今まで溜めこんできたエーテリアル先端技術でライセンス料などをガッポガッポと荒稼ぎしたいところですものね。今日の一戦を宣伝第一弾とされるおつもりですか?」

「これが俺の教主としての最後の仕事にならねばよいがな」


 ヨリシロが入れてくる探りを、皮肉で華麗にスルーするシバ。

 そうした経済的な旨味は、新旧勇者たちの決闘の外でも和解反対派を牽制する重大な一刺しとなっているはずだ。

 いたるところで権謀術策が錯綜している。


 いよいよ戦いが始まるようだ。

 闘技場の中心に、司会役らしい若い女性が登場する。


「皆様ようこそお集まり下しました!! 今ここに、歴史的一戦が始まろうとしています!! 五大教団の勇者、その現役と先代の方々が、敵味方に分かれて真っ向から激突するのです!!」


 司会者は、この戦いが行われるまでの経緯――、五大教団における和解推進派と反対派の対立、それを代表した新旧勇者の決闘を赤裸々に語り聞かせた。


「現役勇者が勝てば新しい時代が到来し、先代勇者が勝てば今までの時代が維持される……! まさに歴史の分かれ目です! 皆様、今日行われる戦いを見届け、歴史の証人となってください!!」


 オオォーッ!! と返される歓声。

 なんだか終始お祭りムードに思えるのは気のせいか?


「それでは戦いを始める前に特別ゲストに場を盛り上げてもらいましょう!」


 特別ゲスト?


「かつては火都ムスッペルハイムを脅かせし巨強の悪魔、しかし今では皆から愛されるマスコット!! 炎牛ファラリスが特別に、ここ風都ルドラステイツまで遊びに来てくれましたーッ!!」


 なんか見覚えのあるウシが闘技場に駆け込んできて、あっちこっちを走り回り愛想を振り撒いている。

 それに対して観客席の反応も絶大だ。

 多くが喜びの声であり、ところによっては「キャー! カワイイー!」などと黄色い声援すら聞こえている。

 それに応えて炎牛ファラリスも、前脚を高々上げてさらなる愛想に余念がない。


「何やってるんだアイツは……?」


 僕の当然と言うべき疑問に、隣に座るヨリシロが答える。


「火の教団にお願いして、連れてきてもらいました。先代火の勇者が敗北し、現役火の勇者が倒した炎牛ファラリスこそ、新旧の優劣をもっとも明確に表したもの。それを戦いの前に披露するのは、相手側へのよい揺さぶりにもなりますわ」

「漢たるもの熱血たれ」


 いや、だからって……!

 なんでアイツあんなに迷いなく媚びまくりなんだよ……?


 そして、さすがに風の神クェーサーの転生者であるシバは気づいたのか。


「なあ、あのウシってもしかして……?」

「知らん」「気のせいですわ」

「でも、あの魂の波形たしかに見覚えが……!?」

「気にするな」「気にしたって意味のないことはありますわ」


 そう、僕は気にしない。

 アレがかつて地上を焼き尽くそうとした火の神ノヴァの成れの果てだなんて気にしない!


             *    *    *


 パフォーマンスも終わって今度こそ試合開始だ。

 再び司会のお姉さんによって、試合形式が説明される。


「試合は、五対五の集団戦にて行われます。新旧計十人の勇者が一斉に入り乱れての戦いです。各選手は一定条件で戦闘不能の判断がなされ、先に相手を全滅させた方が勝者となります!!」


 説明の直後に、闘技場の縁にいくつもの入場口が開く。

 全部で五個の入場門は、闘技場の外縁に均等に配置され、ちょうど五つの入り口を点として結べば正五角形が描けそうだ。


「新旧勇者の皆様には、前もって厳正な抽選が行われ、ランダムな入口から入場していただくことになっています!」


 ん?

 でも闘技場に開いた入場口は五つ。勇者は現役五人、先代五人を合わせての計十人。

 まったく足りなくない?


「五つある入場口から、新旧の勇者様方が各一人ずつ。つまり二人の勇者が一つの入り口から同時に出てきます! 入場と同時に試合開始です!」


 その説明に、僕たちの座る席で「なるほど」という声が上がった。


「これはランダム性にかこつけて試合を盛り上げる方策ですわね」

「え? どういうこと?」

「地水火風光、五属性が入り乱れるこの戦い。属性の相性をいかに利用するかが勝敗のカギを握ります」


 属性には得手不得手がある。

 火は風に勝ち、水は火に勝ち、地は水に勝ち、風は地に勝つ。そして光は他の四属性全部に少しずつ有利になる。

 そのルールはこれまでも何度か戦いに影響をもたらしてきた。


「この戦いでは特にそうです。いかに自分にとって不利な属性との戦いを避け、有利な属性へ攻め込み倒すか。それができた者がこの戦いを制します」

「たしかに」

「あの五つの入場口は、その戦いの特性を最大限表面化したものです。司会の説明通り、あの入り口から出てくる勇者が完全にランダムで決められたとしたら……」


 一つの入り口から二人出てくる。しかもその二人は敵同士。

 ならば一緒に出てきた者たちが最初に戦い合うのは間違いないだろう。

 その相手が自分にとって得意な相性か苦手な相性かが、運の良し悪しで決まるわけか。


 無論チーム戦なので、苦手な相手と一緒に出てきても凌ぎながら仲間と合流することもできるし、逆に得意な相手を釘付けにして各個撃破を目指すこともできる。

 そうした戦略を楽しむこともできるというわけか。


 企画の趣旨は理解できた。

 果たして五つの入口から吐き出される十人五セットの組み合わせは……!?


「ッ!? なんだと……!?」


 第一入場口、現役火の勇者ミラクと先代水の勇者サラサ。

 第二入場口、現役水の勇者シルティスと先代地の勇者ヨネコ

 第三入場口、現役風の勇者ヒュエと先代火の勇者キョウカ。

 第四入場口、現役地の勇者ササエちゃんと……、なんだあのボサボサ髪の女性は!?


 いや、そんなことよりも重要なのは、第五入場口のカレンさんとアテスを除けば、すべて図ったように現役勇者側に圧倒的不利な組み合わせじゃないか!!


「それでは、試合開始です!!」

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