179 決闘開催
「現役勇者と先代勇者の二つのチームに分かれ、決闘を行うのです。勝った方の意見が通るというのでは、いかが?」
「「「「「ええぇぇーーーーーーーーーーーーーッッ!?」」」」」
「「ええぇーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」」
現役勇者チームも先代勇者チームも揃って大驚愕。
平然としているのはアテスだけだ。
「意外ですわね。目標を達するためにいつも入念な準備を重ねるヨリシロ様が、そんな伸るか反るかの勝負に出るなんて」
「最後に勝つのは準備を怠らぬ人ではありません。状況の流れに逆らわない人です」
「どうでもいいですけれど。でも何故わざわざチーム戦にするのです? 決闘で白黒つけるなら、私とカレンさんの一騎打ちでもいいではありませんか?」
そう言われて脇にたたずむカレンさん。ビクリと肩を震わす。
「勘違いなさらないで、勇者同盟は今や五大教主全体の承認を得ています。勇者同盟を解消したければ、その全部を納得させなければいけないのです」
「それが慣れ合いだと言っているのですけど……。キョウカさん、サラサさん、そういうことですがどうします?」
「「うひッ!?」」
突如呼ばれてビックリしたらしい火と水の先代勇者。
「別に嫌なら出なくてもいいんですよ。ヒヨッ子の後輩ぐらい、私一人で容易く捻ってみせますから。鈍った腕で戦うのが怖ければ、観客席で大人しく震えていなさい」
「驕るなよ腹黒勇者! 他の半人前どもはともかく、我が妹弟子のミラクがそう簡単に敗れるものか! オレ様が出なければどうにもなるまいよ! 戦場があるならば暴れさせてもらう!」
「ケンカであろうと売られたものを買いませんと、ハイドラヴィレッジ商人の名折れですんで。シルティスさんがアイドル遊びにかまけて腕を落としていないか、たしかめるいい機会です」
ミラクとシルティスは、それぞれ「うわぁ」「うわぁぁ……!!」と顔をしかめた。
しかしあの先代水火の二人、光の腹黒先代に上手いこと操縦させられてない?
「では、話がまとまったところで今日はおいとまさせていただきましょう。どちらにしろ、その決闘を公式のものにするためには準備と時間が必要でしょうし。ねえヨリシロ様?」
「いいでしょう、時間と場所は追ってこちらからお伝えします」
今一度、バチバチッと火花を散らせ合って、ヨリシロとアテスは対峙を終えた。
部屋から去る前に、アテスはカレンの前で歩みを止める。
「カレンさん、そういうこととあいなりました。当日はお互い全力で戦い合うとしましょう」
「あっ、あの……!?」
「私は、アナタが光の勇者に相応しくないと思っています。この戦いでそれを証明するつもりです」
そう言ってアテスは、今度こそ部屋から出て行った。
それに続いてキョウカとサラサも。
「首を洗って待っておけよミラク。貴様のそのぬるま湯にふやけきった性根を、当日はカチコチになるまで叩き直してやる!」
「ウチも失礼させていただきますわシルティスさん。せめて恥の少ない負け方ができるように、今からアイドルの予定をキャンセルして訓練にでも気張りなさい」
と言い残して去って行った。
それを見送り現役勇者のミラクとシルティスは……。
「姉者……! あんなにザコオーラを垂れ流して……!」
「途中からヨリシロ様と光の先代勇者に当てられっぱなしだったからね。アタシら光に振り回されるのは昔からの伝統だったというの……?」
それでもミラクとシルティスが、カレンさんから振り回されるのはよい振り回され方だと思いたいが。
* * *
「……で」
嵐が去って光の大聖堂の談話室。
先代たちが去ったことでやっと人口密度も薄まる。
「加齢臭も薄くなって呼吸しやすくなったわねー」
「平均年齢も高騰していたのが通常水準に戻ったなー」
フヒヒと笑い合うミラクとシルティス。
そんなに先輩たちからかけられたプレッシャーがストレスだったのか。しかしそれは当事者以外も感じていたようで、ただ居合わせる形となった風の勇者ヒュエは……。
「いや緊迫していたな。拙者、話についていけずに途中から空気だった」
「風の勇者だけにな」
「風の勇者だけにね」
風の勇者だけに。
「しかしどうするんだよ? いきなり決闘なんて突拍子もなく言いすぎだぞ!?」
僕は先代勇者たちがブチ抜いた壁の残骸を片付けながら、決闘云々を言い出したヨリシロを難詰する。
そのヨリシロは優雅に紅茶など飲んでやがる。
「……これは予想できた事態です」
「え?」
「五大教団は、長らくいがみ合ってきました。教団設立初期は、神に捧げる祈りをより多くするために信者を奪い合い、教団間で戦争まで引き起こしました。モンスターとエーテリアルが現れてから対立は水面下に引っ込みましたが、それでも各教団の仲がよかった時期は一時たりともありません」
「でもそれが変わろうとしているんだろ?」
「そうです、ここにいる若き勇者たちの尽力によって、各教団の関係は急速に良好化しています。マザーモンスター、魔王という共通の敵を得たこともありますが、五大教団が一致団結して事に臨むなど歴史上一度もなかったことです」
しかしだからこそ。
「前例のないことに異議を唱える者は必ずいます。頭が固くなり、自分の知らないことをとにかく拒絶してしまう者。あるいは現状によって多大な利益を得る者。そういう人たちは自分たちの世界を守ろうと、環境の変化を必死で食い止めようとします」
「それがあの先代勇者たちだと?」
「あの人たちは、問題の表面に過ぎません。勇者とは教団の顔、引退した人でもその影響力は看過しがたい。現役の勇者が変化の中核にいる以上、それに反対する者は先代を担ぎ上げてくるしかない、ということです」
彼女たちを裏で操っている何者かがいるってことか……!?
「つまりこれは、どっちの道理が正しいかとか、そういう次元の戦いではなく……!」
「純粋な権力闘争」
実際、光の教団のみに限って見ても、枢機卿、大司教、極光騎士団長を始めとする上位騎士が何人もいて、それらの人々は生まれのよさによって高い地位を得ていたりする。
五大教団が協力してモンスターとの決戦が本格的となり、実力を示さなければならない状況が発生するだけでも、彼らは大いに困るだろう。
新しいシステムに変わることで、旧システムに慣れきっていた人々が直面する不満は、細かく数え上げればもっとたくさんあるはずだ。
「わたくしたちはモンスター根絶を目標とする戦いを始めました。そのためにこれまで敵同士であった勇者たちが手を結び、教団が和を成し合う。今まで成し遂げられなかったことを成し遂げ、偉大な一歩としたのです」
は、はい……!
「それでも前途は多難です。マザーモンスターより生まれた魔王と名乗る存在。その正体を見極めつつ、残ったマザーモンスターを見つけ出すため各教団総力を挙げていますが、まだ目新しい成果は出ていません。そんな最中に、モンスター側からではなく人間側から問題が起こった」
状況説明ありがとうございます。
「わたくしはこれを機に、和解に反対する者すべてを焙り出したく思っています」
「……あ、もしかしてヨリシロ様、そのために先代勇者どもに決闘を申し込んだんで?」
シルティスの質問に、ヨリシロは頷く。
「そうです。今回の黒幕たちは、先代勇者を勝たせるためにあらゆる手段を講じてくるでしょう。動いた者が敵です。我らが内側で蠢く獅子身中の虫どもです。皆さん」
「「「「「は、はいッ!?」」」」だす!」
現役勇者たちが揃って震え上がる。
「この戦い、避けることのできない災禍と心得なさい。アナタたちは勝って、みずからの正統性を証明しなさい。わたくしは陰敵を一人残らず見つけ出します。この困難を乗り越えて、また一歩平和へと近づくのです!」




