17 か弱き勇者
割とあちこち探した。
そして最後にカレンさんを発見したのは、光の大聖堂外部区画の一つ。例の小型飛空機置き場だった。
「あ、ハイネさん」
カレンさんは手に工具らしいものを持っていた。
「えっと……、整備ってヤツですか? その小型飛空機の?」
「ええ、一回飛んだらその都度見てあげないと、飛行中愚図りだしたら困りますから」
自分でそれをやるのかカレンさん。
騎士団を率いてモンスターと戦い、教団上層部との軋轢に四苦八苦しながら、機械の整備までこなすとは。
この人は何でも一人で出来すぎる。
「そういえば、お礼まだしてませんでしたよね? すっかり忘れてた。……私ってば、今日はホントにドジばっかり」
「礼言われるようなこと何かしましたっけ?」
「しましたよ、とてもたくさん。特に会議で庇ってくれたのは助かりました。ハイネさんが色々言ってくれなかったら、この子壊されてたかもしれないし……」
そう言ってカレンさんは、今は停止中の小型飛空機を優しく撫でる。
「でもあれは、本調子のカレンさんなら自分で何とかできたでしょう? あの騎士団長、カレンさんとまともにやり合えるタマとは思えないし。本当なら僕がしゃしゃり出る必要なんてありませんでしたよ」
「……そうでしょうか?」
「そうですとも。原因は、あの火の勇者ですか?」
カレンさんは無言だった。無言で小型飛空機の表面を撫で続けていた。整備はもうとっくに終わっているらしい。
「それを聞くためにここに来たんですか? お節介焼きですねハイネさんは」
「だから田舎村から引っ張り出してきたんでしょう。今さら後悔しても遅いですよ。悩みがあるならお兄さんに聞かせてみんしゃい」
ポフリと、カレンさんの頭部が僕の体に倒れ掛かってきた。髪の毛の柔らかさといい匂いが伝わってくる。
「えっ?」
いきなりなのでドギマギした。魂は闇の神でも肉体は十八歳の健全な男子。可愛い女の子には普通に反応する。
が。
「……うっ、……うぇぇ……」
髪の毛の隙間から漏れてくる嗚咽の声に、不埒な感情はすぐさま霧消した。
「うえぇぇぇ……! うえええええぇ…………!」
カレンさんが泣いている。
光の勇者と讃えられ、異形のモンスターにも果敢に立ち向かっていく彼女の、年相応の弱さがそこにあった。
ひとしきり泣き疲れるまで泣いた後、彼女はぽつりぽつりと語り出した。
溜め込んでいたものを最後まで吐きだすかのように。
彼女が泣きたくなった本当の原因は、今日のモンスター戦でのしくじりでも、騎士団長の心ない言葉でもなく、やはり彼女にあった。
火の勇者カタク=ミラク。
思えば彼女が現れた時からカレンさんの様子はどこか変だった。そのおかしさをずっと引きずっていた。
同じ勇者でありライバル。そんな彼女に手柄を奪われたことがショックだったのか、という僕の想像は違っていた。
「私、ミラクちゃんのこと知ってるんです。勇者になる前から。ずっと前から」
それはカレンさんの身の上話にも重なることだった。
今でこそ光の勇者として縦横無尽に暴れ回るカレンさんだが、幼少の頃は体が弱く病気がちだったという。
「意外でしょう?」と冗談めかすカレンさんだったが、僕はむしろ腑に落ちた。光属性700という極端な属性の偏りをもつ彼女。それが彼女の体にいい影響だけを与えるわけでは決してないのだ。
とにかくカレンさんは幼少時代、寝たり起きたりの生活を繰り返したという。
当然そんな生活では友だちもできず、幼い彼女は孤独だった。
しかしそれでもたった一人、友だちと呼べる人がいた。隣の家に住む、同じ年の女の子。
それがカタク=ミラクだった。




