表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/434

17 か弱き勇者

 割とあちこち探した。

 そして最後にカレンさんを発見したのは、光の大聖堂外部区画の一つ。例の小型飛空機置き場だった。


「あ、ハイネさん」


 カレンさんは手に工具らしいものを持っていた。


「えっと……、整備ってヤツですか? その小型飛空機の?」

「ええ、一回飛んだらその都度見てあげないと、飛行中愚図りだしたら困りますから」


 自分でそれをやるのかカレンさん。

 騎士団を率いてモンスターと戦い、教団上層部との軋轢に四苦八苦しながら、機械の整備までこなすとは。

 この人は何でも一人で出来すぎる。


「そういえば、お礼まだしてませんでしたよね? すっかり忘れてた。……私ってば、今日はホントにドジばっかり」

「礼言われるようなこと何かしましたっけ?」

「しましたよ、とてもたくさん。特に会議で庇ってくれたのは助かりました。ハイネさんが色々言ってくれなかったら、この子壊されてたかもしれないし……」


 そう言ってカレンさんは、今は停止中の小型飛空機を優しく撫でる。


「でもあれは、本調子のカレンさんなら自分で何とかできたでしょう? あの騎士団長、カレンさんとまともにやり合えるタマとは思えないし。本当なら僕がしゃしゃり出る必要なんてありませんでしたよ」

「……そうでしょうか?」

「そうですとも。原因は、あの火の勇者ですか?」


 カレンさんは無言だった。無言で小型飛空機の表面を撫で続けていた。整備はもうとっくに終わっているらしい。


「それを聞くためにここに来たんですか? お節介焼きですねハイネさんは」

「だから田舎村から引っ張り出してきたんでしょう。今さら後悔しても遅いですよ。悩みがあるならお兄さんに聞かせてみんしゃい」


 ポフリと、カレンさんの頭部が僕の体に倒れ掛かってきた。髪の毛の柔らかさといい匂いが伝わってくる。


「えっ?」


 いきなりなのでドギマギした。魂は闇の神でも肉体は十八歳の健全な男子。可愛い女の子には普通に反応する。

 が。


「……うっ、……うぇぇ……」


 髪の毛の隙間から漏れてくる嗚咽の声に、不埒な感情はすぐさま霧消した。


「うえぇぇぇ……! うえええええぇ…………!」


 カレンさんが泣いている。

 光の勇者と讃えられ、異形のモンスターにも果敢に立ち向かっていく彼女の、年相応の弱さがそこにあった。

 ひとしきり泣き疲れるまで泣いた後、彼女はぽつりぽつりと語り出した。

 溜め込んでいたものを最後まで吐きだすかのように。

 彼女が泣きたくなった本当の原因は、今日のモンスター戦でのしくじりでも、騎士団長の心ない言葉でもなく、やはり彼女にあった。


 火の勇者カタク=ミラク。


 思えば彼女が現れた時からカレンさんの様子はどこか変だった。そのおかしさをずっと引きずっていた。

 同じ勇者でありライバル。そんな彼女に手柄を奪われたことがショックだったのか、という僕の想像は違っていた。


「私、ミラクちゃんのこと知ってるんです。勇者になる前から。ずっと前から」


 それはカレンさんの身の上話にも重なることだった。

 今でこそ光の勇者として縦横無尽に暴れ回るカレンさんだが、幼少の頃は体が弱く病気がちだったという。

「意外でしょう?」と冗談めかすカレンさんだったが、僕はむしろ腑に落ちた。光属性700という極端な属性の偏りをもつ彼女。それが彼女の体にいい影響だけを与えるわけでは決してないのだ。

 とにかくカレンさんは幼少時代、寝たり起きたりの生活を繰り返したという。

 当然そんな生活では友だちもできず、幼い彼女は孤独だった。

 しかしそれでもたった一人、友だちと呼べる人がいた。隣の家に住む、同じ年の女の子。

 それがカタク=ミラクだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ