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175 問題発生

 光都アポロンシティと火都ムスッペルハイムは、比較的近い位置にあって隣街と言ってもいい間柄にある。

 そのため火都を本拠とする火の勇者カタク=ミラクは、たまにちょくちょく頻繁に光都を訪問しては、カレンさんと友好を深めている。


 が、その日の訪問は、一目見た瞬間からいつもと違うとわかった。

 彼女の表情が、あからさまに深刻だったから。


「ど、どうしたのミラクちゃん? ……呪われたの?」


 出迎えたカレンさんも開口一番そんなことを口走ってしまうほどだった。

 凄くどんよりした表情なのだ。

 ミラクと言えば、五勇者の中でもっとも剛毅で男勝り。その表情からは常に覇気が満ち溢れていたのに、今日に限っては気丈さも欠片もない。

 絶望に打ちひしがれたとでも言わんばかりだ。


 とりあえずヒュエと共に開いていたお茶会にミラクのことも迎え入れ、席につかせる。

 紅茶を淹れるものの、冷めてしまうまで一口も付けない。

 心ここにあらずと俯き、紅茶に映った自分の顔を、無言で見詰めるばかりだった。


「一体どうしたのだミラク殿は……? 知り合って間もない拙者ですら様子がおかしいとイージーにわかるぞ?」

「僕にもサッパリ……!」


 様子がおかしいのはわかるが、何故様子がおかしいのかはまったくわからない。

 そうして僕らが戸惑っていると、ついにミラクはポツリと一言だけ発した。


「カレン、ハイネ。助けてくれ……!」

「「え?」」


 いきなりのレスキュー要請。

 本当に一体何なんだ?


「拙者は? この席にはカレン殿ハイネ殿だけでなく拙者もいるのであるが?」

「この際ヒュエでもいいから助けてくれ……!」

「『この際』!? 『でもいいから』!? 新参者の肩身の狭さよ!!」


 ヒュエさん今は自重して。

 とにかく今は、ミラクから詳しい話を聞きたい。


「このままでは勇者同盟が立ち消えになってしまうかもしれん……!」

「ええッ!?」


 その告白に、カレンさんが真っ先に動揺した。

 地水火風光、五人の勇者が力を合わせてモンスターに戦うことを約した、名づけられて勇者同盟。

 モンスター災害への有効対策である上に、それまでいがみ合って来た五大教団の協調路線へのきっかけにもなった重大事業だ。

 最後のメンバーたる風の勇者ヒュエも迎えて、ついに本格始動となった矢先に、いきなり立ち消え?


「どど、どういうことミラクちゃん!? 火の教団は、教主様も勇者同盟に凄く前向きだったでしょ!?」


 カレンさんは勇者同盟の発案者とも言うべき人なので、とりわけ衝撃が大きい。

 モンスターを地上から根絶させるマザーモンスター討伐計画も進んでいる中、勇者同盟はますます重要性を増している。

 そんな中で立ち消えを仄めかされたら、僕だって戸惑うぞ!?


「当然だ……! 火の教主たる我が師匠は、最初から勇者同士の協力を称賛してくださっていた。だから教団内の反対派も抑えてくださっていた。……しかし、あの方だけは…………!!」

「あの方?」


 その瞬間だった。

 バターンと蹴破られるように開け放たれる、談話室のドア。


「カレンッちー!! ハイネッちー!! ちょっと聞いてよーッ!!」

「シルティスちゃん!?」


 水の教団を代表する水の勇者シルティス。

 ……が、いきなり泣きながら部屋に飛び込んできた!?

 そのままの勢いで泣きながらカレンさんに抱きつく。


「大事よ! 一大事よ! とんでもないことになっちゃったのよー!!」


 なんだ彼女までいきなり?

 談話室は、もはや混乱の坩堝と化してしまう。


「オイ! いきなり乱入してくるなアイドル女! 今はオレがカレンたちに重大な相談をしているんだぞ!!」

「そんなの後回しにしなさいよ男女! こっちの方がよっぽど緊急事態なんだからね!!」


 元々張り合うことの多いミラクとシルティスである。

 何やら双方厄介事を抱えてきて、我先にと火花を散らす。


「こっちの方が重大だ!」

「こっちの方が緊急よ!」

「「何しろ勇者同盟が立ち消えになってしまうかもしれないんだから!!」」


 …………!

 えぇー……!?

 まさか二人とも同じ危機に追い込まれて、僕たちのところまで来たの?

 一体何が起こっているの?


「し、シルティスまさか。お前のところも……!?」

「そう言うミラクッちも? どういうことよ、なんで今さらアイツがしゃしゃり出てくるのよ……!?」

「ウチだってそうだ! オレはもう過去の人だと思っていた。あの方は。思い出すことすらなくなっていたのに、今日になって突然……!!」

「死人が墓穴から這い出して来るようなものよー! 大人しく成仏してなさいよー!」

「まったくだ! 本当にまったくだ!!」


 わけがわからないが、言葉を超越した何かしらで意気投合したミラクとシルティスは、互いに抱き合ってわんわん泣き出した。


「協力関係になっても事あるごとに張り合っていたこの二人が、こんなになってしまうなんて……!?」


 ただごとじゃないぞ!?

 本当に一体何があったのか。愚痴だけ聞かされてもまったくわからないから、いい加減説明しろよと詰め寄ろうとした矢先。

 さらに変化が。しかも今日一番激烈なのが巻き起こった。

 ドゴーン! と僕たちのいる談話室の壁が打ち破られたのだ。


「ぎゃー!?」

「壁が壊れたーッ!?」


 しかも二ヶ所同時に。

 何!? 今日は本当に立て続けに何が起こっているの!?

 左右一つずつ、壁に空いた二つの穴から一人ずつ、計二人の何者かが入って来た。


「ほんに情けない。これが栄えある水の教団を代表する水の勇者の姿ですの?」


 と右の人が言えば。


「敵である他教団の勇者に助けを求め、挙句抱き合って泣き散らすとは、火の勇者はいつからそんな腑抜けになった?」


 と左の人が言う。


「シルティスさん」


 と右。


「我が妹弟子ミラク」


 と左。


「やはりアナタさんに勇者は荷が重すぎたようやなあ」

「お前が勇者を名乗るにはまだまだシゴキが足りなかった」


 現れたのは二人の女性。

 双方二十代の前半から中盤と思われる年格好で、放たれる気迫から只者ではないと即座にわかる。


「あ、あの人たちは……!」

「知っているんですかカレンさん?」

「昔チラッと見たことがあります、あれは二人とも、ミラクちゃん、シルティスちゃんが勇者になる前に、勇者だった人……!」

「え?」


 それはつまり……。

 先代勇者!?


「先代火の勇者アビ=キョウカさん。先代水の勇者ラ=サラサさん」


 つまりここ光の教団本部に。

 火と水の新旧勇者が揃踏みしたと!?

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