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171 神会談

「風の教主トルドレイド=シバは、モンスターの支配を受けていたのです」


 いきなり何を言い出す?


「風のマザーモンスター、ベルゼ・ブルズは、人の内部に入り込んで乗っ取り、自由に操ることができる。その機能は多くの方が目撃しています。風の教主シバも早い段階から侵入を受け、ベルゼ・ブルズの大群を『風の結界』としてルドラステイツに寄生させていた。そして今回、五大教団の教主が集結したのに合わせ、人類絶滅のための手駒にされた」

「いや、あの……?」

「風の教主シバは、モンスターに操られたまま風の教徒まで使い、事情を説明せぬまま襲撃させて、ベルゼ・ブルズによる五大教団全員への寄生を助けようとしました。……しかし、そこに現れた希望の光」

「ヨリシロさーん?」

「クロミヤ=ハイネさんは、その希少能力によってベルゼ・ブルズを一掃し、教主シバの体内に巣食う特別なハエをも粉砕しました。それによってシバは自分を取り戻し、ベルゼ・ブルズの討伐に協力。見事に危機を打ち破ることができました」


 …………。


「……で、どうでしょう?」


 どうでしょう? って言われても。


 あのおぞましきベルゼ・ブルズから魔王ラファエルとの連戦を経て一夜明け、僕たちはまだ風都ルドラステイツに滞在していた。

 さらに詳しく所在地を言うと、ここは教主シバの寝室。

 昨日の戦いで満身創痍となった彼は絶対安静でベッドに横たわっている。

 さすがに肉体強度の限界を超えた神力放出に、一時危なくなることすらあったが、僕とヨリシロが協力することによって何とか峠は越えた。

 今ここには、僕とヨリシロとシバの三人しかおらず、事実上の神会談だ。


「シバさん。これから五大教団は足並みを揃え、協力体制を確立していかねばなりません」


 光の女神インフレーションの転生者である光の教主ヨリシロが言った。


「にも拘らず一方的に攻撃を仕掛け、イザコザを引き起こした教団がある。これでは世界全体が次のステップに進むことができません。一方的に非を認めて謝罪するにしてもしこりが残りますし。何より何故あのような暴挙に出たのか動機を問いただされても本当のことは話せぬでしょう?」


 たしかに。

 すべては風の神クェーサーが千六百年かけて、人間に転生までして準備してきた挑戦の帰結です、なんて説明しても当たり障りがありすぎるなあ。


「すべての責任はモンスターに丸投げしてしまえばいいのです。そうして人の和が広がればこそ、あの疑似生命に存在意義があるというもの」

「…………」

「…………」


 僕もシバも、ヨリシロの発言に全面賛成しづらくなっていた。

 戦いの最中現れた、あまりにも異常な存在を思い出して。


「風の魔王ラファエルか……」


 モンスターの王を名乗り、人間を駆逐し、モンスターによる世界支配を謳ったあの存在。


「シバ、お前どう思う?」

「何故俺に聞く?」

「モンスターを生み出したのはお前ら四元素だろう。お前らこそがモンスターについて一家言あるんじゃないのか?」


 痛いところを突かれたのか、風の神クェーサーの転生者である風の教主シバは、少しの間考えをまとめるように黙ってから、口を開く。


「正直、想像だにしていなかった」

「モンスターが意思を得て、みずから行動目標を持つことがですか?」


 実際にラファエルを見ていないヨリシロは、いまだ半信半疑という風だ。


「モンスターはあくまで、神が信仰を保つために作り上げた憎まれ役。それ以上でもそれ以下でもない。だから自由意思などもって、神々の思惑から外れることがないよう、魂のない疑似生物として設定したのだ。それが……!」

「何事も思うようにはいかないのさ。百年と長いスパンを掛ければ、なおさらな」


 モンスターが四元素によって生み出され、百年。

 その間どれだけ個々のモンスターが生まれ、勇者たちによって倒されていったのか。

 何万か? 何億か?

 そしてその間、モンスターの根源たるマザーモンスターは個体としてずっと生き続けてきたのだ。

 そりゃ自分の意思ぐらい持つだろう。


「考えてみれば極々当たり前のことだな。どこの言い伝えかは忘れたが、ただの道具でも百年使い続ければ魂が宿るという。だったら疑似とはいえ生物のモンスターならなおさらだろう」

「まったくアナタ方四元素は、いつだって考えが浅いんですから」


 余呆れ顔のヨリシロ。


「うるさいな!! そういうのはノヴァかコアセルベートにでも言え! 浅い考えのまま行動するのはいつだってアイツらだろう。…………………………だが」


 興奮が傷に響いたのか、シバは表情を歪めつつベッドに深く身を沈める。


「ヤツらの凶行を黙認してきた俺にも非はアリか。……これで終わるか?」

「ん?」

「あの魔王という存在が、ラファエル一体で終わるか、ということだ。アイツは何とか倒すことができたが。それですべてが終わるとは到底思えん」


 そうだな。

 風の魔王ラファエルは、ベルゼ・ブルズの落し子。風のマザーモンスターが長い時の経過によって意思を備え、その意思によって自分たちの意味を問い、答えとして形にしたモノだ。


「もしベルゼ・ブルズ以外にも、同じ域に達したマザーモンスターがいるとしたら……」

「地のマザーモンスター、グランマウッドは既に消滅しましたが、いまだ火、水のマザーモンスターが残っています。わたくしたちが思う以上に、世界は深刻な事態を迎えているのかもしれませんね」


 世界の迷惑でしかないと思っていた神の走狗モンスターが、明確な人間の敵として進化を始めた。

 元々の目的だったモンスター根絶だが、これまで以上に本腰を入れてかからなければ。


「ではシバさん。光の教主として問わせていただきます。マザーモンスター、引いては魔王討伐について、アナタ方風の教団は……?」

「当然協力しよう」


 ベッドに入ったままながら、決断の下すシバの声は芯が通っていて堅固だ。


「俺がモンスターに操られているという建前を使うならなおさら、落とし前は付けなければなるまい。風のマザーモンスターも魔王も滅び去ったが。助けられることは多かろう」


 ベッドから上体を起こすシバ。病人のクセにジッとしないヤツだ。


「モンスターが変わりだしたように、人の世界も変わろうとしている。我ら風の教団も、そろそろ秘密主義の潮時だ」

「あら、それは風の教団が秘匿してきた様々なあれやこれやも公開してくださるということですか? 移動都市や風双銃など、風のエーテリアル技術は他教団の一、二世代先を行ってますものね。技術交流は大変助かりますわ」

「吝かでもないが、適正な代金をキッチリ払ってもらうぞ。技術の価値をもっとも切実に知るのも、我ら風の教団だ」

「うふふふふ……」

「ははははは……」


 政治的な会話をなさっておられる。

 こういう内容になると結局僕ハブられるんだよな。

 やっぱり羨ましい。僕も人類進化の初期に関わって街作りとかしたかった。


「……シバ、お前自身はどうするんだ?」

「俺か?」


 問いかけの意図を察し、シバは表情を暗くする。

 僕→魔王ラファエルとの連戦によって、シバの体はこれ以上ないほどに壊れてしまった。

 特に、ラファエルを抑えるために神としての神力まで発揮。それに人間シバの体は耐えられようがなかった。


「この体はもう使い物になるまい。元々は命と引き換えにするつもりだったのだから、儲けものとも言えるがな」

「何故全力を出したぐらいでボロボロになるのです? 肉体を神気と同調させたりとか、色々やりようはあるでしょうに」

「うるさいな! 同じ転生者でも二極と四元素ではできることの幅が違うんだよ!! こんなところでも差を見せつけやがってムカつく!!」


 せっかく治まりかけていたシバのコンプレックスが。

 しかし風の教主と勇者を兼ねるシバにとって、戦力の恒常低下は深刻な問題だろう。

 モンスターの戦いの際に先頭に立つのが勇者の務め、それを果たせないとなったら……。


「……実は、考えていることがある」

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