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170 争えば

「ダークマター・セット!!」


 帰還と共に放つ、反攻の言葉。

 大量の暗黒物質が、あの蝶々クソガキに叩きつけられる。


「ぐあはッ!?」


 全身に暗黒物質を浴びて、さすがのヤツも表情が苦悶で歪む。


「お前ッ? ……真っ先に逃げたヤツではないか!! 何故今更戻って……!?」


 と蝶の羽を生やした悪ガキは、僕――、クロミヤ=ハイネを見据えて言った。


「そう思っていたのか? こっちはお前のしでかしたイタズラの後始末に文字通りアチコチ駆けずり回って、やっと戻ってきたってところなのに!!」

「なんだとッ!?」


 ラファエルは暗黒物質塗れになりながら左右を見回す。あるものを探している。


「バカな!? 『四連災渦』が消えている!? 一つ残らず!?」


 恐らくはヤツが放った四つの竜巻のことだろう。

 一つ一つが大災害級。通ったあとをサラ地にしてしまう凶悪さでルドラステイツの街中を蹂躙しようとしたそれらを一つずつ追いかけて、暗黒物質で消滅させるのがどれだけ面倒くさかったか。


「お前が消し去ったというのか? 人間ごときにそんなことができるものか!? 我が渾身の神力を込めた『四連災渦』を……!?」

「ほう、一応渾身だったのか。だったらもうやることやって満足しただろう。このまま消えろ!!」


 魔王ラファエル。

 お前の失敗は、人間をとことん甘く見たことだ。

『いつでも殺せる』そう思っていたんだろう。

『時間を掛けてじっくり楽しんで殺してやる』とでも思っていたんだろう。

 その愚かさがお前を殺した。

 お前はすぐにでもここから逃げ去るべきだった。

 しかしお前は慢心によって大局を見誤り、カレンさんやヒュエやシバの必死の抵抗に手間取って、タイムリミットを使い切ってしまったんだ。

 お前の死神が戻ってくるまでの大事な時間をな!


「なんだ!? 何だこの力は!? 消される? 私の無敵の神力が消されてしまうぅ~!?」

「この程度で無敵だなんて思っているとは、まさしくガキだな!」


 暗黒物質が、益々ラファエルを包み込む。

 今はまだ風の神力による抵抗が激しいが、このまま力押しで潰させてもらう!


「油断するなハイネ!」


 シバの叱責が飛ぶ!


「ヤツはベルゼ・ブルズの能力を継承している! 体を細かい虫に変えて分裂回避することができる! 一匹でも逃せば、ヤツの息の根を止めたことにはならんぞ!!」

「ッ!?」


 そんな能力が……!?

 なるほど、ならもっと念入りに一部の隙間もなく暗黒物質で覆わないとな。

 そう思っていると、僕よりさらに外側から、周囲を包み込むような神気が。


「……シバ!?」


 なんとシバが、ラファエルを包み込む暗黒物質をさらに外側から風の神気で包み込んだ。

 水も漏らさぬ二重の包囲。


 しかしシバの体は、間近で見ればなおさらボロボロで、限界なんてとっくに超えていることがわかる。

 その体で、まだ神力を放出したら……!


「これは俺のけじめだ……! モンスターなどを無責任に生み出したのは俺たち四元素。その挙句の果てであるコイツを滅し去るのに、貴様一人だけを働かせては神の沽券に関わる……!」

「お前……!?」

「最後まで気を抜くなよ……! コイツの親であるベルゼ・ブルズの特性を考えれば、肉片一欠けらでも残せばコイツを滅したことにはならない。コイツも必死だ。どんなに小さな隙間からでも分身を通して逃げようとするから、完璧に封じ込めるんだ!!」

「……わかった」


 元々塵も残さず消滅させるのは暗黒物質のもっとも得意とするところだ。

 その特性を惜しげもなく発揮して、ご注文通り、ラファエルを完全滅殺する。


「何だこの黒い物質は……? 魔王である私が知らない力? そんなものがあるというのか……!?」


 ラファエルはいまや体のほとんどを暗黒物質に覆われ、外に出ているのは顔ともがく手足。そして蝶の羽の先端のみ。

 その露出部分を小バエに変えて逃げ去ろうとするものの、さらに外側から圧するシバの空気流に阻まれて脱出不可。むしろ小さなハエになったがゆえに強風に押し流され、暗黒物質に押し沈められる。


「……やめろ! やめろ! お前たち、自分がどれほど罪深いことをしているかわかっているのか!?」

「?」


 もがきながら叫ぶラファエル。


「私は魔なるモノの王だぞ! 魔王だぞ! モンスターが築く新時代の導き手として、私は絶対必要な存在なのだ! その私を滅し去ることが、どれだけの損失かわかっているのか!?」

「コイツ……!!」

「お前たち人間の時代は終わったと何故理解できない!? 老害は静かに消え去るべきだ! お前たちが消えるべきだ我々ではない! 我々は今日ここから、栄光の時代へと歩みだす……!」

「勝手なことを言うな!!」


 放たれる暗黒物質の追撃が、ラファエルの顔も両腕も覆い、埋め尽くした。

 シバの全方位圧縮空気が、目に見えない小ささのハエでも逃がさず捕え、暗黒物質の塊に向けて押し戻すだろう。

 もはや魔王ラファエルに死あるのみ。

 暗黒物質を通した感覚が、その中にあるものを少しずつすり潰し、消滅させていくのを知らせた。

 中身はどんどん小さくなり、人の形を失い。小さな小さな一粒になって。それでも容赦なく。すべてを消し去った。


「共存できないなら、どちらか一方が消えるまで戦うしかない。負けて消えるのはお前らだってこともあるんだ。戦いを始める前にそれぐらい理解しておくんだったな」


 魔王ラファエルは消滅した。

 それこそ肉体の一片も残さずに。そして役目を終えた暗黒物質も僕の意志に従って虚空へと消え去っていく。

 すべてが消え、何事もなくなったか床の上。

 僕とシバの二人だけが向かい合う。

 遠くでカレンさんとヒュエが見守ってくれているが。とにかく、とちらから先に動いたのかはわからないが、すべての終わりを告げるために僕とシバは右手を上げて。

 頭上で強く叩き合った。

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