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169 風至れば道成る

 パンッ! という音がそこら中に響き渡った。

 弾丸の代わりに放たれたのは、私がヒュエさんに託した光の神気。

 あらゆる他属性に、少しだけ優位性を持つ光の力は、期待通りにラファエルが常態的に張り続けている風の防壁を貫通した。

 急所である頭部へもぐりこみ、内部から爆散して、敵の頭そのものを吹き飛ばした。

 残った頭以外が、依然として宙に浮いているが、凄まじいプレッシャーも、風の防壁も消え、シバさんへ向けて放たれていた圧縮空気もやんだ。


「……やった? ………………やったの!?」


 それを理解できるまでに、私もヒュエさんも数拍の時間を要した。

 やがて達成感というか勝利の実感というべきものが、全身に少しずつ染み渡ってくる。


「やった! 倒した!」

「やった! やった! やった!」


 私とヒュエさんは抱き合いながら成功を喜び合ったが、ヒュエさんはすぐにもっと気遣うべきことを思い出す。


「兄上様! ご無事ですか!?」


 実兄であるシバさんの下へ駆け寄るヒュエさん。

 神気の大放出もする必要がなくなったシバさんは、今は力を抜いて、ただ呆然としている。


「貴様ら……!?」

「兄上様!」


 ヒュエさんが駆け寄ると、シバさんは力なくその方向へ倒れる。ヒュエさんは慌ててお兄さんを支え、私も追いかけて一緒に支える。

 ……シバさんは、体中の表面がカサカサに乾いて、今にも崩れ去ってしまいそうだった。

 人間の耐久限度を超える神気放出が、ここまで体を痛めつけるなんて……!

 本当なら、神具の共鳴増幅作用なしであそこまでの神気を放出できること自体ありえないことなんだ。

 私の記憶でも、戦闘に堪えうるだけの攻性神気を神具なしで操れるのは、ハイネさん、ヨリシロ様、ドラハさんの三人だけ。

 シバさんも、間違いなくその領域に足を踏み入れた一人だ。

 そしてその事実がなおさら、そんなシバさんをここまで痛めつけた魔王ラファエルの恐ろしさを連想させる。


「…………貴様たちに助けられるとはな。俺もヤキが回ったか」

「兄上様。……この人のおかげですこの人が拙者を支えてくれたおかげで、心を定めて撃つことができました」


 ヒュエさんの視線が私の方を向く。

 ん?


「人と人が支え合って、人、か……」


 いやあの、私は別に。命中したのはそれこそヒュエさんの射撃能力の高さがすべてというか。


「ヒュエは、技術は既に完成の域にあったが、心にまだまだ脆さを抱えていた。肝心の局面では必ず余計なことを考えて、心を揺らし、指先を揺らし、的を外す。しかし今日この時をもって、貴様はそれを克服したようだな」

「兄上様……」

「俺の知らぬところでも、人は常に成長している。自分自身の歴史を積み重ねている。だから人は面白い」


 ヒュエさんと寄り添うシバさんは、それ以前とはまるで違う温かみがあって、教主として完成された人格のように思えた。

 でも多分こちらの方が、真の風の教主トルドレイド=シバさんなのだろう。


「茶番はそこまでにしておけ人間ども」


 ――ッ!?

 えッ!?

 ゾクリとした寒気に振り返ると、そこにはいまだ首のない魔王ラファエルの体が空中を漂っていた。

 死んだ……、よね?

 もう頭がないのに。人間であれば完全に致命傷なのに。人間なら……。

 でもアイツは人間ではなく、モンスター。


「……学ばせてもらった。人間は、取るに足らぬ虫けらと言えども、放置しておけば何をしでかすかわからん。いかなるカスも、この万能の力をもって消し尽さなければならない。モンスターの新時代を築くためには」

「不死身か……! 貴様……!」


 頭を吹き飛ばされても死ぬことのないラファエルに、シバさんも戦慄しているようだ。


 そうこうしているうちに不可解なことが思った、

 吹き飛ばされたラファエルの首、その断面辺りに黒いモヤが現れたと思うと、そのモヤが集合し、体を形作っていく……!?

 そして最後に、ラファエルの頭部は吹き飛ばされる前と寸分たがわず元通り。

 綺麗に再生した……!?


「貴様……! その力は……!」

「お察しの通り。母より引き継いだ我が能力の一つだ。私は自分を形成する細胞一つ一つを虫に変化させることができる。仮にこの体すべてが爆散したとしても、散らばった細胞がハエにでもノミにでもなり、集まって再生することも可能というわけだ」

「つまり貴様を真に殺すには、細胞一つも残らず潰し尽すしかないというわけか……! バケモノめ……!!」


 そんな……!

 それは風のマザーモンスター、ベルゼ・ブルズと同じ、いえ、それ以上の力……!?


「今の狙撃でけっこうな量の細胞が破砕してダメになってしまったがな。しかしそこまでが限界だ。お前たち矮小な人間には、私を傷つけることはできても殺すことはできない。それこそ絶対的な種の差だ」


 ラファエルが手をかざす。

 今私たちはシバさんを支えるために集まっているので、敵としては一挙に押し潰すことが可能だろう。

 相手との力の差を考えて、さっきの不意打ちが最初で最後のチャンス。

 もはや油断もしないラファエルを倒すことは私たちにはできない。

 私たちには。


「でもアナタは肝心なことがわかっていない」

「何?」


 私は言う。


「アナタが本当に恐れるべき相手が誰かということを。アナタは今、生きるか死ぬかの瀬戸際にいるということを。アナタはそれもわからず悠長に体を再生させて、私たちを侮り嬲り、貴重な時間を私たちに進呈してくれた。アナタの命数は、それで尽きたんです」

「何を言っているのか、意味がわからんな」


 ラファエルの手に、神気が集中していくのを感じる。

 それを空気に伝播させ、巨大圧縮空気で私たちをまとめて押し潰すつもりなのだろう。

 でも……。


「わからないのは、お前が生まれたばかりで何も知らないからだ」

「!?」

「だから僕が教えてやる。絶対的な力に押し潰される恐怖を。力を誇るだけの者は皆、もっと強いヤツに負けて消えるだけの弱者に過ぎないということを」

「なッ!?」

「ダークマター・セット」

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