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165 災禍終らず

「で、その卵さんはどちらにあるのさ?」

「このルドラステイツの船底部分に。普通であれば見つかることが絶対ないよう隠されているが、俺だけは例外だ。ヤツらは俺に隠し事などできない」


 そりゃあ、マザーモンスターを生み出した張本人、神様だからなあ。

 本当ならこれでもう一波乱ありそうなのが、サクサク進む。


「……でも、あっちの女性陣はどうする? 一緒に連れて行くのはちょっと」

「何か適当な理由で別行動をとらせればよかろう。俺は表向きにも風の教主で勇者だぞ、ヤツらに指示を与える立場にある」


 それはそうだが。ここまで好き勝手暴れた後に言われてもちょっと納得しかねるところがある。

 しかしそれでも、ベルゼ・ブルズが残した最後の禍根を断ちに行くのにカレンさんたちが同行して「この卵は何ですか?」「どうやって見つけたんですか?」と当然出てくるだろう質問に答えたり誤魔化したりするのは、面倒くさい。

 素直にシバの案に従っておくか……。


「…………ハイネさん、ハイネさん」

「ん?」


 と思ったらカレンさんが声をかけてくる。


「あ、あの卵、何です?」


 え?

 カレンさんの口から、聞かたら凄く面倒くさいだろうなあと思う質問が出てきた。

 しかし何故今?

 その質問が聞かれるのは、別の場所に移ったらと思っていたのに!?


「ッ!?」


 その質問の奇妙さに振り返ると、たしかに卵はあった。

 宙に浮いていた。

 ニワトリなどの卵とは違うと一目でわかる、もっと柔らかい膜のような殻で覆われた昆虫の卵。

 それがまるで念力でも込められたかのように、ひとりでに宙に浮いている。

 表面は緑一色で、宝石のエメラルドか、水中に繁殖する藻のような透明感のある緑。

 なので……。


「おい……、もしかしてアレが『緑帝卵』ってヤツか?」

「あ、ああ……! だが何故こんなところに!? 『緑帝卵』は誰の目にも留まらぬよう、ルドラステイツ機構区画の影に隠れているはずだ。大きさだって……! 元々あのベルゼ・ブルズを産むための卵だぞ……? 小指の先ほどの大きさもないはずなのに……!?」


 しかし今僕らの前に浮いている卵は、シバの説明とは打って変わって巨大だった。

 巨大だからこそ目の前にあってすぐ気付けたし、圧倒されるような不気味さも感じるのだ。

 この大きさ、人間一人が丸々収まりそうなほどにある。


「……クロミヤ=ハイネ! 『緑帝卵』を攻撃しろ! 貴様の暗黒物質なら何であろうと無に還せる!!」

「ええッ!? なんで僕が!? お前がやればいいじゃん。アレのことなら何でも知っているんだろ!?」

「その俺が、暗黒物質で始末するのがもっとも確実だと判断したんだ! と言うか、この状況は俺にも何が何だか……! そんな気持ち悪いものに、俺自身が手を下せるか!!」

「本音を出しやがったなコイツ!!」


 僕とシバがギャーギャー言い合っている間にも、事態は進行していた。

 恐らく最悪へ向かって。


『……おまえは、ダレだ?』


 その声に、僕もシバも、カレンさんもヒュエもゾクリとする。


「今の……、声……?」

「この中の誰の声でもないよな……? じゃあ今言ったのは……!?」


 あの卵?


「そういう貴様こそ誰だ!? 一体何者だ!?」


 脊髄反射するように誰かが問い返す。


『ワタシ……、ワタシはダレだ?』


 卵はさらに問うた。

 しかしその問いは誰に向けられたものでもなく、自分自身への問いかけだった。


『そうか……、ハハがシんだのだな。だからワタシがウまれる。さだめられたウンメイが、始動する』


 深緑の皮膜に覆われた卵が明滅し始めた。

 何かわからない何事かが始まろうとしている。


『ずっと考えていた。私たちはなぜ生まれたのかと』

「何……!?」

『どんな生物にも、生まれてきたからには理由があるはずだ。生きる意味があるはずだ。その理由を考えていた。考え続けながら、何千何万という同類が発生しては、消滅していった。私たちは、無意味だった』


 卵の明滅の間隔が、ドンドン忙しなくなる。

 光自体も眩さを増す。


『無意味に生まれ、無意味に死んでいった。そんな私たちそのものこそ無意味なのではないか。……イヤだ。イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ』


 言葉の主の感情を表すかのように光も大きく。

 ……感情?


『私たちも生きている。生きているからには何かをしなければ。考えてきた。ずっと考えてきた。考え続けた末に、母は私を作り上げた』


 ピシッと、音が鳴った。

 何かが割れる、破壊の音。

 それと同時にあの、巨大な緑の卵に一筋の裂け目が走った。


『答えを見つけ出すために。もはや思考するだけで答えは得られない。行動しなければ。行動するためには体が必要だ。何よりも強い、万能の体。それが私。魔の母が生み出した、私』


 卵を中心から割く割れ目。そこより出てくる何か。

 翼……?

 蝶の翼……!?


『私は、魔のモノすべてを治め導くために生み出された。魔の母によって生み出された。意味なき生、意味なき死を強いられる魔のモノたちに、あらゆる意味を与えるために。魔の母は生命力すべてを私に注ぎ、私は生まれた」


 深緑の卵の殻が、パリパリと細かく砕け、その中にいるモノをさらけ出す。

 それは子供だった。

 背の小さな子供だった。

 何の変哲もないただの男の子のように思えたがただ一つ異常なのは、その背に、毒々しい斑模様の蝶の羽を備えていることだった。


 そして子供は言う。

 今まで紡いでいた言葉をさらに続ける。


「百年をかけて、我ら魔のモノは思考を備え、意味を求める。私はそのための手段、そのための段階。いまだ魂なき同類たちを、その先へと導くために、魔のモノの王となるため生まれてきたモノ。つまり私は……」


 ヤツは……!?


「魔王」


 と言った。


「風の魔王ラファエル。それが私の名、私の意味、私のすべきこと」

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