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157 狙撃手

「凄い……!?」


 私――、光の勇者コーリーン=カレンは上空を見上げ度肝を抜かれた。

 ハイネさんのあまりにも滅茶苦茶なやり方に。

 私はてっきり、このルドラステイツの中を走り回って風の教主のシバさんを見つけ出すのかと思ったのに。

 まさか上へと飛んでいくとは……!?


「いぶり出し作戦、といったところでしょうね」


 教主にして友だちのヨリシロ様も、私と並んで空を見上げる。

 上空はさながら、黒い龍が黒雲を斬り刻んでいるかのような様相だった。

 二度と目撃することはないだろう、と思うほど凄まじい異景。


「いぶり出し……」

「あのマザーモンスターは、シバにとっても大事なものであるはず。それを全滅させられそうになれば彼も出てくるしかありません。地道に風都内を探し回るよりは手早く済むでしょう」


 手早くといっても、それができるのは世界中探してもハイネさんただ一人かと。それ以前にあの小型モンスターの大群を正面から倒せるのがハイネさん以外にはいないかと。

 気を付けていないと、いつの間にか感覚がマヒしてそうだ。


「ですがハイネさんが、ああしてお空で暴れているのにはもう一つ理由があります」

「え?」

「簡単なことです。ああしてハエたちの本陣で暴れ回り、数を減らせば、それだけ地上に降りてくるハエも少なくなる。その証拠に、わたくしたちの周囲にもほとんどいませんでしょう?」


 そう言えば……。

 いまだにミラクちゃんが踏ん張って炎出しているけど、それを差し引いても周りにまったく黒煙の気配はない。


「ハイネさんは、ハエたちの人間たちへの侵食が少しでも止まるようにと、あそこへ攻め込んだのです。……さあ、ハイネさんの気遣いを無駄にしてはいけません。一刻も早く都市から脱出し、外の光騎士たちと合流するのです」


 私たちの護衛として同行してきた極光騎士団の光騎士たちも、風の教団から出された条件のために都市外に待機し、今はハエたちの攻撃を受けているはずだ。

 業炎闘士団も、流水海兵団も、焦土殲滅団も、そう。


 早く彼らの下に戻って、勇者としての務めを果たさないと!


「皆、急ごう! ……って?」


 勢いづいた矢先、皆の様子がおかしいのに気付いた。

 急いで戻らなきゃ、と何度も言っているのに。皆動こうとしない。


「どうしたの? 皆キリキリ動こうよ! 今や砂時計の砂は砂金より貴重だよ?」

「動かないでッ!!」


 いきなりシルティスちゃんに怒鳴られた。

 何もそんな大声出さなくても……!?


「……わかってるわよ。アンタは愛しの王子様に夢中で気づかなかったのよね?」

「えッ!?」


 愛しの……! 愛しの、って……!?


「ササエッち、ちょっとそれ貸しなさい」

「あぁん、オラのおやつーッ!?」


 シルティスちゃんが、ササエちゃんのポケットへ無断で手を突っ込み、引き抜く。するとシルティスちゃんの手の中にはアポロンシティで広く販売されている、袋入りスナック菓子。

 それを、前へ放り投げるシルティスちゃん。

 すると……。


 バァン!! バンバァンッ!!


 と鼓膜を貫くような轟音と共に宙を舞う菓子袋が、四分五裂に千切れ飛ぶ。


「ッ!?」

「ぎゃーす!! オラのおやつーッ!?」


 泣きわめくササエちゃん。

 さすがにあそこまで粉々にされたら、あとで光騎士さんたちが美味しく頂くこともできそうにない。


「仕方ないじゃない。まさか人間で実演するわけにもいかないでしょう。……誰かがどっかから狙ってる。そんで、アタシたちがここから脱出するのを阻止しようとしている」

「阻止……? 狙うって……!?」

「アンタ、なんでいまだにミラクッちが火ぃ出しまくってんのかわかってないでしょう? 本当恋の相手しか見てないんだから! おーい、ミラクッちー。やっぱこの子アンタのこと眼中にないわー」

「やめろよ悲しくて火勢が弱まるだろ!!」


 ミラクちゃんが悲しそうに叫んだ。


「もしかして……、ミラクちゃんがハエの煙もないのにいまだに火を出してるのって……!?」

「目くらましよ。どこから狙ってるかわからない狙撃手に対してね」


 狙撃。

 今ササエちゃんのお菓子が粉々になったのは、誰かがどこかから撃ち抜いたから?

 さっきハイネさんとの戦いで、風の教主にして勇者シバが使っていた空気弾のような……!?


「まさか!? シバさんが直接!?」

「どうでしょうねえ? ハイネッちたちの言うことが的確だとすれば、勝ちを守るために身を隠した優男が、すぐさまノコノコ出てくるとも思えないし。スタイルが微妙に違う気もするのよねえ」

「スタイル?」

「あのイケメン野郎は、飛び道具といっても正面からぶつかって、格闘を交えながらゼロ~ミドルの間合いで戦ってた。でも、今アタシたちをどこからか狙っている誰かさんは、恐らく超ロングレンジからの精密狙撃」


 なるほど。

 シバさんがスタイルを変えてきたという可能性もないではないけど、現実性は薄いかな。


 辺りを見回してみる。

 訓練用の開けた闘技場に遮蔽物は少なく、しかもその周りに尖塔がいくつもある。

 あの中のどれかから潜み、狙っているのだとしたら……。

「ミラクちゃんが炎をあちこちに広げているのは、目くらましと防壁を兼ねて……。撃ち込んでくるのがやっぱり空気弾なら。相性の問題で火が有利だもんね」

「やっと相性の優位性を活かせるシチュが来たわよー。でも、全体的に見て状況はかなり悪いよねー」


 ミラクちゃんの炎が壁を作ってくれても、そこから少しでも出れば狙撃される。

 相手の目的は、私たちを外の人たちと合流させないこと。……いや、私たちを脱出させないこと?


「どちらにしろ、一体誰が、こんなことを仕掛けて……?」

「そりゃあさ、思い当たるのは一つしかないじゃん」


 シルティスちゃんは、アイドル時ではない勇者モードの時によく浮かべる蓮っ葉な笑みを浮かべた。


「ここは風都ルドラステイツ。そこを本拠にする風の教団の武力。旋風遊撃団よ」

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