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149 神の極限

『僕を……、倒す……?』


 魂を揺らす会話を、闇の神エントロピーである僕――、クロミヤハイネと、風の神クェーサーであるトルドレイド=シバは続けている。


『それがお前の目標だっていうの? 何言ってんのバカなの? お前らは既に、千六百年も前に僕のこと倒したじゃん』

『あんなものが勝利だと? バカのノヴァやコアセルベートは騙せても、この俺の目は誤魔化されんぞ』


 クェーサーは一区切りし、強調するように言った。


『貴様はわざと負けた』


 千六百年前の神々の戦いで。


『貴様は本来、五人の神が束になってかかっても撥ね返せるほどの力を持っているのだ。光の女神インフレーションがいることも関係ない。貴様は本気になればアイツにだって勝つことができるはずだ』

『何故そう思う?』

『千六百年前の戦いで、本気になって戦ったのが俺だけだったからだ』


 思い起こされる、今より遥か昔、出来たばかりのこの世界で繰り広げられた神々の戦いは想像を絶する規模で、空を裂き、地を砕いた。

 しかしそれでも、神々はまったく本気で戦わなかった。

 元々争いが嫌いなマントルは当然のこと。ノヴァやコアセルベートも、僕への絶対優位性を持つインフレーションにさえ任せておけばいいと、目に見えて手を抜いていた。

 肝心のインフレーションすら、本当は僕の敵になりたくないという真意から攻撃は遠慮がちになり、戦い自体はとてもグダグダなものとなった。

 その中でコイツだけだった、僕に本気で挑み、僕に本気で勝とうとしていたのは。

 風の攻撃すべてが暗黒物質に阻まれて届かなかったため、気づきづらかったが。攻防の最中、コイツの瞳だけが本気で輝いていたような気がする。


『貴様のような絶対強者にとっては本気で戦う俺も、手抜きで戦うコアセルベートらも、取るに足らぬという意味では同じなのだろうな。だから、ただひたすら戦っただけの俺のことを何も覚えていないと抜かす』

『うあー……』


 どうしよう、ぐうの音も出ない。

 もしかして僕はアイツのことを知らぬ間に酷く傷つけていたんだろうか?


『俺にとって人間などどうでもいい。自由にさせようと隷属させようと知ったことか。しかし戦い自体には胸が躍った。神の頂点に立ち、神の何たるかを究極に体現した闇の神エントロピー。貴様を倒し、乗り越えることで、俺自身もまたその頂に立てると思ったからだ』

『いや、僕は別に……!』

『しかし貴様は! ロクに戦いもせず、みずから我らの軍門に下った! そして封印の虜となり、千六百年もの眠りにつくことになった。その時の俺の落胆がわかるか! 究極の一たる神の支配者が、あのような腑抜けた様を晒すとは!!』


 …………。

 たしかに僕にとって天敵たる光の女神インフレーションにも、勝てる手段は実はある。

 ブラックボール砲だ。

 僕の最強の攻撃手段たるブラックホールは、暗黒物質の第二特性たる重力を極限まで高める。極限まで高められた重力は、光すらも逃さず捕える。

 仮にインフレーションがブラックホールに対して光の神気を放ったとしても、核となっている超々圧縮暗黒物質に届くより早く超重力によって光は捻じ曲げられ、シュワルツシルト半径に永遠に閉じ込められることになるだろう。

 だがそこまでやるには生半可なブラックホールでは足りない。

 少なくともマントルを消し去ったマイクロ・ブラックホールの数倍の質量が必要となり、そんなものを作りだせば最低でも世界は半壊するだろう。


『……お前の言う通り、千六百年前の戦いで、僕が勝つ道はあった。しかしその道は、同時に世界を崩壊させる道でもあった。人間を守るために戦いを選んだ僕が、そのために人間を消し去っては本末転倒じゃないか』

『惰弱!!』


 クェーサーは一言の下に切り捨てた。


『惰弱、惰弱!! それを惰弱というのだ!! 神とは世界の頂点、その神の頂点こそ貴様だ! あまねくすべての上に立つ者が、何故下にあるものを気遣わねばならぬ! 下は上のために死すべし! 最上たる貴様がその順序を破ったがゆえに、この世界は歪んだ。ノヴァやコアセルベートのようなクズが我が物顔となる世界になった』

『クェーサー。お前……!』


 そんなことを考えていたのか。


『俺もまた神だ。世界の上位に立ち、世界を蹂躙する神として存在するからには、その在り方を突き詰めんとするのは当然のこと。そして幸か不幸か、究極の神となるためにもっとも明快な目標が俺には用意されていた。貴様だ闇の神エントロピー』

『僕かよ』

『貴様が千六百年前無様を晒し、封印に閉ざされる様を見ながら俺は誓った。いずれ貴様は復活する。その時までに力を蓄え、いずれ復活した貴様を我が単独の力で破り、俺こそが究極の神となってやろうと』

『だからか?』


 僕は問うた。


『だから人間に転生したのか? 僕を倒す力を手に入れるために?』

『……俺にとってさらに不愉快なことは、俺に貴様の封印を解くことはできないということだった』


 僕の質問は無視するようだ。


『いくら時の経過で弱まったと言えど、単独で貴様の封印を解くなどという芸当は光の女神インフレーションにしかできぬ。貴様が神の王ならば、ヤツはまさに神の王妃。俺はヤツにすら及ばない』


 どこか遠くから、ピコーンピコーン光る気配が伝わってきた。

 ……王妃とか言われて喜んでいるのか?


『俺は待つしかなかった。貴様の方から俺の前に現れることを。そしてついに、それが現実となった! わかるかエントロピー! 俺がこの日をどれだけ待ち望んでいたか! 俺の研鑽が、俺の執念が! 実を結ぶ時が来た!』

『おいッ……! クェーサー……』


 しかし僕の言葉も聞かず、クェーサーの魂を宿した人間は荒ぶり昂る。


「フハハハハハ!! ではそろそろ戦いを再開させようじゃないか! しかしさっきまでの小手調べと同じだなどと思うなよ。風の神クェーサーが、風の教団が! 千年を超えて培ってきた風の神闘術と人体極活術、そしてエーテリアル機械研究の融合! それが究極を倒すために模索した末の答えだ!」


 もはやこの戦いは、トルドレイド=シバがクロミヤ=ハイネの実力を計るための模擬戦の範疇を超えていた。

 風の神クェーサーが闇の神エントロピーに全身全霊を懸けて挑む戦いになっていた。

 風が荒れ狂う。

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